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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
0篇 人生最悪(?)の誕生日
1/18

0-0 プロローグ

なろうでは初投稿となります。温かい目で見守っていただければ幸いです。

 


「大丈夫か」



 静寂が包む大地。青白い光がぼんやりと夜空を照らし出す。光源である同色のほむらが燃え盛る灼熱の壁となり、彼等が雌雄を決するべき闘技場を作り出していた。


 男は白かった。身に纏う純白が光沢を放ち、少女の視界に鮮烈に存在を刻み込んでいる。西洋の鎧を彷彿させる厳粛な姿とは裏腹に、少女の無事を問うた声色は物腰柔らかな青年のものだった。


 戦場に吹き荒ぶ風に、鎧のマントが棚引く。その大きな背中を前に、少女の不安は跡形もなく消し飛んだ。


 ────歴戦の勇士そのものが、人の心を支える柱となる。


 ────それもまた、『正義の味方』たる男の力だった。



「うんっ」


「そうか。……良かった」



 バイザー状のマスクの奥で、男の目は確かに少女の笑顔を見た。元気よく頷く少女の思いがまた男を強くした。


 何者にも負ける気がしない。



「伏せているんだ、みお


「うん、わかった!」



 泥に汚れることも気にせず、少女は男の背後で頭を押さえ膝を地に着ける。凹凸も皆無な地面では無防備だが、それでもこの行動は男への信頼でもあった。


 男は少女を確認したところで、正面に向き直る。


 いつしかそこに黒い男が立っていた。


 仰々しい漆黒のローブに身を包み、青白い焔を身体から立ち上らせる。こちらは鎧その物を装備しているが、それは要所のみ。────この男は本来、鎧が必要な存在ではない。



「流石と言っておくか。相変わらずだな【白騎士】」


「シュバルツ……。お前の方は変わったのか? 誘拐とからしくないマネをするとは……」



 純白の男は、二つ名もとい通称が【白騎士】と呼ばれている。『正義の味方』を自負する者の一人としてありがたく頂戴していた。


 敢えて名乗らず、『敵』に言わせるのがミソである。



「今日はやめにしないか? 娘が誕生日なんだ。ケーキを買いに行く時間が惜しい。僕の奥さん怒らすのも恐いし……」


「残念だったな。わざわざ娘の誕生日を狙ってやったんだ。奥さんにこってりしぼられるんだな」


「全く変わってなかったな。相変わらずイヤな奴だ。……今日はフライパンが飛んでくるかも」



 眼前の『敵』の数倍は恐ろしいマイワイフの般若の形相が目に浮かび、思わずガタガタブルブル震えてしまう。娘の誕生日が命日にならなければいいが。


 旧くからの友であるシュバルツは、【白騎士】の長年の宿敵。彼等がまだ学生だった頃から競い、目的次第では助け合ってきた。


 正義と悪。その立場は違えど、紛れもなく絆が存在していた。


 そんな気が知れたはずのシュバルツの行動に、どうも納得できないでいる。【白騎士】は普段通りさり気なく訊いてみた。



「なあ、何で娘を攫った? 今回の目的がさっぱり読めないんだけど」


「今更だ。娘を餌に呼び込む為だ。理由はいつも通り復讐に決まってんだろ」


「……全然心辺り無いんだけど。僕はお前に何したんだ」


「数知れずだな。学生時代に勉強教えてくれなかったり、体育大会の時風邪気味で記録がズタボロになったり」


「……逆恨みって言葉、知ってる?」


「悪役だから当然な。……それに怒ってんのは、昔のお前が手加減したからだ!」



 ────なるほど。顎さすりながら【白騎士】はようやく合点がいった。


 体育大会の前日、悪さをしていたシュバルツが調子に乗って喧嘩を売ってきた。若き日の【白騎士】は難なく打ち負かし、シュバルツは川へ転落。それが風邪の原因となった。


 引け目を感じたため、体育大会はシュバルツに付き添うように行動を抑えていた。つまり、それや今までの思い出にプライドが傷ついたと。


 ……そうか。



「くだらな……。そんなことに娘巻き込まないでくれよ」


「お前、悪役のプライド嘗めんなよ! 手加減されて尚且つ惨敗してきてみろ! 泣いちゃうよ? ガラスのハート木っ端微塵だよ!?」



 積年の恨みも込みだった。『正義の味方』である以上それなりに優しさもあり、友達やら仲間やらを本気でぶっ倒すのは気が引ける。


 それにシュバルツの性格も憎めない。恐らく、未だに日課である花の水やりを続けているのだろうと、マスクの奥で苦笑いした。


 それを勘づいたか、シュバルツが吼えた。カチンときた。



「頭にきたぜ……! こうなりゃ新型の呪いをお見舞いしてやる! ククッ……さあ、コイツは本気で止めないとヤバいぜ」


「むっ。ならば、本気で気絶させるまでだ! いくぞ!」


「だから甘えってことが言いたかったんだって! やっぱりコイツなんにもわかってねーよ!! あああ、持病の頭痛がッ!!」



 シュバルツは左手で頭を押さえながらも、右手で魔法の術式を構築していく。指先から肩に掛けて、禍々しい紫の焔が灯った。


 魔法使いな上、後方支援型の悪役であるシュバルツは、本来ならば接近戦は不得手だ。しかしながら、当の本人が格闘好きなのが災いし、圧倒的に不利な状況へと自ら追い込まれている。


 それが【白騎士】相手ならば尚更だ。純白のグローブを填めた右手を夜空に掲げる。一条の光が右手で集束し、長く細身の剣へとその姿を変えた。彼の得物の剣もまた、同じ純白。


 一足飛び。だが爆発的な速度で飛び出した【白騎士】は滑空するかのような体勢で大地を駆ける。


 瞬く間に距離を0にしたことで、シュバルツの視界には突如刃が現れたように見えるに違いない。────彼はそもそも、頭痛薬を飲んでいる暇などない。何を呑気に水筒を口にしているのだろうか。



「うおッ!? ま、待った! 術式まだ作り終わってないって!」


「問答無用! そろそろケーキ屋が閉まる! 則ち僕はフライパンの餌食になってしまう!」


「そりゃ良かった────あべしッ!!」



 剣を躱したところを狙い、隙だらけの顔面に拳を叩き込んだ。ミシリと兜にヒビが入る。


 集中力が途切れたために右手にて目下製作中だった呪いの制御が外れる。フヨフヨ……と萎んだ風船のように、風に流されながら【白騎士】の後方へと消えていった。


 顔面を両手で覆って唸っているシュバルツを静かに見下ろす。いつ不意打ちされるかわかったものではないため、その手に剣は構えていた。


 ローブに付着した土を払いながら、シュバルツは立ち上がった。復活の早さに、口に出さずに褒めた。声に出せば調子に乗りそうだし。



「くそ、いってえな…………。たはは、やっぱ即興で一から呪いを作るのは駄目か。殴り合いの方がまだまともに戦えそうだぜ」


「た、頼むシュバルツ、もう勘弁してくれ。折角少し高いケーキ予約したんだ。娘の為に…………頼む!」



 戦闘中だというのに頭を下げる【白騎士】。優勢なのは火を見るよりも明らかだが、優先事項をわきまえている。友人その変わらない姿に、シュバルツは溜め息をいた。


 仕方ないとばかりに首を振るう。



「わかったよ。改めて思うぜ。あのお前が父親やってんだなぁーって。……早くケーキ取りに行ってこい」


「さ、サンキュー! この続きはまた!」



 『また』。つまり悪さをしろと。『正義の味方』が悪事を催促してどうする。



「おう。じゃあまた────────あ!!」


「うん? どうし────────なっ!!」



 特設闘技場のリングを象っていた炎の壁を消したところで気がついた。


 月明かりに照らされた平原の中、煌々とその姿を照らし出す紫の炎。そして、その光に包まれた“少女”。


 ────すっかり忘れていたぁぁぁぁあ!!


 そして、一目で理解した。


 先程の呪いは偶然か必然か、少女が受けている。そうだ、後ろには少女がいた。呪いは後ろに行った。


 ────何てこったぁぁあああ!!



「シュバルぅぅぅぅぅツ!! お前一体どんな呪い掛けたんだ!! 解け! 今すぐ解け! 解いて! 解いてくださいお願いしますッ!!」


「まずは落ち着け!! お前が妨害したせいでワケのわからん術式になってる! とりあえず無理にいじるな! 下手すれば大爆発するぞ!!」


「何だとッ!? み、澪が……!!」



 魔法に関しては全くの専門外である【白騎士】。元凶のシュバルツが危険と判断したことで、救出は不可能となる。


 シュバルツは腕を組んで黙考。そして浮上した考えに納得し、頷いた。



「悪役のおじさんから呪いの誕生日プレゼント〜。みたいな」


「シュバルツ貴様ぁぁああ!!」


「うおッ!? 待てここで必殺技はやめろ!! 零距離だから! マジで死ぬから!!」



 シュバルツは今頃気づくことになる。【白騎士】の本気を相手にしたければ娘の命に手を出せばいい。悪役のシュバルツだが、子供を傷つけることには嫌悪する。故に実行は生涯ない。


 炎は勢いを緩め、しかしその輝きは激しく、眩い光が彼等の視界を遮った。





「あ、その、えーと……。とりあえず、ごめん」


「澪ぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!」





 【白騎士】の悲痛な叫びが、月下に響き渡った。


 


なろう初心者な為、ルビを間違えてたりするかもしれません。とりあえず、初投稿は完了。

(-ω-;)

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