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2/10

 ――午後2時。ホームルームにて。


 担任の細田が黒板に、誰もが教室さえ出てしまえば忘れてしまいそうなしょうもない言伝を列記している最中の事だった。


「え〜……だからこそ、このC組はより一層の努力が望まれるわけです」


 相変わらず担任評価だけを上げ、目前の学年主任の座に居座りたい一心だ。

 そんな教師の自己満足でつまらない時間、ちょうど2時に差し掛かる時だった。


 突如教室内の空気が一変した。

 今まであった甘ったるく眠くなるような空気が消え、妖艶とも思える瘴気を孕んだようだった。

 そして、教室全体が真っ白な閃光に包まれた瞬間、誰もが条件反射のように目を細めた。


 やがて、目が回復すると、教室の外はあり得ない平原が広がっていた。そして、教壇床に大きな魔法陣が浮かび上がり、気味悪がった細田は、咄嗟に魔法陣から身を避けた。


 すると、その魔法陣の中央に人影が出現した。

 明らかに学校関係者ではない異国のような綺羅びやかな衣装。身体の線が際立つようなブラウスに清楚なスカートを身に着けた流れるようなエメラルドグリーンの髪の高校生くらいの少女だった。


「皆様、始めまして。わたしはリブレ―王国のエミルと申します。わたしはこの世界の者ではありません。現在こちらの言語レベルでお話しているので、わたしの言葉は理解出来ているのではないでしょうか? 

 そこの指導者の方、如何でしょうか?」


 少女が教壇下へ飛びのいている細田へ向かい、手のひらを向けた。そして細田の眼を向けさせた。

 全く要領を得ない少女の登場に、歯ぎしりしながらも、細田が声を出した。


「き、君は何なんだ! 一体何処から現れたんだ? 学校関係者ではないな、ここは君のような部外者が立ち入っていい場所ではない。大事なホームルームの最中なんだ。

 佐伯先生。すぐにこの部外者を連れ出して、職員室の教頭に報告してくれ」


「……あっ、はい! すぐに」


 声をかけられた佐伯が動いた瞬間……


「あなたこそ、事情を聞きもしないで失礼ですよ?」


 細田を凝視した少女が宙に手をかざし、拳を握ったと同時に狼狽した細田の頭部が唐突に破裂した。


 一瞬の出来事に佐伯はフリーズしてしまい、生徒達も信じられない光景に驚愕を隠せず、あまりの恐怖に悲鳴すらあがらなかった。


「あっ! ついムカついたので、やってしまいましたが、わたしは本日皆様にあるお願いがあり、やってまいったのです。それはわたしの世界に勇者を擁立させる必要があり、あなた方を候補者と致しましたので、選抜試験に参加して頂きたいのです」


 まだ誰もが微動だにしない。

 目の前の殺人鬼に対し、身が凍ったままなのだ。


「もうお気付きかと思いますが、この教室と言うのでしょうか? この室内空間ごと、わたしの世界に転移させました。帰る事は出来ず、あなた方には、勇者になると言う選択肢しかございません」


 ここで初めて立ち上がり、声を上げる者がいた。


「どういう事ですか? ここは地球ではないのですか? あなたは誰で、どうしてこんな酷い事が出来るのですか?」


 正田瑠美(しょうだるみ)と言う学級委員だった。普段からリーダーシップがあり、成績上位のまともな生徒だった。


「まだ説明途中ですよ。それにそんなどうでもいい質問重ねられては、あなたの器量も底が知れますね。まあ、いいでしょう。一つだけお答えしますと、わたしは勇者擁立と言う責務を負った代表者であり、あなた方がその候補者だと言う事です」


 少しでも、エミルの機嫌をそこねると、たちまち細田の二の舞いになる事に恐怖した正田は、大人しく席に座った。


「勇者と言うのは、わたしの世界ではほんの一握りに過ぎない崇高な方々、大変貴重な存在になり得ます。ですのでもし、あなた方の中から1人でも勇者になり得る方が現れたのなら、功労者の役得として、クラス全員の一生の安泰をお約束しましょう」


 そこへ再び質問をする生徒が立ち上がった。

 村木紗枝だ。


「あの……何故戦闘経験もないわたし達が勇者候補なのですか?」


「そうですね、そこはお答えしましょう。わたしの世界には、類まれに『パトス』と呼ばれる固有の特殊スキルを持つ子供が誕生します。

 ですが、それは本当にほんの一握りであり、そのスキルも有用でないケースがほとんどです。ですが、あなた方地球人には、『パトス』は存在しておりません。わたし達はその真っ白なキャンパスとも言えるあなた方にこそ、価値があると判断しました。

 そして、強制的に地球人に『パトス』を付与させる事に成功したのです。半ば出来上がり済みのわたし達の世界の限界の見えている『パトス』では、なかなか勇者と呼べる器には成長出来ません。

 言うなれば、地球人であれば、100%の、割合で『パトス』を発現させる事が出来、勇者が誕生する可能性が劇的に広がります。

 とは言え、なるようにしかならないと言う特性もあるので、説明よりは実用化して認識して下さい。

 では、これより『パトス』の付与に入ります。これだけの人数です。若干時間がかかりますが、絶対にその場を動かないでください。もし無視して動いたなら、その方もあの指導者の方のようになります」


 エミルが胸の前で、両手を組み、静かに祈りを捧げると教室内が生気で満たされ、一人一人の身体に吸収されていった。10分ほどでクラスメート全員に行きわたったようだ。


「今、あなた方全員にパトス付与の術式を施しました。各自脳裏に所持パトスと、能力詳細が刷り込まれていったはずです」


 皆ようやく我に還り、脳裏に宿った『パトス』を反芻していた。


「エミルさん、能力は分かったのですが、消費SPスキルポイントと言うものが必要のようです。わたしは現在SP100となっていますが、これは?」


 相沢美香だった。

 かなり汗をかいていて、顔色も悪い。


「本来であれば、、わたしの説明はここまでなのですが、サービスとしてSPについて説明します。SPは上限100で24時間毎に全快します。所持パトスがパッシブ(常時発動)型であれば、消費SPは24時間で100となりますので常時発動型のパトスであればSPは気にする必要はありません。それに対しアクティブ型であれば、例えば消費SP10であるパトスならば、1日に使用できる上限が10回となります」」


 納得して相沢は座り直した。


「これ以上はお答えできません。注意事項としては勇者試験において、この場での棄権は即制裁が下ります」


 ″制裁″と聞いた一同は、細田を一瞥し、恐怖が再燃した。自分達に逃げ道はない……


 やや長い沈黙があり、頃合いを図ったようにエミルが言葉を発した。


「では、これより勇者試験を始めさせて頂きます。適合者があなた方の中から現れる……う、うぅ……」


 エミルが目を見開いたと同時に、仰向けに倒れた。


 ″何故?″と最後に自問したようだが、美しい顔が苦悶の表情に変わった。


 そして目は大きく見開いたまま、二度と瞬きをする事はなかった……


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