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「わたくしも皆様のお力になれるようであれば、遠慮なく使ってください」


 イリアが俺の要求に対して二つ返事をしてくれた。国外追放された王女とは思えないほどの清楚さをもちあわせている。出来ればあまり負担はかけたくない。だけど俺達が生き残るには彼女の力がいる。利用するようで申し訳ないが時間がない。


「イリア様だけでいいんですか~? あたしだって元筆頭聖女だよ~~。ここは皆一蓮托生って言ったのは建前じゃないし〜。だからあたしもこき使ってやって下さい。リーダーの如月様」


 最初は自分がリーダー気取りだったはずだが、もういいらしい。イマイチ信用ならないが熱意は買う。

 落ち着いたところで、俺はマリアンヌに質問した。


「マリアンヌ、最後のカードとはなるけど、君に所持パトスがあるのなら教えておいてくれ。差しさわりなければ」


 マリアンヌがごめ~んと言いたそうな表情だ。


「あっ! そういえばあたしだけまだパトス開示してなかったね! あたしのパトスはずばり『現状維持』です。使えなさそうだけど、結構レアなんだよ〜。ちなみに筆頭聖女だったけど、聖魔法は無理です。聖女ではあるんだけどね〜、主に職務はお祈りだったんで」


『現状維持』か。随分向上心がなさそうなスキルだけど……


「フレーバーテキストによると、パッシブスキルで対象に設定出来るのは一度に3つまで。効果範囲は半径1000㍍で、主に自然現象で起きた事象を継続させられるよ」


 雨天の時に雨が局所的に降り続いて欲しい時に使うって事か?

 豊穣を願う聖女だったらバッチリのスキルだな。


「あと君が抜けてきたっていう超最悪の地獄の魔法陣の事なんだけど、それは一方通行のもの? システム上は行き来可能だとしても、流刑だから当然戻るのは許されないだろうけど」


 この質問に関してマリアンヌは心底申し訳なさそうな表情をした。地雷だったのか。


「地獄の魔法陣が行き先に施されるのは人食い魔境の中でも一番瘴気が高い場所なの~。これは一度言っていたとおりだよ? つまりこの室内がこの辺りで一番瘴気が集まった所なんです。で、問題の魔法陣は完全閉塞型。この室内に出口が出来たんだけどそれっきりで閉じちゃいます。戻れません。そして新たな転移用の魔法陣描いてもかき消されるので上書きは出来ず、逆にこちらの室内に新たな魔法陣で転移してくる事も出来なくなるの。ごめんなさーい、完全にあたしのせいで」


 マリアンヌのせいで教室への転移または教室からの転移が全く出来なくなったということか。

 つまり、転移は一方通行の後閉ざされた、そして教室内にはマリアンヌのように人が突如降ってくるというような事はもうないってことか。


「えっ? それってもしかしてアリシアはもうこの室内には転移して来れないって事?」


 察しのいい村木さんはそう聞き返す。


「そのアリシアっていう人物が魔法を使って転移してきたのなら、もうそれは不可能という事になります」


「マリアンヌさん!! ここに来てくれて本当にありがとうございます。超ラッキーです」


 臭いものにフタをしたような感じだな。

 佐伯先生も思いがけない幸運を喜んでいる。女子高生のような喜び方だな。かわいらしいと言う言葉が似合う。こう見るとやはり15歳程度に見える。イリアとマリアンヌに交じっても1人だけ8歳年上だとは到底思えないだろう。


「確かにこれで脅威が一つ減ったと捉えていいかもしれないな。おそらく勇者試験の結果が分かる10日後まで、もしくはもうここ自体に来ることはないと踏んでいたけど、確実に来れないことが分かったのは僥倖だ」


 このような話し合いは必要だが、日没は迫ってくるものだ。夜は休むのも大事だから、今は仕留めたキングタイガーの解体を急いだ。仕留めた場所から5㍍もの巨体を教室まで運ぶのは無理だ。ただし、教室から半径500㍍はほぼ安全は確保出来ているので、5人で教室とトラの間をいき来しつつ適当な石、そして掃除用具入れにたまたまあった草刈り鎌で根気よく解体していく。


 一段落した所で、6つの机で作った円卓に集まる。机をくっつけ合う即席のものだがお互い表情が見られるのは大事な事だ。具合の悪さとかがいち早く発見出来るし。


「皆さんお疲れ様でした。ほんとならここで飲み物が欲しい所ですけど……」


 佐伯先生は、ティータイム欲しいな〜と言う表情だ。

 まあ、ここには年頃の女の子が3人(23歳のエセ15歳入れたら4人)いるから、本来なら女子会が出来ても不思議はない。

 だが、今はそれどころではない。


「俺のバッグどうやら持っていかれてなかったから、水筒に麦茶があるんだ。到底物足りないけど、皆で分けよう」


「如月君、いいの?」


「いいも悪いもないだろ? 絶対飲んでおくんだ。拒んで体調崩したら、逆に皆に迷惑がかかる」


 皆納得したようだ。水筒のフタをコップにして回し飲み。非常時だ。間接キスとか気にしない。恥じらっている暇はない。


「如月英多君、これって……」


 えっ!? 何故、佐伯先生が頬赤らめて恥じらってんだよ! 意外にナイーブな人だな。青春真っ盛りを今満喫し始めた23歳なのか。


「一息ついた所だけど、マリアンヌ。早速君に活躍して欲しいんだけど頼めるか?」


 俺は単刀直入に切り出す。実はエネルギー消費を最小限にする為、会話は短く要点をまとめるように皆に言ってある。会話でのエネルギー消費ってすごいらしいからな。致命傷受けた人が、もうしゃべるなって言われて、しゃべらなかったから生き残れたなんて話もあるくらいだし。


「あたしに出来る事なら何でもいいよ〜。なんたって英多さんって、あたしのヒーローみたいなもんでしよ? さっきのキングタイガーとの格闘マジでシビれちゃったな〜。だって、英多さん、何もスキルないんだよ〜、それでも1人で果敢に突っ込んでいくとか、超ヤバかっこいいじゃん、あたしちょっとキュンキュンしちゃって、もう超憧れるっていうかぁ……」


 言っていたそばから、無駄なエネルギー消費を始めた聖女。賢いのか馬鹿なのか分からない。


「――まずこの教室の建物ごと『現状維持』をかけて欲しいんだ」


 マリアンヌの無駄なエネルギー消費を語気を強めて無理やり止めた。

 そう、俺達が生き残れるかはこれから先、教室がカギになる。

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