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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
2篇 青春!? ヒロインカルテット
15/18

2-4 仲良くしようよ鬼退治

 名を【ステアスクラル】。大仰しい巨大な十字型の剣は超重量にて敵を圧砕、両断し撃滅する。近代的で綺麗なフォルムとは裏腹に凶悪な兵器だ。


 悠々とそれを右手で振りかぶるくるみは、余る左手にて標的を狙う。右足を大きく引き、巨剣を掲げるこの構えこそくるみの戦闘体勢。


 そこからの、迷うことなき鋼鉄の投擲。



「ふんぬぅぅうああ!!」


「おお!?」



 大砲を発射したような爆音共に飛来する十字剣。鮮やかなオレンジの残像を軌跡にして悪を切り裂く刃。


 だが、鬼は驚きながらもその剣の腹を剛脚にて蹴り上げた。激しい火花を弾かせつつ、十字剣は宙へ打ち上げられる。


 轟音が響き渡るのも束の間。ビュンと、風を靡かせてくるみの姿が掻き消える。────速い!


 その姿は、一瞬にて距離を縮めて鬼の股の下に現れた。閃く刃、両手に構えた黒塗りのダガーが鬼の両足の腱を食らう。


 高い金属音。刃は機甲の肌には通らない。ダガーはその赤黒い肌に傷一つ付けることはできなかった。



「はっはっはっは。痛くも痒くもないぞ。だが以前よりスピードが上がったようだな。────どれ、飴をくれようぞ」


「うーっ!! 頭撫でるなぁ~~っ!!」



 ──────あれ、じゃれてるんじゃないのかな。気のせい?


 異質な世界とは言え人の家。民家の屋根から静かに降りて塀の影へ。澪は戦闘(?)の様子を隠れて窺う。


 その胸元にて、刀剣と指輪のアクセサリーと化している相棒が状況を分析している。澪自身の視覚とリンクしたソウドが難しい計算やら推測を賺さず口にした。



『どうやらくるみさんは完全な生身かと。魔法や異能が発動している気配は無いです』


「やめてー、くるみが人間じゃないみたいだよ。あの人懐っこいくるみがぁぁぁ……!」


『答えは否です。くるみさんは人間の持つリミッターを独自に外しているのでしょう。故にあの体躯で何倍ものパワーとスピードを手に入れたかと。ヒーロー達の超変身ソウルイグニッションに近い、気合いが生み出す領域です。最早、私達の専門外ですねー』


「良かった……! くるみと腕相撲してたら腕がもがれてた」



 数日前に挑戦してきたくるみを優しい論破で退けた自分を誉めた。あれ、つまりくるみ自身が澪の腕を狙っていたように感じるが。


 現状が驚嘆戦慄の世界を奏でる為、浮かんだ考えは軽やかにスルーした。



「さて、私はそろそろそこで寝息を立てている少女を愛でなければならない。順番を待てるかなー? 幼女よ」


「おのれ、幼女じゃないと何度言えば! 私は大人、高校生!」


「背伸びしたがる時期かと思うのだがな」


「こーこーせー! じょしこーせーだもんッ!!」



 幼子がだだをこねるように振るわれる両手のダガー。殺傷力のある充分な危険技だが鬼には通じない。むうとむくれるくるみ。


 そこに舞い戻る、先程打ち上げられた【ステアスクラル】が回転しながら鬼の頭頂を強打する。再び弾かれた十字剣をくるみがジャンプしてキャッチした。



「おぐっ!? ……く、油断したか。角が欠けるかと思ったぞ」


「わーいわーい、ざまあみろー! あっかんべぇーだっ」



 くるみ、ごめん、こどもだわ。


 澪は隠れながら友の言葉をバッサリ否定した。


 だがこの分なら澪自身が乱入してまで解決する事態ではない。専門外である上に、割り込んで足手まといになるのは勘弁だ。


 この場は静観しようと判断した。



「ぬぐ、良かろう! ならば望み通り、お前から全身隈無くペロペロ愛でてやろうぞ幼女!! 私が持ちうる領域はお前も範囲内に入ってるのだ!!」


「やれるものなら! 今度こそ地獄に堕としてやる!」


「ふはははっ! ならば私がお前をこの手、いやこの指使いにて昇天させ、この世の天国へと逝かせようかッ!!」


「いくぞぉぉぉおお!!」


「ははは!! ……はぁはぁはぁ」



 ────────くるみが危ないぃぃぃぃぃいい!!!!


 大絶叫を上げそうになり、口やら鼻やらを全力で塞ぎながら息を殺した。我慢比べではないがつい声が出そうになる。仕方なくないこれ!?


 よくよく考えればあの機甲の鬼の台詞は尽くが怪しさの塊、ぶっちゃけ欲を押さえ切れてない剥き出しのケダモノだ。見た目の剛腕や頑強な身体とは相反して、その指が暴れるイソギンチャクのように高速で蠢く。


 奴は、テクニシャンか。



「ふはは! いでよ、我が宝物庫に眠りし大いなる武具、黒き醜悪なる者よ!!」


「うわ、くっ!?」



 どこからともなくということにしておく────、現れた無骨な金棒を構える鬼は大上段から一気に振り下ろす。


 十字剣の柄で支えて受けるくるみ。衝撃が全身を貫き大地が陥没する。吹き飛ぶコンクリート片が雨のように散った。


 くるみの苦悶の声。澪の中で、ブツリと何かが切れた。


 これは、理屈じゃない。


 専門外とか、苦手とか、足手まといとか、そんなあらゆるマイナス要素を駆け引きから一切排除させる感情。ここで立ち止まっていると恐らく、それに自分が耐えきれない。


 そう。


 単純に。ただ。



「ごめんソウド!」


『それで良いのですよ』


「ボクの友達に何してんだぁぁぁああーーッッ!!」











   ☆★☆











 ズバンッッ!


 金属同士とは思えない、さながら包丁が大根をなます切りにしたかのような軽やかさ。


 金棒は唐突に両断され、鬼は反動でもんどりうって後退した。


 自分にのし掛かる超重量が不意に消え、くるみはついバランスを崩して尻餅をつく。意外と痛かった割れたコンクリートに、涙目でさすった。


 ところで、何が起きたのかと見上げる。


 立ち込める土煙の中で灯る、銀色の炎。



「へ、え?」


「無事かな」



 炎と共に消える土煙。そこでくるみが見たのは、これまた先程の炎に似た銀色。


 異常に明るい月が照らすのは鋼の色合いをした長髪。現代風味なラインと模様をしたコート状の羽織、腰と脚部の金属防具。首に巻かれた大きな純白のマフラーが風に棚引く。


 巨大な金棒をいとも簡単に両断した細腕が、右手に握る武器を地面に突き立てた。


 その身を光沢のあるブラックに染め、各所のコバルトやシアンを煌めかす。刃の鎬に走るのは夜に輝く蛍光ブルー。


 日本刀に似たその近未来的な剣は、鍔に相当する位置に放熱と銃弾の排出を行う機構が設けられていた。


 くるみは知っている。


 振り向かずともその顔は、くるみの中で形を持ったイメージとなる。


 この少女の名は────



「ラスターエッジ・ミュウ。見参!!」



 鬼は呆然と乱入した少女──ミュウを見下ろす。己が正義に燃えたぎる青い瞳の奥に、微かだが怒りが混じっていた。


 ええい私怨がどうした。知り合って間もないが友達がこうもやられて見物客に徹していれるわけがない。


 白銀の剣姫は、今宵鬼退治に参戦します。



「むぅ、むぅうおおおお!! こ、これは……! 感じる、感じるぞ!!」



 どういうわけか狼狽える鬼にミュウは眉を顰める。理由が思いつかず、取り敢えず視覚に魔法を働きかけた。


 VRサイト起動。視界が一瞬の明滅。隅の方で自分の視覚内でのみ、HP(体力)MP(魔力)の残量を示すバーが伸びる。


 加えて、敵の位置を知覚できる領域内で追尾するロックオンシステム。エイムリングが作動して敵を捉える。同時に魔法頭脳のAIソウドが更なる分析を始めた。



『さて、敵を情報的にも肉体的にも丸裸にしてやりましょう、主』


『承知。私は栗のイガも貝殻も海老の皮も蟹の甲羅も、修行で何度も斬り捨てた』


『そう言えば、わたしの手入れ 、忘れてませんか』


『一緒にお風呂入ってるでしょう?』



 暢気に念話通信で会話をしてるが、視線と意識は鬼に向けている。油断はしない、この敵がどれだけ強力なのかはくるみとの戦いで見ていた。


 実は、かなりヤバそうな。



「ま、不味い…………! 逃げてッッ!」


「大丈夫。私こんなんでもヒーローですから」


「……すんっ。この匂い、この肌触り。この容姿とは。ふふ、いいぞいいぞぉー……!」



 くるみを安心させようと気合い入れたんだけどなあ。


 無音で超速接近したらしい鬼がミュウの髪を紳士的に梳き、胸元の匂いをその鼻で軽く吸う。伸ばされた手が優しく頬を撫で、感触を味わうようにイヤらしく揉まれた。


 何か、勝手に検分された。


 ……。


 ミュウは少し前までは活気ある男子の一人として生活してきた。それはもう両親にも愛され、真っ直ぐに育てられた心は今でもミュウの中に残っている。


 当然、プライドだってある。


 ………………。


 でも、これぐらい許してほしい。男の子でも我慢できることもできないこともある。


 …………………………。



「きゃあぁぁぁぁあああああああああああーーーーッッ!!!!」


『主!?』


「おお!? なんと心地よい美声か!! もっともっと、その澄んだ鈴の如き美声を──」


「やめ、へ、変態ぃぃいい!!」



 地面から抜き放つ、機械剣グラジオラス。賺さず振りかぶり、ビンタ代わりに鬼の顔面を強烈に殴打する。剣を握る右手に伝わってくる鎧を打ち砕き、肉を割り、頭蓋骨へと進撃する刀身の感触。


 鬼は今宵でかつてない大ダメージを受け吹き飛び、民家の塀と一角を巻き込んで倒れ伏した。震える手が瓦礫の中で弱々しく持ち上がる。


 火事場でもないが発揮された馬鹿力にソウドとくるみは唖然として硬直する中、顔を真っ赤にしたミュウが胸を押さえ途切れ途切れに言葉を紡いだ。


 これが、気合いの成す、強大な力の一端か。何となく、わかった。……違うかな?



「だがしかし、僅かだがお淑やかさに欠けているか。まあ良い。この私自らの手で性格は矯正すれば良かろう。それは兎も角、その異質なる力は何か教えてくれまいか美少女よ? ああ、出来ればその身を片寄らせ、耳元で甘々と語れば嬉しい」


「どっから湧きでやがったッ!!」


『主、お淑やかさが空の彼方に』


「うっさい!! うなぁああああ!!」



 愛刀を肩に乗せ、八相の構えから切りかかる。


 見たところ、かなりのスピードと防御力を持ち、それが生み出すパワーを充分にコントロールする強敵だ。加えて復活が早い。強過ぎるだろ。


 分析を続けるソウドが弱点を発見するまでは時間稼ぎが必要。長期戦になると判断────せず、敢えて魔法をガンガンぶちまけてより弱点の探索を早めるとしよう。


 機械剣グラジオラスにて胴を凪ぐ。その大振りな一撃は鬼が片手で弾き返してきた。


 だが、ミュウはそれを読んでいる。


 弾かれた勢いを活かし、更なる加速を繋げて逆胴へ回転斬りを放つ。同時に、右手が柄にある引き金の機構を稼動させた。


 回転しながら排出される、三つの銀色の薬莢。



『シルバーブレイド展開。残弾3』


「むう!? 再び出でよ黒き醜悪──」


「そんなものぉぉおお!」



 機械剣を包み込む派手な銀色の炎に脅威を感じたか、盾として現出する黒い金棒。しかし、それは既に一度斬り捨てた。


 再度、中間辺りで両断される金棒。


 刃は遂に、鬼の機甲を越えその内に届いた。


 鬼の口から辛苦なる呻きが上がる。銀色の炎を纏う剣は、その切れ味を以てしても腰の一部で止められた。


 ────概念魔法、シルバーブレイド。


 古来より、強力な斬撃を持つ兵器、剣。切り裂く『剣』の概念そのものを武具に帯びることで断ち切るという現象を強化する。


 通常のシルバーブレイドより三倍以上の切れ味では、前にダンプを両断した経験がある。一撃しか通さないこのやはりこの機甲は侮りがたい。


 ミュウは機械剣を抜いて後退。



「……三点撃でもこれだけ。スレンナの魔法防御よりも硬いとか」


『ぐ、ふっ……。つまらぬ、物を、斬りました…………』


「え? うわぁぁあ! ごご、ごめんソウド!!」



 大変珍しいソウドの死に絶えそうな声に、ミュウは全力で謝った。一切躊躇うことなく振るわれた刃は、断ち切ったとは言え確かに触れたのだ。


 黒い醜悪なる者。敵の金棒。


 何と恐ろしい武器か。まさか、自らが折られても敵に精神的攻撃を喰らわすとは。ミュウはあらゆる意味で戦慄し震え上がった。


 そこを鬼は見逃さない。



「何度でも立ち上がるのだ、黒き醜悪なる者よ!! ふははは、震える姿もまた愛くるしい美少女よ! ゆくぞ、私の激しいラッシュをその身に受け止めよ!!」


「わっ!? ちょ、無理無理無理無理ぃ!! あわ、あわわわっ!」


『うぐ、ごふ、ああ…………。主、私は汚されてしまいました。もう……』


「ソウドぉーーーーーーッッ!!」



 敵の金棒による猛攻を受け続け、遂に相棒は精神的苦痛にて一言も発さなくなった。これでは禄に分析も済んでる筈がなく、ミュウはこの状況の悪さを思い知った。


 ボク。勝てないかも。


「忘れてない? くらえ、ステアスクラル!」



 ドス。


 鈍い殺傷音が戦場を流れる。


 鬼は強襲の中で立ち止まり、背後を静かに振り返る。ミュウも何事かと、首を伸ばして覗き込んだ。


 鮮やかな鋼鉄の刃が、鬼の尻から生えていた。



「ふ、笑止。私の強靭な肛門はその程度の刃など通しはしない。私は貫く者で、貫かれることはない」


「……そうなの? あ、抜けないや」


「…………幼女よ。すまない、どうか優しく抜いてくれ。そこはとてもデリケートな領域でそれはそれはもう肉体のサンクチュアリなのだ。このような不意打ち極まりない所業、断罪して然るべき」


「ごめん。抜けない」


「…………あ、私に任せて」



 流石にこれは。


 苦笑気味にミュウは剣を片手に鬼の背後へ回る。小さい子供の無邪気なイタズラに対応するのが大人のすること。


 くるみは咄嗟に弱点だと思った場所に、隙を突いて飛び込んだまでなのだ。それはもう、成功する前から満面の笑みで。


 こればっかりは仕方ないか。



「頼む。私にはまだ導くべき者達が大勢残されている。この暁には、君達もすぐにこの黄金の指にて天国へと導いてくれよう。さあ、その汚れなきお手手を私の尻へと添え共に逝こう────」


『シルバーブレイド展開。残弾0』



 回転して排出される三つの薬莢。弓に見立てた左手を照準に、矢を引き絞るように剣を掲げる。


 冷徹な光を静かに灯した瞳が、鬼の目に涙と共に映し出された。



「『地獄に墜ちろ』」



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