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 ――禍々しいばかりの魔法陣。


 それを見るなり、村木さんと佐伯先生はエミル、アリシアの来訪を思い出し、恐れおののいた。腰を抜かしそうな感じで立ち上がり後ずさる。アリシアの再来が目に浮かんだのだろう。

 エミルは死んだが、アリシアは存命だからな。無理もないだろう。


 やがて魔法陣から人の臀部と思われる部位が現れた。

 身体をくの字に追っているようで、空中に全てのパーツがそろうと、重力に任せ机の上に落ちてきた。


「ぴぎゃ~~!!」


 魔物の咆哮のような雄たけびを上げたが、現れたのは神官服を纏った少女。聖女だと思う、おそらく。


「いった~~。あたし……じ……地獄に落ちてしまったのでしょうか……」


 強打したと思われる臀部をさすり、自問自答しているが、声色や何とも間抜けな現れ方をしている事から、アリシアのような残酷な奴ではないと判断した。


「地獄へようこそ!」


 俺は歓迎する事にした。


「あ……あなたはシャーディー神聖教会の筆頭聖女マリアンヌ・フォンデュ・アークライト様ではございませんか?」


 イリアが驚きつつも、臀部をさすっている少女に腕を出しいたわり始めた。おやつと北欧神話組み合わせたような変な名前だな。


「えっ? え~~~!? イリア王女様ではないですか? リブレ―王国の王太子殿下の婚約者がどうしてこんな地獄に……あなたはこんな掃き溜めのようなところにいていいお方ではありません」


「わたくしは、この転移者の方々に救われてここにいるのです。ですのでここは決して地獄ではございませんよ、マリアンヌ様」


 マリアンヌと呼ばれた少女は、イリア同様清楚さを兼ね備えている極上美少女だった。こちらは柔らかそうな銀髪に藍色の瞳、際立つハイライト、胸のあたりの膨らみは控えめだが、身体の曲線美は神官服の上からでもわかるくらいだ。一言で表せば、淑女と言える。


 だが、その後の言動で俺は彼女の評価を改めることになる。


「あたしには分かります。この室内には禍々しいばかりの呪術的なオーラを感じます。超やべーって感じです。あたしはシャーディー神聖教会の地下にある監獄に幽閉され、7日後の裁定でこの魔境流しになりました。あたしの何がいけなかったの? 超聖女の仕事してたじゃん! その裁定間違ってね? 神聖教会どういう神経してんの? 馬鹿なの? 死ぬの? って感じですよね? っちゅーわけで流刑の為だけに存在するあの超最悪の地獄の魔法陣からここに来たのでございます。地獄の魔法陣が選択する流刑地は迷いの魔境の中でも一番瘴気が高い場所であり、すなわちここになるのです」


 こいつ自分からベラベラ話し始めてるんだけど、味方にすれば利用価値があるかもしれない。ただし、おそらく馬鹿だ。言ってることがほとんどただの罵倒だしな。


「あ……あのマリアンヌ・フォンデュ・アークライトさん? もうここが異世界である事はどうしようもない事実だと認めます。ですが、この教室を地獄と表現するのは聖職者として聞き捨てなりません。この神聖な教室の一体何処を以って地獄と言えるのですか?」


「佐伯先生、もう如月君が既に地獄へようこそとか勝手に言ってますよ。それに……」


 村木さんが細田と相沢さんの遺体に眼を向ける。


「まあまあの地獄だよな」


「……っ。如月英多君の言う通りです。認めたくはないけど認めます」


 佐伯先生は仕方なく顔を伏せた。


「えっと、それじゃあ、あたし達はこれからどうすれば助かるのか行動に移さなきゃならないわけですよね? 任せてください。リーダーのあたしがちゃんと皆を導いてあげるので!」


 マリアンヌは寄せ合った机の上で立ち上がると、大きく腕を振り上げた。どうもかっこつけたいらしい。彼女は2体の凄惨な遺体は勿論認識はしているが、気にした表情はない。職業柄そういったものを前にしても慣れているのかもしれないが。


「マリアンヌさん、一旦落ち着いて。ここはもう既にまずい極限状態にあるのです。水食糧が全くない、しかも外は危険地帯、冬山の遭難なんかよりよっぽどデンジャーな事態なんです。まず当面はこの状況を解決しなければなりません」


 村木さんがついに口を出した。無駄なエネルギーは使いたくないと黙っていたようだ。


「そういえば、あなた方は一体何者でしょうか? 地獄の使者にしては少々心許ない見てくれですね」


「わたし達は地獄の使者ではありません。わたしはこのクラスの副担任佐伯麻衣と言います。そしてこちらの女の子が村木紗枝さん、男の子の方が如月英多君です。村木紗枝さんの言う通り状況は切迫しています。イリアさんとマリアンヌさんの国の事情もあるでしょうが、今はこの訪れる飢餓をどうしのぐかが問題なんです。だから何とか協力しては頂けませんか?」


「マリアンヌ様、わたくしからもどうかよろしくお願いいたします。わたくしはこの方々のおかげで命が救われました。ですのであなたにも協力して頂きたいのです」


 イリアまで援護射撃に出た。


「佐伯さんもイリア様も大丈夫です。あたし分かってますよ。今は国がどうとかの事情より生き延びるにはどうするか? ですよね? ちょっちきついですが方法はあるかと思います。まずは如月さん、村木さん、佐伯さん、イリア様……皆様パトスはお持ちですか?」


 切り替え早いな。しかも状況を素早く理解した。皆の名も覚えたようだ。どうやらマリアンヌはただの馬鹿じゃないようだ。


「マリアンヌ様、おそらくここにいる全員パトスは所持しています。ですが公開し合ってもよろしいでしょうか? シャーディー王国では冒険者パーティー内のパーティーメンバー以外には自らのパトスを晒してはならないという暗黙の決まりまであったと思うのですが」


 初見殺しの能力だとかの所持者は確かに死活問題にはなるだろうな。

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