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「んもう! イリア様、そんな事言ってる場合じゃないでしょう。あたし達はもうここにいる時点で一蓮托生なんです。みんな協力しなきゃやべー状況なんです。その為にはパトスこそが最後のカードなんです。分かります~? 分かりますよね? あたしだって伊達に3年間も、由緒ある神聖国であるシャーディー王国の聖教会で伊達に筆頭聖女やってたわけじゃないんです。そりゃあ、今回のこの所業はむかつきましたけど、まだ終わりじゃない、イリア様もいるし、佐伯さんも如月さんも村木さんもいるじゃないですか? ただの有象無象ではないでしょ? きっとみんなのパトス組み合わせれば何とかなる寸法です。じゃなきゃ人生おかしいでしょ。そうです、どうにかなるんです」
この聖女、話してるだけでエネルギー浪費してないか? だけど言わんとしてることは分かった。
「マリアンヌ様の言う通りですね。ではわたくしのパトスから。わたくしのパトスは『土魔法』です。使いどころが限られてしまい、所持者もほぼ皆無のようです。ですのでわたくしの使いどころは政略のための道具だとわり切られたようです。主に土壌の掘り起こしや掘削、整地、掘り起こした土を積み上げる等、難易度によって消費SPは変わります」
完全に政治の道具にされた可哀そうな王女か。父親がクソなのかもしれないが嫌なもんだな。
それにしても土魔法か。確かにパッとしない。火や雷のようないかにも攻撃っぽいものなら分かりやすいが。
「わたしのパトスはえっと……『鑑定』みたいです。素材の価値や、薬草の選別、飲食可能かどうかの見極め、魔物の特性を見抜く、それと……パトスの解析など」
「『鑑定』!? 佐伯先生様、伝説のパトスです。現時点で所持しているのは佐伯先生様だけなので詳しいフレーバーテキストはわたくしも初めて知りました。絶対に鑑定の事は他の方にはおっしゃらないで下さい。特に最後のパトス解析は……」
確かにサバイバルが必須となったなら、間違いなく有用なスキルだろう。村木さんの話ではアリシアもパトス鑑定が出来るという事だったが、おそらくアリシアは何らかの制約がつくと予想が立つな。
「えっと、わたしは……『ウルトラエイミング』。投擲または弓矢の命中率、射程距離の上昇、上り幅は通常時の役3~4倍程度となってるわ」
村木さんはエイミングか。弓道部だから恩恵はありそうだな。ざっくりだから分かりづらいけど通常時の3~4倍って結構やばくねーか?
「村木紗枝さんは弓道部だから、嬉しい能力ですね。ちょうど部活用の弓矢がロッカーにあるようですし」
「はい、たまたま昨日手入れの為、持ち帰っていて今日家から持ってきていたので運が良かったです」
「わたしと村木紗枝さんは自分の技能を伸ばせる能力と、ちょっと役立てられそうな能力でしたね。じゃあ、如月英多君のパトスももしかしたら役に立ちそうですか?」
佐伯先生が自分のスキルを話し切って落ち着いたのか、俺へ質問を投げつけた。
「あ~、え~と、それなんですが……俺もらってないようです」
期待させて悪かったと頭を掻く。
「「え~~!?」」
「英多様、それは本当でしょうか? 紗枝様のお話ですと、あなた方全員にパトスが付与されたという事でしたが……」
イリアは不可思議な表情だ。
「うん、確かにエミルが丁寧に付与していたようだったんだけど。だから全員終わるには10分くらいはかかっていたけれど」
村木さんも考え込みながら答える。
「如月さんだけパトスなしか~。ちょい厳しいって感じ?」
マリアンヌの反応はまあどうでもいいか。
「如月英多君、だからと言って君がクラスカースト最下位だとか、無能だとかに決まったわけではありません。あなたには探せばいいところが沢山ある事をわたしは知っています。だから、大丈夫です。わたしの大事な生徒に無能などいません。パトスなんて努力すれば出来るんです」
佐伯先生、煽っているようにしか聞こえないし、パトスは努力すれば身に着くようなもんじゃないと思うが。
「けどね、村木さんの話やイリア、マリアンヌの話を聞くうちに分かってきた事もあるんだ。ただ確信はあるけど確定じゃない。それより今は今日どうするか? だ。最低限の水食料は確保しないといけない。時間はない。今から俺が外に出て食料を調達しに行こうと思う」
俺は教室後部の掃除用具が収まったロッカーを開け、モップを取り出した。そして、相沢さんの遺体へ向かう。そして、モップを飛び散った血溜まりへ。血を吸わせた。俺だったら細田先生の血より若い女の子の相沢さんの方がいいからな。
――相沢さん、すまない。悪いけど手伝ってもらうよ。
「如月君、一体何を?」
村木さんがしどろもどろになる。どうこうしている暇はない。今はまだ教室内の時計は4時を指している。おそらく日が暮れてしまうと動きがとれなくなる、今が勝負だ。
「いいかい? 今から俺が教室から離れ、魔物を威嚇する。さっきから外を見てはいたけど、半径500㍍ほどは平原で見渡しは悪くない、虎のような獣はウロウロしているようだけど。そして何故かそれ以内には魔物は侵入してきてはいないんだ。何らかのバリアーみたいなものにタジタジしているような感じだ。ただし空腹の魔物であればおそらく無視して侵入するだろう。相沢さんの血でかなり教室近くまで誘導できるはずだ。そして射程に入ったら教室の窓から、村木さんの弓矢で射抜いてもらう」
ここの魔物はおそらく群れをなさず個で動いている。プライドがあって強いって事だろう。それも食物連鎖だとかなり上のランクに位置する。だから単独でおびき寄せれば勝ち目はある。
「如月君がおとりをするって事!? そんな……だってあなたはパトスがないじゃない」
「如月英多君、それは教師として認められません。絶対です。もし如月英多君がそんな蛮行をするというなら、わたしが代わりに行きますから」
「如月様、無謀でございます。もう少し考えをまとめましょう」
「如月さん、それ超激むずって感じなんだけどー。どうしてもって言うなら、あたしおとりしてもいいよ。こんなキャピキャピの美少女なら魔物も喜ぶだろうしー。でもきっとあたし助かんないよね……」
こう集中砲火を浴びるのは分かっていたが、時間もないし、他に上策もない。
俺の心は決まっていた。




