37話
今夜、月が重なる。ルイの魔力は何とか回復し、俺の弟率いるウィリシア兵も到着した。フィナとウォルメの魔力を使って魔法の神獣も召喚し準備は整った。ニナ王国もアディが説得してくれたおかげで協力してくれた。
道を作る場所は地震で出来た時空の裂け目の傍。ルイ曰くこの裂け目は死の世界に続く物の行けるのは死者のみ。つまり、魂だけしかいけない。それを大量の魔力を使って体ごと持っていく。もちろん成功するかは分からない。失敗すれば俺たち4人は恐らく死ぬ。それでも行かなければならない。
「醜い心の神獣はあらゆる手を使います。恐らく過去のトラウマや愛する人の幻影も使ってくるでしょう。それでも進みなさい。一度折れた心は元通りになりません。貴方達の勝利を願っています」
夕方ごろ、神獣が俺たちを呼んで話した言葉。過去のトラウマに幻影……。華僑は知らねぇがナイトが一番危ねぇ。兄弟の死……。俺にも弟がいるからわかる。
俺達はニナ城の裏に移動した。そこには魔方陣が二つ。そのうちの一つはルイがかけた魔方陣だ。ルイはそのすぐ近くにまた魔方陣を描き始める。
と、周りがざわつき始めた。見たことが無い魔法文字があると俺は聞えた。魔法に関して知識がねぇから知らねぇが古代魔法を使うとか言っていた様な。
魔方陣が描き終わり、集められた人々は魔方陣の一番外枠に並べられた。円の中には5つの円がある。一つは中心に。4つはその周りに。中心の円は俺たち4人(+フィナ)が。4つの円にはひときわ魔力が多い神獣、ウォルメ、ニナ国王、アディ。皆夜になるのを待った。
ルイはずっと空を見ている。儚く、寂しげに。
日が完全に落ちて二つの月が重なり始めた。すると、魔方陣は光り輝き、集まった人々の体からどんどん魔力が出て行く。そして、月が完全に重なると俺たちの身体は飛ばされた。
「御武運を祈っております。師匠……」
「兄さん、帰ってきて。絶対に」
「ルイ、ディ、ナイト、華僑に勝利の女神が微笑むことを」
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「遅すぎる!神獣様、師匠達は!?」
ルイ達を死の世界へと送った日の朝方。神獣は日が昇り始める頃には戻ってくるといっていたが、もう日は昇りきった。
痺れを切らせたウォルメが神獣に問いかける。アディも神獣を見る。
「分かりません。分かりません……」
二度言った言葉。二度目には悲しみの感情が含まれていた。神獣はもう諦め半分だった。しかし、望みは捨てていない。最悪自分を犠牲にして4人を助けるつもりだった。
しかし、それは神の掟に反する。永遠の苦しみの中に身を投げることになる。しかし、そんなことはどうでも良かった。自分に母の気持を教えてくれたルイのためならば。
ウォルメはまだルイを信じていた。ルイだけじゃない。ディもナイトも華僑も。彼女は祈っていた。神にではなく師匠に。
アディはもう胸が張り裂けそうな思いだ。やっと、兄が魔導師を認め、ウィリシアに戻ってきてくれる。叶わない夢と思っていた。ここで本当に叶わなくなるなんて。アディもまた祈った。
昼を過ぎても彼らが帰ってくることは無かった――。
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後の歴史に新しき英雄が載っている。
「再び目覚めた魔王を封印するべく新しき4人の英雄が立ち上がった。かの英雄の血を引くもの達。
『始まりの魔導師』ルイ・トリュナ
『魔力を持たぬ魔術師』ディ・アルス
『光の騎士』ナイト・リンガー
『最強の術師』華僑
彼等は神獣の力を借り、魔王がいる世界へと飛びだった。そして……」
次でラストです