25話
「っ……もうそろそろ良いですかね。私は、此方の船室に行きます。もうあちらに戻れる気力は無いので」
ナイトが顔を伏せながら俺らに言った。ルイの額に乗せていた手を退けてゆっくり立ち上がった。
少しふらついている。ルイに魔力を送る前よりも衰弱をしている。一瞬見えた顔色は青かった。
俺は、一つため息をついてナイトに言った。
「あぁ。ナイト、城に戻ったらちゃんと傷を癒せ。テメェは人を回復させるが自分を回復させねぇからな」
「おや、ばれていましたか」
ナイトが此方を見た。目はいつもより細められ、眉間に若干しわを寄せている。
口は笑っているが目はあまり笑っていない。痛みに耐えている。
「当たりめぇだ。何年の付き合いだと思っているんだ」
「(ディって結構鋭いよなぁ。何でもかんでも見抜くし……)」
ナイトはフラフラしながらも船室に戻ってきた。それと同時にアディも戻ってきた。
先ほどよりも弱ったナイトを見て声をかけた。ここからだとあまり聞えないが何らかの助けを断ったのだろう。そういう男だ。
アディは船室に入っていくナイトを見ながら此方にきた。
「船室には船長と、生き残っていたウィリシア兵のヘルだけだったよ。……ナイトさんは平気かな」
「まぁ、死なねぇとは思うが。城に戻ったら爺に二人を見せるか」
船が動き出した。向かう先はウィリシア王国。
ウィリシア城にいる爺は回復隊隊長。ナイトには魔力では若干劣るが、医術の心得は凄い。ルイもナイトも爺に見せれば大丈夫だと思っている。
「うん。……華僑さん?どうしました」
「ん?あぁ、いや。さっきの魔物は何者かに洗脳されていたと思う。だとしたら誰がしたのかなって」
あの魔物もルイに助けられたといっていた。あと、華僑が見た黒い何か。恐らく本当だとしたら何かは洗脳させた者のオーラだろう。
聞いたことがある。洗脳させるとされた者にした者のオーラや魔力がくっつくと。魔力がある無いに関係なく見れるやつは見れるらしい。
「おい、華僑。アディは俺の弟とはいえウィリシア国王だ。口の利き方気をつけろよ」
「……ディが言う事じゃないと思うけどね」
「俺はれっきとした兄だからな。さて、ルイを運ぶか」
俺は甲板の上に寝そべっているルイをおぶろうかと思った。しかし、それだと……。
俺は少し考えて普通に横抱きにした。……ルイが上着を着ていて良かった。
軽い。戦闘を潜り抜けた女にしては軽い。俺はそんなことを思いながらルイたちが乗っていた船の船室に歩み始めた。
足でドアを開けて階段を下りた。椅子に座ってうつぶせになっている金髪の野郎がいた。その傍には茶色に近い金髪の男……恐らくアディが言っていたヘルと言う奴だろう。船長らしき男もいる。
船長が先に俺の存在に気がついた。そして、すぐにベッドの場所を教えてくれた。俺はそこに向かってルイをベッドに下ろした。
それからうつ伏せになっている野郎に近付いた。
「えっと、ディ様ですよね?初めまして、ヘルと申します」
ナイトの傍にいたウィリシア兵が俺にお辞儀をしながら挨拶をした。俺は軽く首だけ下げた。
俺はヘルと名乗った男に尋ねた。
「俺がいなくなった後に入ったのか。何でナイトはベッドに行かかねぇんだ?」
「それが、『一つしかないのならルイ様を寝かせてください』と申しまして……。簡易的なものを作ろうとしたのですがそれも断ってしまいまして」
少ししょんぼりとした顔になった。
俺はあまり使いたくない言葉を口にした。
「そうか。……おいナイト、今から俺は元ウィリシア王族として元ウィリシア総合隊長のテメェに命令を出す。そんなところで寝ないでヘル達の言葉に甘えろ。テメェがぶっ倒れたら困る」
すると、ナイトは顔を上げいつもの苦笑いで俺を見た。
「その言葉だと断れないじゃないですか……。分かりましたよ。ヘル殿、寝れる所を作ってくださいませんか」
「はい」
ヘルは急いで簡易ベッドを作った。そこにナイトは寝転がった。俺はそれを見届けてから船室から出た。
甲板に出て海を見た。
――あいつの目の色と一緒だ……。無事でよかった。