7話
「ふわぁ、結構大きい魔物さんだなぁ」
「そうだな……ってぇ!呑気にしている場合か!さっさと倒すぞ!」
私達の目の前には今まで見たことも考えたことも無いぐらい大きい魔物。
今まで出会ったどんな魔物よりも禍々しく、負のオーラに包まれていた。
魔物よりも化け物といったほうが正しいか。もうすでにイニア国の兵士は戦闘を始めているものの、まったく歯が立たない。
私達も戦闘に参加しようとするが、イニア兵に止められた。それを無視してディが真っ先に魔物のみぞおち部分を蹴った。
しかし、魔物は見向きもせず、ディを掴んで投げた。
「うぉお!?」
「え、ちょ、ウィンド!」
ルイ様の風の魔法によりディの身体は浮いて地面に直撃はしなかった。
私はすぐさまディに駆け寄り、傷を治した。
すると、華僑が何かを書いた札を魔物に投げ、手を変な形にした。
「呪縛の術!」
くっつけ、延ばした人差し指と中指から魔方陣とは違う何かが出てきた。それは魔物に投げられた札へをむかい、札と共に魔物にくっついた。
呪縛の術……。相手の動きを止める筈だが、効いていない。
その間にもイニア兵は次々倒されて行く。私はその人たちの怪我の手当てに向かった。
「何、あいつは!」
「仕方が無いね……。フィナ!町に結界を張って!強力なのをね」
「ピピィ!(了解!)」
私は上を見た。すると、さっきまで空を飛んでいたフィナが羽の周りに魔力をためながら城と城下町の城壁のすぐ上を飛んだ。結界が張られた。
「ふぅ、ぐっ……我の魔力、全てを捧げる。我の言葉を聞きいれよ……!神獣召喚!!」
神獣……?魔島に居る全ての魔獣や精霊、エルフの頂点にいる神だった筈……。それを召喚?
ルイ様の額には汗。周りには次から次へと出てくる底知れぬ魔力。
流石にこれには驚いたのか、魔物は動かなくなっていた。いや、動けなかった。それは、私達もだ。
いつもの、召喚魔方陣よりも大きい魔法陣が出てきた。出てきたのは神獣。
それは、あまりにも我々の人知を超えた存在であった。
何にも例えられぬ外見。美しすぎる翼。目は、左右で色が違う。青と赤。身体は緑色に近い。
にしても、大きい。城と同じぐらいか。あの魔物と同じ大きさ……。
神獣の周りにはとても暖かく、優しい魔力が溢れていた。
ルイ様は神獣に何かを言って倒れた。魔力を使い果たしたのか?
『貴方は魔王ですね?まだ誕生したばかりと見えます。もう、月が重なる時期……』
「なっ!魔王!?ありえねぇよ!魔王なんておとぎ話だろ!?」
ディが神獣に語りかける。しかし、神獣は何も答えずに、なにやらブツブツ唱えている。
「いや、それよりもあの魔獣が本当に神獣かどうかだよ。まぁ、本当だろうけど」
華僑がそう言った。相変わらずまだ動けない。あの、神獣の魔力の所為か?
それよりも、ルイ様が心配だ。あんな大きい物を召喚などしたら魔力だけではなく命さえも削られているのまも知れない……。
『……ルイと共に旅する人間よ、聞きなさい。我の力では魔王の居所を制限するしか出来ません。貴方達は選ばれし者。一度、魔島に来なさい。詳しい話をします。Une limite……!』
魔王らしき魔物は足掻いた。苦しいのか。
その魔物は近くの人を襲いかかろうとするものの、神獣によって守られついには魔物の手はイニア国に向かった。
そうか、ルイ様がフィナに強力な結界を貼れと言ったのはこのためか……!しかし、フィナの結界もむなしく破られ、破壊されていった。
不幸中の幸いというか、神獣のおかげでけが人は出なかったが、イニア国は壊滅してしまった。
一通り破壊が終わると、魔物は消えた。
……まてよ、ルイ様は事前にこうなる事を予測していたのでしょうか……?そうでなければ結界を張らない。第一、神獣は人間となぞ契約をしない。しかし、ルイ様は召喚をした。
ルイ様……いや、ルイ・トリュナとは一体何者だ?
+++++
「ルイ様!……、リュナイ」
ナイトがルイに病気を治すほうの回復呪文を唱えた。俺はディと共にイニア国を見た。
壊滅だね。跡形もなくなってしまった。人々が壊れてしまった町を見ていた。幸い怪我人はいないから良いものの……。
早く俺達はここから出て行ったほうが良いね。俺たちのせいでこうなったんだから。
俺はナイトとディに思ったことを伝えた。二人も賛成らしく、早々にイニア国を離れた。
ディの背中には寝ているルイ。フィナの背中にはルイの荷物がある。
俺達は何も話さなかった。自分達のせいで国を壊滅させてしまったのが理由なのか、さっき起こったことに対してまだ整理が付いていないのか。
俺は後者だ。神獣を召喚だなんてね。しかも、その神獣はルイを知っているみたいだし。俺達に魔島に来いと言っているし。
一キロほど歩いただろうか。ルイがやっと目を覚ました。
「あれ……、ここは?おっきい魔物は?」
「イニア国から1キロ離れたあたりだ。魔物は、テメェが召喚した神獣がどっかにやった」
ディが答えた。背中にいたルイは降りた。まだ少し足元がふらついている。
「神獣はなんて言っていたの?」
「魔島に来なさいと。あの魔物は魔王らしいですよ。そのことについて詳しく話したいからと」
「そう。フィナ、魔力を頂戴!」
そうルイが言うとフィナは自分の魔力をルイに渡した。フィナの周りに魔力があふれ出て、その魔力がルイにもとに向かった。
……そんなことできるのか。俺は魔力が無いから良く分からないけどね。
ルイは自らの右手にあった腕輪に魔力を篭めた。すると、その腕輪は杖になった。
「なんだそりゃ」
「んー?僕の武器。普段は腕輪だけど、魔力を篭めると好きな形になるんだ」
「で、それで何するのさ?」
俺はテレポートでも唱えるのかと思った。
杖を出したなら、魔力が増える筈だし。……確か。
でも、ルイは地面に何かを描いていた。
「魔法陣を書くの。魔島へはね特別な魔方陣でしかいけないの。だから」
「魔力はあるのですか?」
「ギリギリかな。んー、まぁ、なくなったらナイトの魔力を削ぎ取るよ」
「……はぁ」
「あ、そうそう。魔島に行くときは少し疲れるからね」
二人が会話をしている時に魔方陣は出来上がった。
俺たちとフィナを魔法陣の中心に集めてルイは、持っていた杖を中心に刺した。
すると、魔方陣は光って俺達はテレポートをした。
……グルグルする。視界に移るのは変な模様だけ。上も下も右も左も分からないや。気持ち悪いし。普通のテレポートだったらこんなの無いんだけどなぁ。
そう思っているうちに意識は無くなった。
『やっと、来ましたね。目が覚めるまで少し待ちましょうか』
最後に聞いた言葉だった。