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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
2篇 青春!? ヒロインカルテット
13/18

2−2 春先のある日

復活!

まだまだ終わらない……!

 


 日鞠ひまり祐一ゆういちは、眼前の光景────そのある一点に釘付けとなった。


 日も昇り、中々に晴れた春の一日。


 高等部に上がったばかりで、慣れ親しんだ中等部校舎とはまた違う、初々しく新鮮な廊下でのことだった。


 一目、視界の隅に擦り込むように入ったに過ぎないそれが、気配もなく祐一の注目を奪い去る。そしてその像を眼が認識した瞬間、胸の奥を灼熱の槍が貫いた。


 思考は右往左往し、自覚できる程の“認識齟齬”を起こす。


 つまり。


 これは。


 定められた運命。予定調和なのだと。





「ねーねー、澪の髪どんな手入れしてればこんなツヤツヤなんの? 何か光って見えてる」


「体型の維持とかもどうなのかな? もしかして料理とかに気を使う? ヨガとかしてるの?」


「……二人共、甘いな。澪は髪にワックスを塗ってるのだ。食事に関しては実際は乱雑で、牛乳は風呂上がりに一気飲み。こんなところだろう」


「じゃあそのハリネズミ風のワックスヘアーで針金みたいに突き刺してあげようかな? …………まあ、牛乳は否定しないけど」


「………………本当にしていたか」


「変?」


「「オヤジみたい」」


「……ボク、別にいいもん。牛乳は腰に手を当て一気飲み。それこそ定番で醍醐味だもんっ」





 その意見には大いに同意する。


 彼女は傍らを通り過ぎた。


 窓から差し込む暖かい陽光で、さながら光沢を持ったかのように艶やかな黒髪が輝く。背面にて青いシュシュで一房に纏めた髪が尾みたいに揺れ、祐一の目はネコジャラシを向けられた感覚になった。


 友人達と他愛もない会話をしながら、その少女は校舎の廊下を歩いていく。


 と、茫然自失の祐一を、背後から強烈な張り手が襲った。いつもの挨拶だ。



「おっす祐一。……どうした、突っ立って? 道端に落ちてた犬のエサでも食っちまったか? だから拾い食いだけはするなと……」


「お前と一緒にするなよ。そっちこそ遅かったな。寝ぼけて電柱にでも頭を打ったのか」


「“まあな”。しかも噂の脅迫強盗カツアゲにも遭遇したんでぶちのめしてやったぜ。……まさか、この俺様に掠り傷を負わせるとは。中々やるじゃねーか」


「元気そうで何よりだ」



 オレンジ色に近い金髪に碧眼と、周囲からは一層視線を引く容姿をした少年。完全な東洋人の顔立ちは彼がクォーターだからだ。


 華奢というよりは筋肉が引き締まった体格に、ビジュアル系のバンドでもしていそうな風貌。やんちゃ坊主な表情は、いつも元気一杯。そんな友人。


 武幸たけゆき頼斗らいと


 中等部時代からの旧友だった。腐れ縁ともいうかもしれない。



「……お、あの四人組もうつるんでるな。仲がよくて良いことだ。……“俺ら”も学年一緒だったらなー……」


「え? お前、全員知ってるのか? 司令官以外」


「ふん。やはりお前の方が馬鹿だな。……あいつら俺達のクラスメートだぜ? これだから草食は。女への興味が欠片も無いと来たもんだ。少しは肉を食え、肉を」


「うるさい馬鹿。馬と鹿のくせに肉食ってんじゃねえよ。……それに、今その女子を見てたところだしな」


「え?」


「え?」



 ────あ。つい口が滑った。


 後悔先に立たず。今頃気づいたか。だが、もう遅い。そんな悪役の台詞が、心の中で残響する。


 キョトンと呆けた表情が見る見るうちに移り変わり、頼斗は満面の晴れやかな笑みを浮かべる。悪魔のような弧を描く口元。好奇心に溢れた目がキラキラ。


 余程嬉しいのか力強く肩を抱いてきた。見た目とは不相応の恐るべき怪力に、祐一は痛みで顔をしかめる。



「そうかそうか! 遂にお前にも春が来そうだな! 誰だ? チビか、純朴か、澪っちか、司令官か!?」


「肩ッ! 肩が砕けるッ! 止めろ馬鹿、この馬鹿力!! 言う、言うから離せ!! ホラ今何かゴキっていったよ!?」


「そうだそれでいい。何もかもさらけ出し、全てを俺に委ねろ。……お前を“勝たせてやる”」



 お前に任せたら失敗しそうだから止めておく。痛みに口から出なかった本音。


 そもそも見取れていただけであって頼斗の言うような色恋沙汰な話ではない。断じて。そういった言い訳も口から出ない。


 ドキッとしたのは事実。未だに心臓がバクバクしているのも現実。


 ────まさか。これが、一目惚れだとでも?



「っていうか頼斗。今、澪っちとか言ったな。……知り合い?」



 チビ。つまり一番背丈が低かった少女を示す。人懐っこい背丈の低い小動物地味た子だろう。頼斗バカの口が悪いので、後で速やかに矯正してやる。


 純朴。どこかのほほんとしながらも、母性を滲み出す柔らかさ。頼斗は性格が第一印象だったようだ。単純な名付け(ネーミング)


 司令官。そう言えば、学級委員を選任する際に他薦される人気とカリスマを有していた。クラスメートの内からは通称を頂戴していたのだ。


 そして、もう一人。



「お? まあな。話も何度かしてるぞ。自分の事を『ボク』とか呼んでてな。自己紹介の後にぶっちゃけて話し掛けたら思いのほか馬が合う。……ホント、男に生まれてたらお前並みにつるんだかもなー」


「…………そ、そうか」


「まさか、澪っちに惚れたんか? こりゃやべえな」


「……何でだよ。簡潔に三十字以内で述べてみろ」


「そんなに短くていいのか? 本当に」


「すまん。……説明してくれ」


「何人か狙ってるってよ。自己紹介ん時とその他でズキューンとイったらしい。目立つ要素のないお前じゃ無理だ」


「何だと!?」



 始業式、入学式からそう日が経っていない内にそんなことになっているとは。もしかしなくとも、とんでもない爆弾を抱えたか。こんなドキドキを、我慢して見届けろとでも。


 無理。


 しかしまだ、これがそんなシロモノだと断定はしていない。もしかすると、ただ気になってしまっただけかもしれない。



「よし、じゃあまずは友達からだな。……俺様に感謝しろよ」


「この間の豚丼弁当で貸し借り無しだ。強いて言うなら、貸しはまだ乾麺が腐るほどある。俺はただ、お前に命令すればいい。それだけだ」


「…………お前、人を引っ張る資格があるとは思えねー。少し寛大になろうぜ」



 何はともあれ、話が合いそうな雰囲気を感じた。友達を増やすことに間違いはなく、祐一は思い切って突撃することにした。







   ☆★☆







「あ、そこはね、一度城の入口に戻ればイベントが発生して主人公がパワーアップするから。そしたら最後の扉が壊せるよ」


「え、何ソレ? そんなの伏線なんかあったっけ!? 何突然進化しちゃってんの主人公!! しかも弱かったから育ててないし、レベル低いし、戦闘メンバーじゃないし!!」


「それはな、突然覚醒するから主人公なのさ」



 予想通り、いや予想以上だった。自らの正面で一緒に姉宮くるみを慰める澪に、祐一は正直驚愕していた。


 頼斗の友人その一として紹介して貰ったものの、女子の趣味な興味の引くものなどわかるはずもない。ぶっちゃけて最近のゲームについて話題に上げたところ、何とかなり食いついてきた。


 マイナーのあまり男性のプレイヤーすら少ないゲームなのだが、深いところまで遊んでいるらしく、意気投合。


 この四人組、本当に普通の女子なのかと疑ってしまう。いやいや女子だろう。それ以外の解答は恐ろしいことになる。


 紫崎千絵を筆頭に、宥め役の舟橋奈乃、元気成分の姉宮くるみ。そして、苦笑気味で突っ込みを繰り出す暮傘澪。


 何と一遍に四人の女友達ができてしまった。


 頼斗の交友関係の広さを口に出さずに褒め称える。声にすれば図に乗るので止めておく。



「…………それにしても、なんか……」


「うん? …………何?」



 宝石のように綺麗な瞳だ、と見つめていた澪の視線が自分に向けられていたことに気づき、祐一は頭を振りながら答える。今、とても不自然ではなかったか。


 それにしても。


 確かに相変わらず心臓の鼓動が激しく、若干この感覚に慣れてしまった祐一。彼も思っていた。既視感にも似た、妙な感覚。



「……どこかで、会ったことない?」


「澪ちゃん。公然とナンパするんだね」


「へっ!? ち、違…………何でボクがおと、なんか────っ! じゃなくて、えーと…………!!」


「澪、焦りすぎだ。愛の告白なら落ち着いて、慎ましく、お淑やかに語るんだ」


「だから何でおと、こ────、ああ! もうっ!!」



 話し掛けられた祐一は放り出して盛り上がる会話。気を抜けば影すらも忘れ去られる怒涛の応酬に茫然自失。祐一よりは断然女子に慣れている頼斗すら、目をまばたいている。


 会ったことないか。


 祐一も確かに同様の心境にある。だが、澪の姿形に見覚えは無く、ただ朦朧とした既視感だけが頭に浮いていた。


 思考を遮るように靄や霧が掛かるような。答えは外形だけが見えてるような。



「ご、ごめんね変なこと聞いて。忘れてもいいよ?」


「え、あ、おう。わかった」


(頷いてんじゃねえよ!! 何故!? そこで何故その回答が現れる!? 紳士の風上にも置けねえな!!)



 隣の頼斗が、女子の視界の隙を縫って拳を叩き込んできた。







   ☆★☆







 少女は、自らの視界にある長閑な風景をぼんやりと眺めていた。


 学園の高等部という新生活が始まったものの、少女の中ではオマケようなことだった。“本来の日常”を過ごす傍らの、所詮の如き非日常。


 そう思っていたのだ。


 まさか、たった一日でその考えを改めることになろうとは。


 少女は学園にてお友達の仲間入りを果たし、入学の即日から四人組を形成することになる。少女としては、日常に対する暇潰し程度にはなろうという客観的且つ、上からな物言い。


 帰宅した後、内心で土下座した。


 ────すっごい楽しかった!!


 入学式後、周囲が親やらの付き添いで下校していく中不条理にも街へ駆り出した少女達。出会ってから数時間しか経たない絆。


 ゲームセンターで暴れまわり、喫茶店で談笑。ナンパしてきた不埒者を丁重に追い返し、文字通り祭り騒ぎ。


 少女が希薄な想像しかできなかった学生生活が、まさに当日から満喫できた。驚愕と嬉しさのあまりに泣き出しそうになる。いやはや涙は滲んでいた。


 この友達を離さないと誓った。


 やっぱりまだ友達が欲しかった。







「────だから」



 少女が見上げた先に、黒雲に紛れて三日月が照らされる。城園市、喧騒が止まぬ夜の街並み。一際荒れ狂い、されど静寂の中にいる者達。


 “少女の日常と、その住人達”。


 腐敗した陰謀、超常の怪奇が渦巻く城園の夜。それらの邪悪から友を護らんが為だけ────



「私は、まだ戦える」



 高く飛翔する少女の姿は、月夜の影へ消えていった。







   ☆★☆







「────闇に隠れて悪を討つ! …………それも中々にカッコいいよね。ハードボイルドっていうか渋いっていうかー……! こう、濃厚なロックみたいな風味」


『主、ロックを口にしたことがおありで?』


「ないよー?」


『左様ですか』



 綺麗な満月を見ていて不意に思っただけ。


 我が家の自室の寝具の上にて、澪は暢気にも会話していた。開け放った窓から吹き込む涼風が頬を撫で、鋼の如き銀色の長髪が緩やかに棚引く。夜空を映す青い瞳は、磨かれた宝石を思わせた。


 暮傘くらさ澪は、染色の魔法を解き自身があるがままにいる。学園や外出時には黒く変色させているが、この煌びやかな銀色こそ澪の本来の髪質である。


 魔法少女。


 慌てながらも着実に慣れてきたが、澪はここ数年間は“男だった身”。女の感覚に再転したが、男としての常識や思考回路が完全に刻み込まれており、ここ最近は如実にそれで苦悩している。


 例えば、トイレ。澪は未だに女子専用のトイレには一度たりとも入室していない。肉体的に女性であろうと、“女子トイレに入ってはいけない”と幼少から教え込まれたのだ。


 例えば、風呂。澪は未だに女子専用の風呂浴室には一度たりとも入室していない。理由はトイレと同じく。


 踏ん切りが付かない。ただそれだけである。


 尤も、トイレや風呂を唯一楽しめる自宅ではありのままをさらけ出し、自分の身体のことは自分がよく知っている。


 閑話休題。澪は学生生活に浸りながらも魔法少女を続けている────かどうかは微妙なところだった。



「ヴァリさん達に頑張って貰いたいですねえ……」


『主、その内ヒーローを敵に回しますよ? 私達もこの街の戦力に数えられているのですから』


「いや、だって悪の銀河帝国とか専門外だし。秘密結社の怪人も何か苦手だし。…………まあ、魔法系の敵は何とか担当してるけど」



 城園市を含めた地域周辺に一体何があるのか、目的が不鮮明な組織がこぞって侵略やら進撃をしでかしてくる。嘗ては一市民ではあるものの、他人事のようにテレビでそれらの放送を目にしていた澪。


 だが、正義の味方になった身としては、悪の組織との鬱陶しい攻防に疲弊し始めていた。


 そもそも、澪は意志も持って魔法少女の仲間入りをしたわけではなく、危険に晒された妹を救出するついでなのだ。闘志が無くは無いが、それでも“毎日、連日連夜戦闘していては心も萎える”。


 正義の味方として活躍する裏で、澪にはまた別の仕事があったりするのだ。


 つまり、それ則ち、自由時間の消失を示す。



「……昼間くらいはヴァリさん達に任せても」


『とてもヒーローの言葉とは思えません。寝ぼけているのですか? 寝言は寝て言いましょう。明日は学校も休みなのですし、“夜更かし”しても無問題ノープロブレムです』


「夜更かしは美容、お肌の大敵。これは大問題ベリープロブレムでしょうがー」


『主、遂にわかって頂けましたか。ようやく女の子の天敵をご理解されたのですね。このソウド、感嘆する思いです』



 滑るように呟いた言い訳な筈だが、どうも誘導されていたらしい。少女に再転しようと、相変わらず女子力の低さが目に余る澪に、このソウドは隈無く口を出す。


 起床から睡眠まで、いつ如何なる時があろうとも、片時も肌身から離れない困ったさんな相棒。


 偶に口に毒があるも、どこか姉や兄のような暖かさがある。────あ、やっぱり姉で。兄と一日中べったりしてるとか色々とヤバい。────あ、そんなことない。別に兄でも気にしない気にしない、寧ろ姉だと落ち着かない。────あれ?



「……神よ、これも試練なのですか」


『何かを悟りましたか』



 違う。相棒に性別を訊くのが恐ろしいだけだ。この話は忘れよう。腕を組んでウンウンと一人で頷く。


 メモリーカード(脳味噌)から余分なデータ(記憶)を削除しますか。────はい。


 今、何の話してたっけ。確か面倒な夜のお仕事の話の後で……。



『不確定要素の力場の発生を確認。現在は11時59分。前回より7分程早いです。周期が短くなってきました。遂に、二十四時間を切りました』


「…………出たよ、もう。男の子なら夜更かししてゲームしてそうなのに。女の子は仕事だよ?」


『私が付いております。恐れるものなどGだけで充分です』


「ボク、G平気だよ?」


『…………可愛らしい悲鳴を期待してましたのに。全く』


「凄く残念そうだ…………。まあ、いいか」



 澪は静かに自室を後にする。専用の置き場すら用意した靴箱からブーツを取り、その上で履く。


 一度、深呼吸。


 変化の要領で、人々の視線に溶け込む為に、自らの長髪を魔法で変色させる。鋼の銀髪は見る見るうちにくすみ、漆の黒色へ。



「こうなったら八つ当たり、覚悟しろワルモン」


『正義の味方の台詞ではありませんね』



 澪は開け放たれていた窓から、城園市の夜へ飛び出した。







   



執筆魂、燃え上がる!

何が何でも書き続ける!


(・∀・)

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