第31話:銀髪ヒロインの密かな決意
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ボタニカル公園を出てショッピングモールを後にする頃には、すっかり日は落ちていた。
結愛の家までの帰り道。冷え込んできた冬の夜道でも、繋いだ手はずっと温かいままだった。
「あっという間に夜になっちゃったな。……明日から、また学校か」
「うんっ。明日の朝も、私が必ず湊くんのお家まで迎えに行くからね!」
隣を歩く結愛が、繋いだ手をぶんぶんと振りながら元気よく宣言する。
記憶喪失になってからの学校はすでに一日経験しているとはいえ、やはり不安はある。
だからこそ彼女の言葉はすごく嬉しいのだが、今日一日、ずっと俺を気遣ってエスコートしてくれた結愛も疲れているはずだ。
「来てくれるのはすごくありがたいけど……あまり無理はしなくていいからな? 毎朝じゃ結愛も大変だろ。負担になってないか?」
「全然! 負担になんてなってないから大丈夫だよ。むしろ私が行きたいの!」
「そっか。……じゃあ、お言葉に甘えて。明日も待ってるよ」
「うんっ! 任せて!」
そんな他愛のない会話をしているうちに、結愛の家の前に到着してしまった。
名残惜しいけれど、繋いでいた手をゆっくりと離す。
「送ってくれてありがとう、湊くん。今日はすっごく楽しかった!」
「俺も楽しかった。おやすみ、結愛。また明日な」
「うん、また明日ね!」
玄関のドアが閉まるまで俺に手を振り続けてくれた彼女を見届け、俺は自分の家へと歩き出した。
【結愛 視点】
「はぁ〜……っ」
自分の部屋に戻るなり、私はベッドにダイブして、お気に入りのクッションをギュッと抱きしめた。
銀色の髪のサイドには、今日彼がプレゼントしてくれた雪の結晶のガラスピンが留まったままだ。
それにそっと触れるだけで、胸の奥がじんわりと熱くなって、自然と顔がにやけてしまう。
「湊くん、本当にかっこよかったなぁ……」
クッションに顔を埋めながら、今日一日の出来事を思い返す。
記憶をなくした彼を不安にさせないように。
もう一度、私に惚れ直してもらえるように。
今日は私からいっぱい甘やかして、リードするつもりだったのに。
(……完全に、私の方がドキドキさせられっぱなしだったよ)
フードコートで真っ直ぐに私の目を見て、内面まで褒めてくれたこと。
公園で堂々と手を繋いでくれたこと。
鳥さんと遊んでいる私を、愛おしそうに写真に撮ってくれたこと。
そして、この綺麗なヘアピンのプレゼント。
記憶がなくても、湊くんの根っこにある誠実さや優しさは何も変わっていなかった。
いや、むしろストレートに言葉をぶつけてくる分、破壊力は記憶喪失前よりも上がっている気さえする。
「私、負けてる……遅れをとってるよ」
ベッドの上でごろんと寝返りを打ち、天井を見上げる。
嬉しさで胸がいっぱいになる一方で、私の心には小さな「反省」も浮かんでいた。
『今の俺からの、最初のプレゼントってことで』
彼がくれたあの言葉。
湊くんがわざわざ『今の俺』という言い方をするのは、きっと記憶をなくす前の『過去の自分』をライバル視して、引け目を感じてしまっているからだ。
「私が……ふとした時に過去を思い出して、寂しそうな顔を見せちゃったからだよね」
過去の記憶が大切なのは本当だ。
でも、その心の揺れを湊くんは見逃さなかった。
私のせいで、彼に劣等感を感じさせてしまっている。
彼の自己肯定感を下げてしまっている。
私ってば、彼女としてまだまだ未熟だ。
「このままじゃダメだよね……」
過去の思い出を、無理に隠す必要はない。
昔の湊くんが大好きだったのは、紛れもない事実だから。
でも、だからといって『今の湊くん』が劣っているなんてことは絶対にない。
記憶がない中で、一生懸命私に向き合おうとしてくれたこと。
私の寂しさに気づいて、不安を拭おうと真っ直ぐに言葉をくれたこと。
少し照れくさそうに、このヘアピンを選んでくれたこと。
――そんな『今の湊くん』のことも、私はもう、すっごく大好きなんだ。
「湊くんの自信、私が満たしてあげなきゃ」
ただ「好き」って言うだけじゃ、きっと足りない。
彼が『過去の俺じゃなくてもいいんだ』って心から安心できるように。
昔の湊くんも好きだけど、『今の湊くん』のことも同じくらい大好きだよって、私がちゃんと態度と言葉で伝えていかなきゃいけない。
「どうしたら、湊くんが不安なく私と一緒にいてくれるかな……」
ベッドの上で身を起こし、私は両頬をパンッと軽く叩いて気合を入れた。
明日からは、また学校が始まる。
『今の湊くん』の自己肯定感を爆上げして、私をもっと大好きにさせるための作戦。
「明日の朝、会った瞬間に……よし、これで行こう」
彼を不安にさせないための、私からの新しいアプローチ。
その第一歩を頭の中でシミュレーションしながら、私は静かに決意を固めた。
第31話をお読みいただき、ありがとうございました。
久しぶりのヒロイン視点でした!
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