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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
2篇 青春!? ヒロインカルテット
14/18

2-3 異質なる夜を駆ける者達

 


 意識が朦朧とし、視界が激しく明滅を繰り返していた。景色が白く染まる度に思考が停止して足がもつれる。耳は辛うじて外部からの音を拾うが、聴覚の殆どは自分の心音が塗り潰した。


 理解不能。もう分けが分からない。


 少女は家族の姿を思う。


 走馬灯か。今まで穏やかに、時には危ういことをしながらも楽しく歩んできた人生。自分を囲う人々の笑顔が頭から離れない──────離れて欲しくない。


 今日も、朝起きて、学校に行って、家に帰って、家族と触れ合って。そんな夢想が…………。





「────ォォォォオオオオ……」





 追いつかれたことを悟った。


 疲労困憊の果てに地面にへたり込んでいたところだ。耳元を生暖かく、だが人間らしかぬ剥き出しの強欲に濡れた吐息が首を撫でる。


 竦み上がる力も入らなく、悲鳴を上げる声も枯れ、少女は振り向いた。


 そこに、鬼。


 露出された血管と脈打つ筋肉を想像させる赤黒さ。滴る沼のように腐った涎が少女の足元に溜まりを作る。


 興奮冷めない大きな鼻孔と口から上がる吐息。


 鬼と見紛う凶悪な顔面が、間近に迫っていた。





 時は深夜。月明かりが大地を照らす。


 住宅街だというのに街灯は一つとして光らず、また生命の気配を感じない暗黒が蔓延っている。


 突然、見慣れた街に似た異質な領域に踏み込んでしまい、そして怪物に追われて数刻。良くも逃げ切れているかのように錯覚するのは、怪物に弄ばれているからだ。


 助けはとうに呼んだ。携帯電話も圏外な世界で一人叫び続けていた。


 気付き始めていた。


 少女自身も数々のメディアで知る正義のヒーロー達。彼らの戦う悪とこの怪物は、似て非なる別物だと。


 故に。


 打ち砕かれた諦めたくないという願い。来ないと知った救援。


 諦観した少女はただ、愛する人々を思いながら意識を落とした。











   ☆★☆











 その異質なるモノの動きを止めたのは、鮮やかな鋼鉄だった。


 旋風を纏わせ空気を切り裂く快音と共に飛来した鋼鉄は、気絶した少女に近づく怪物へ驚異として現れる。


 本能から頭を引いた事で攻撃をやり過ごした怪物は、鈍重な両足を下げた。


 鋼鉄の正体は異様にして大仰な剣。


 幅広な刀身に走るサンライトイエローが月明かりに煌めく。計四本からなる両刃の剣は互いに柄が一体となっており、全長は四尺を越えていた。


 巨大な十字型の剣はさながら、────古き世の手裏剣を彷彿させる。


 少女と怪物を隔て突き立つ剣の上へフワリと、木葉のように降り立つ影。剣の刃に両足を立てる姿を、怪物の淀んだ目玉が移す。


 額当てにした橙色の長いバンダナ。薄手のパーカー、Tシャツに短パンという服装はジョギングの途中に見えなくも無い。


 しかし、拘束具の如き漆黒の革製防具にはベルトが巻かれ、多くのナイフやダガーなどの刃物が仕込まれている。


 暗殺者なのかしがない市民なのか分からない装備を纏う人物は、その小さな相貌から言い知れない昏い視線を怪物へ向ける。





「──────────ほう……」





 “鬼が漏らす理性のある一息”。赤黒い巨体はその強力を隠さない腕で顎を擦る。


 予想外の事態に怯まないその動作と心持ちはケダモノではなく、知性を如実に表していた。


 その瞳に人影を映し、鬼は吠えた。











「再び合間見えるとはな──────幼女よッッ!!」


「誰が幼女だあああぁぁぁぁぁああああああーーーーーーッッ!!!!」







 月下に轟く咆哮は、鬼に決して劣ってなどなかった。











   ☆★☆











「ま、まま、マジですか……!?」


『主、声』



 相棒、ソウドの冷静沈着な指摘に澪はバチンと口を片手で塞ぐ。あう、痛いよー……と、再び口から漏れそうになる。


 民家の屋根から見下ろす光景は最近慣れた戦闘の一幕。血湧き肉躍る魂のぶつかり合いで、正義と悪が互いの主張を言葉と拳でぶつけ合ういつものアレだ。


 だが。


 要員を目にした澪は咄嗟に飛び出そうとし、ソウドの念話通信で待ったを掛けられて踏みとどまった。否、確かに転けた。


 そんなことをしている間に、火蓋は切って下ろされた。


 澪が助ける前に少女は助けられ、現れたヒーローに怪物が喧嘩を売ったという現状。3メートル程の体躯を持つ鬼の怪物、対抗するかのように般若の形相をした小柄な少女が飛びかかる。


 澪はつい悲鳴を上げそうになるが必死にこらえた。ソウドは機械的に分析を始めるが、自分はただあわわ……と慌てることしかできない。



(こんな所でなにしてんの、くるみさぁぁぁあん!!)











   ☆★☆











「うおおおおおお!!」



 女子らしかぬ逞しい声を上げながら高く跳躍する。三日月を背負い、小柄な少女は気合いと共に踵落としを繰り出した。


 迎え撃つ鬼。


 全身の肌は赤黒く、だが鎧のように硬質な金属の物だ。黄色腰布は煤汚れが酷い。たてがみを風に靡かせ、赤き機甲の鬼は両腕を掲げ頭部を守った。


 互いに舌打ち。



「がっ……! やっぱり硬い!」


「ぬっ……! スカートじゃない。色が分からない、だと」


「当たり前だぁぁあああ!!」



 勢いと気合いが殺される前に後退し体勢を整える。怒りで逆に気合いが入ったわボケ!


 ズン……、と重々しい音を立て十字型の剣を持ち上げる。その重さを感じさせず易々と肩に乗せて少女は一息つく。


 姉宮くるみ。


 城虹学園高等部一年生。


 今日、久々に鬼退治といきます。





さり気なく復活するその姿、その魂

しぶとさはゾンビの如く……!


(-ω-;)

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