18話
「か、華僑さん!いま、術を解きますね!」
「ありがとう。にしても、切り傷増えたなー。そんなに深くないから良いけどさぁ」
藍の術で俺は動けるようになった。手をグ、パーしてから刀を握りなおしシア族に面と向かった。
遠くのほうで何かが聞える……?馬の蹄の音かな。しかも、かなりの数だ。
俺はふとそちらを見た。やっぱり馬だ。乗っている人間は全員銀髪……グパ族だ。
―え、何でこっちに来るの!?しかも、今から戦争でもおっぱじめる雰囲気で……。
「華僑殿、わしが伝えました」
そういって爺やが取り出したのは通信用の石。あぁ、なるほど。藍が悠夜の身体を持って立ち上がっている。
この事態にシア族は対処し切れていない。チャンスだ。
俺は思いっきり地面を蹴ってシア族のリーダーらしき人物の首に刀を向ける。
「小僧……!」
「悪いけど、皆は戦うつもりらしい。まぁ、でも少しは話し合いたいんだ。君達のリーダーを出せ」
そこまで言うと、こちらに向かってきたグパ族が到着した。が、俺はそちらに眼を向けられない。
でも、俺の話し声が聞えていたようで馬から下りただけで何もしていない。
刀を向けていたシア族の男が傍にいた部下に長を連れて来いと命令をした。それを受けた部下はダッシュで長がいるであろう所へ向かった。
藍が俺の変わりに男に刀を向けたので俺はグパ族のほうを向いた。集団で来た先頭には長老。
「……長老、もう年なんだから前線で戦うのやめなよ」
「いんや、今回は戦争しに来たわけじゃないが、万が一を考えて大所帯で来たのじゃ。華僑、大きくなって……」
「そう。じゃあ、俺はもう行くから。やらなくちゃいけない事があるんでね。話し合いの席は作っておいたよ」
「いいえ、行かせないわ」
俺がこの場から離れようとしたら後ろから女の声が聞えた。振り向くと先ほどまではいなかったシア族の女。その傍にはさっきの部下。
女の長か。しかも、随分気の強そうだし。面倒なことにならなきゃ良いんだけど。
短く切ってある赤髪、少し釣りあがっている目。ルイに負けず劣らずの露出が高い服装。その背中には大きな弓と矢。
「貴方とも話したい。綺麗な坊や。ふふっ、一瞬女かと思ったわ」
「俺はぜひとも拒否りたいね。もう疲れたし。話すなら長老にしてよ」
「あら、嫌よこんなおじいちゃん。私は、貴方が良いの。ねぇ、お名前は?私は李音」
「……華僑」
李音の傍にいた部下がグパ族となどとか言っている。グパ族で悪かったね。
俺の名前を聞き、俺は無理やり李音に連れて行かれた。俺の後ろにいたやつらはここで待機だとよ。長老も話し合いの席には着くけど発言はあまり出来ないらしい。
まったくもって面倒。
シア族の国の中にある大きな屋敷。中に入って奥に進んだ所に大きな庭があった。そこの白いテーブルと椅子に座った。少し遅れて出されたのは紅茶。
「んで、君は俺と何を話したいの?」
「条約を結びなおさない?べつにさぁ、私はどちらが術が最高とかどうでも良いのよ。だから、同じ術師同士仲良くしない?」
一瞬だけ見えた目の嘘の光。さすが一族の長だけあって嘘を付くのが上手いけど俺も一族全員の命もかかっているからね。見逃さないよ。
「じゃあさ、もう俺たちグパ族に関らないでよ。君達がよくても皆は君達と仲良くするのが嫌なんだよね。それに、もう皆シア族と戦う気満々だし」
「……華僑、貴方何者?グパ族の長でもないみたいだし、でも貴方の発言には力があるわ。腕はそこそこ立つみたいだけど」
「さぁね。さて、結論を出してもらおうか。俺たちと戦うの?それとも……」
「ふふふっ、作戦失敗。戦いましょう」
空気が張り詰めた。席を立ち、三人で皆がいるところに戻った。俺たちを見た瞬間空気を呼んで戦争が始まると感づいたのか皆の顔つきが変わった。
「ごめんね。俺はもっと大切なことがあって戦いに参加できない。だからこの札あげるよ」
俺が取り出したのは守りの札。これ一枚でグパ族全員の命が一回は助かる。これを作るのはとても大変だったけどまぁ良いか。
両者一斉に敵に向かって走り出したと同時に俺は背を向けて走り出した。