17話
「随分エグイな、お前。テメェは結構強いって自覚しているくせにな。俺やナイトでさえ互角に戦うのにも苦労するのに。第一、世界一の魔術師にも引けをとらねぇし」
一回しゃべり疲れて俺はお茶を飲んだ。すると、ディが皮肉めいた言葉を俺に発した。
「お褒めの言葉をありがとう。でも、それを言ったらディだってそうじゃんか」
「いや、褒めてねぇし、俺のときはルイは魔法使ってねぇ。で、続きは?」
「あぁ。それでね……」
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出てきたのは細い男。その髪は俺たちと同じ銀髪。目は死んだように空ろで暗いが赤色。腰にはグパ族が使う刀。
その目を知っている。術の中でも禁忌とされる催眠――。それを掛けられた人の目だった。
と、言うことはシア族に催眠された同族か。
「なんと酷いことをさせるのだ……」
「爺や様……。華僑さん……」
「催眠、ね。まったく、面倒なことをしてくれるよ。しかも結構強力そう」
「その通りだ!!コイツはそこそこ腕も立つからな!貴様に同族を倒せるか!それと、この男には喋るなと命令してある!」
男は無言で刀を抜いた。俺も抜き、刀を相手に向ける。
勝負は先に参ったと言うか殺されるか。
じゃあ、俺が勝つには男を殺すだけ。そうシア族は思っているのかげらげらと下品な笑いが聞える。
男は俺に向かってきた。しかし、刀は地面を向いている。俺が困惑した瞬間その刀は俺の視界から出てきて俺を切る。しかし、殺気を感じてとっさに後ろに飛んだため髪が少し切れただけだった。
「君は悠夜だね……。こんな剣術は悠夜だけだ」
「……」
俺が名前を呼んだ瞬間男の目線が少しだけ揺らいだ。当たっている。
悠夜は我流で剣の腕を磨いてきた。0から修行してきた所為かその剣術は独特すぎて掴み所が無く戦うには嫌な相手だ。
俺は刀を逆さで左手に持ち、右手に力を入れた。催眠を解こうとした。
今度は俺から突っ込み左手で攻撃をかわしながら必死になって催眠を解くが、あまりにも悠夜の剣筋が見えなくて身体には次々と傷が刻まれていく。
俺は一旦身を引いた。作戦を練り直そうとしたが悠夜がこっちに向かってくる。ダメだ。考えている暇なんか無い。とりあえず気絶させるか。
もう一回身を引いて右手に刀を持ち直し左手には忍ばせておいたクナイを持った。んで、両方同時に突っ込んで攻防を繰り返しながら相手の身体に傷をつけていく。
でも、俺が不利なのには変わりは無かった。
「悠夜!聞こえる!?俺は君となんか戦いたくない!少しでも聞こえたなら洗脳を解く術にかかって!!」
「……っ」
一瞬動きが止まった。俺はその隙を見逃さずに峰打ちで相手を吹っ飛ばした。たまには役立つこの馬鹿力。
気絶させるほどまでは行かなかったけどそれなりのダメージは受けたはず。起き上がってまた俺に向かってくるが少し速さは落ちている。
よし、あとちょっと……。そう思ったが俺自身の身体が動かなくなっていた。何故?
「ふははははははは!!!!やっと術が効いたな!もう、貴様の負けだ!」
「っ……!悠夜!目を覚ませっ!」
「ぁ………かきょぅ……」
もうダメだ。そう思って目を瞑ったが痛みがいつまでたってもこない。最後に見えたのは俺の首へと向かってくる刀なのに――。
恐る恐る目を開けて見ると目の前にはボロボロと涙を流している死んだ目のままの悠夜。俺の首には刀。あぁ、声が届いた。それに、少し前にダメ元で掛けた術も若干効いているみたいだし。
悠夜の後ろにいたシア族が何か喚いている。殺せだとか、何で動かないのかとか。俺の後ろにいるグパ族は何もいえずにいるのか何も聞えない。
「ぉ、れ。なに、を……?」
「気にすんな。ちょこっと眠っててね」
俺は動けないから口だけで術を掛ける。すると、悠夜の目に一瞬光が戻って倒れた。
あ、参ったって言わせるの忘れてた。