30話
「まったく、気法を使わなくても楽に勝てたんではないですか?」
ディの試合が終わってから私達は全員合流した。ちなみに、今日の女性への誘いは失敗しました……トホホ。
ディは魔導師の男に対して始めから本気を出していた。気法で魔法を全て跳ね除け、爪で相手の身体に次々と傷を入れていく。その様子はもう見慣れた。
相手は本気で怖がって自分から降参した。ディはつまらなさそうに爪を指輪に戻した。審判が終わりをつけたと同時にディはさっさと試合場から出て行った。
「まぁな。使いたかったんだよ。ってか、テメェらいつから居た?」
「んー?ルイのときぐらいから居たよ。ルイ、早かったねー」
ニコニコと華僑が答えた。ルイ様はニッと笑ってピースをした。
「でしょ?この僕があんな相手に時間がかかるとでも?」
それから宿に向かった。しかし、なんだか視線を感じる。他の人も思っているのか少々重苦しい空気になった。
と、ディが痺れを切らせたのか此方を見ているであろう人に声をかけた。顔は後ろを向いて。
「……おい、そこの!俺たちに何か用かよ!?喧嘩なら買うぜ」
「ディ、こんな街中で喧嘩騒ぎなんて止めてくださいよ」
「はん。相手はヤル気満々だぜ?」
私達は足を止めて後ろを向いた。もう日も落ちて辺りに人は居ない。
喧嘩腰のディを私はやんわりと制止させた。しかし、それに乗っかってしまう人が約二名……。
「お、じゃあ僕も参戦!」
「俺も参戦ー!」
ルイ様と華僑は手を上げながら言った。私はそろそろ本気で止めないとと思い、3人よりも一歩前へとでた。そして、少し大きめの声を上げた。
「はぁ。そこのお嬢さん!その殺気を引っ込めてくれませんか。じゃないと喧嘩をおっぱじめそうなんで」
気配から女性と判断した。少し見える黒髪も長い。
私が呼ぶとその女性は出てきた。彼女は仮面を被っており素顔が分からないが、黒髪と言い身長が小さいからニナ大陸の人間だろう。しかし、油断は出来ない。魔力が中々大きそうだ。
彼女はルイ様を指差した。
「……私が用があるのは金髪の女だけです。『始まりの魔導師』!私の挑戦を受けなさい!」
「へ?僕?……!いいよ。ただし、城の外でね。ディ達は先に宿に行っていて良いよ」
ルイ様は仮面の女性を見て何かに気がつき、挑戦を受けた。私はルイ様の顔を見た。その目は育った弟子を微笑ましく見る師匠の目だった。
……師匠?弟子?まさか、ね。
「面白そうだから見ておくぜ。なぁ?」
ディが私達に同意を求めてきた。私は少し考えて怪我したら誰が回復させるか考えて同意することにした。華僑は恐らく好奇心から一緒に来るだろう。
「まったく。まぁ、どちらかが怪我したら大変ですしね」
「じゃあ俺も」
「好きにしなさい。早く来てください。………………テレポート!」
話がついたところで仮面の女は詠唱を唱えてからテレポートをした。
それを見た華僑が腕組をして勝ち誇ったような顔をした。
「詠唱となえているってことはそんなに強くなさそうだね」
「さぁね。詠唱を唱えているだけで弱かったら今頃魔法使いは居ないよ。じゃ、僕たちもテレポート!」
ルイ様は詠唱無しでテレポートを唱えた。
……にしても、ルイ様の口ぶりだとあの女性を知っているような気が…やはり、師弟か?