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豪華すぎるほどの露天風呂が完成した。
イリアは脱衣所、洗い場まで整地してくれたようだ。
どうやら王宮住まいの名残でやたら豪華な造りにこだわったらしい。
まあ、床は石なんだけど、これから改良の余地ありってところだろう。
勿論、今のところ屋根はないが。
辺りは大分日が陰っている。教室の時計は6時を指している。
「とりあえずまずご飯にしませんか?」
マリアンヌがまず夕食を切り出した。
「いや、その前に……」
いつまでも放ってはおけない。
細田先生と相沢さんの惨い遺体を。
相沢さん、さっきは助かったよ、ありがとう……
それと細田先生……あなたなら持っているはずですよね? だって俺は知ってるから、あなたが聖職者であろうと暇と場所さえあれば、あれをやってたのは。
ポケットをまさぐってみる。すみません、泥棒のような真似をして。
だが目当ての物があった。ライター。
「村木さん、佐伯先生、キングタイガーを焼いていて欲しいんだ。俺はその間に、この2人の弔いをするから」
惨殺遺体なんかに慣れていない村木さん、佐伯先生の手を借りるわけにはいかない。これこそ俺の役目だろう。
2人が曖昧な相槌をうつ。
「あとマリアンヌ、このライター、火をつけられる代物なんだけどさ、これに『現状維持』かけてくれるか?」
「えっ? それで火魔法が使えるんですか~? わっかりました~。えいっ!」
マリアンヌの『現状維持』は対象数に制限がなくなっている。従来の3つまでだと用途を絞らなければならないが、ここは教室内。
『現状維持」でオイルの減らないライターが出来上がった。
「マリアンヌさん、わたし調味料持ってるのでそれらにも『現状維持』かけてもらえますか?」
そういえば、佐伯先生は家庭科部の顧問だった。バッグから各種調味料を出している。塩、コショウ、醤油、ソース、オリーブオイル、転移前は放課後実習予定でもあったのかもしれない。用意がいい。
「はいは~い、まっかせて~! 佐伯先生すごい用意いいですね~。お料理よくするんですか~? あたし料理がすっごい苦手でして~」
マリアンヌはどうもパリピっぽいし、料理できる人に寄生するタイプなのだろう。
「如月様、わたくしもお仲間の方の弔い、お手伝いしてもよろしいでしょうか?」
イリアが嫌だろうと思われる事を申し出てくれた。
「イリア、すまない。そうだな、外に2人分の穴を掘ってもらえるか?」
「造作もないです。ちゃんとしたお弔いは故人を幸せな来世へ導くと言われていますから」
2人とも今日この場で死んでしまうとは思っていなかっただろう。せめて来世があるのなら、幸せになって欲しい。確かにその通りだった。
2人の遺体を慎重に運び埋葬した。教室に残った血痕は、村木さんが綺麗にしてくれた。終わったところで皆集まり、墓標を立て手を合わす。
「さて、湿っぽいのは終わりにしましょう。わたし達は早く元の世界に戻って、如月英多君にも村木紗枝さんにも学校に戻ってもらわなきゃいけないのだから。でも勉強遅れちゃった分は、補習が必要よね。他のクラスメートの皆さんと早く帰らないとね」
あくまでも教師を貫く佐伯先生。教師としては当然とはいえ、今日のような心身を壊しかねない出来事の最中でも生徒は守るというスタンスを持っている。今日ここにこの人がいて良かったと思う。
キングタイガーの肉は、『鑑定』での結果通り、十分食用に適していた。臭みが少なく魔物とは思えないほどの歯ごたえのよい肉質。
「王室料理では、サーベルタイガーが具材として使われていましたが、キングタイガーは初めてです。まさかこんな辺境魔境に追いやられて、至高の高級食材にありつけるなんて思ってもみませんでした」
「それもこれも全ては如月さんの活躍あってこそですよねぇ。あわっ! これマジうま!! マジパネェっす」
「美味しい!! ねえ、こんな極限の状況なのにこんなグルメの食べ物食べられるなんて、わたし今日2人と一緒にここに残ってよかったな」
「他のお仲間さん達、皆、如月さんと佐伯先生と村木さんを生贄ってか置いてけぼりにしてったんでしょ? ひどいよねぇ」
「そういえば、そのことについて1つ懸念というか、気になる事があるんだよね」
村木さんからエミルやアリシアの話を聞いた時から、もう1つ気になっていた事がある。俺にはどうでもいい事だが、2人はこれをどう捉えるか?
「気になる事?」
村木さんが肉を頬張りながら首を傾げる。
「うん、アリシアが勇者試験の開始を宣言した後、意識のなかった俺と、佐伯先生は別として、村木さんが残ってくれた。村木さんだけがだ。おかしくないか? 俺はともかくとしてクラスのまとめ役、精神的支柱である佐伯先生を残して村木さん以外全員が勇者試験に向かった。残虐なアリシアが設定したような試験だぞ、うちのクラスの度胸のないギャルグループなんかは残る選択をしてもよさそうじゃないか?」
「それがね、みんな、新見君の一声でその気になっちゃったみたいだった。でも確かにギャルグループなんかに生き残るのすら難しい魔獣の森なんか突っ切る勇気があるとは思えないよね。いくらパトスがあったとしても」
「俺はあいつらを恨んでもないし、かと言って完全に擁護するわけでもない、俺からすればどちらでも構わないんだけど、おそらくアリシアにクラス全員が好戦的、冷徹になり切るような性格になるよう思考誘導、この場合はもう洗脳に近いか? そう差し向けられたとみて良さそうだ、村木さんはその洗脳から過剰過ぎるほどの優しさが打ち勝ったって俺は見てる」
「そうなのね。あの子達、皆、自分から出て行ったわけじゃなさそうって事だよね。みんなそんな薄情な子だったなんて思いたくないし、道を外したなら絶対救いたい! とにかく皆を早く元に戻してあげたい」
佐伯先生が悔しそうな表情だ。ブレない人だ。この人は最後まできっと生徒を見捨てないだろう。例え裏切られたとしても。
「ねぇ、みんな、ちょっち湿っぽいてばさぁ~。そろそろリフレッシュの為に温泉? ってかあのでっかいお風呂入りましょうよ~」
マリアンヌが湿っぽい雰囲気を変えてくれた。
「俺が怪しいやつがいないか見張りをしているから、みんな入っておいでよ」
「じゃあ、わたしが如月英多君の見張りをしているから、みんな入っておいでよ」
「あ~。それ納得です。じゃあ先生、わたし達が出たらゆっくり入ってくださいね、わたし達が次どこかの変態の見張りをしますので」
スムーズに風呂タイムが決まったようだ。残念ながらどうも混浴で俺まで仲良く一緒に入るプランはないようだから、後で俺だけイリアに俺専用の露天風呂作ってもらおう。
――夜もすっかり暮れていた。異世界の夜空、ここは平原だ。遮るものが無く満天の星空が出迎える。
「星空って異世界でも綺麗なのね。ロマンティックよね」
教室内で俺は佐伯先生と2人で見張り。この教師がチビで村木さんをしのぐほどの童顔じゃなければ、もう少し大人っぽい演出とやらを見せてくれたんだろうか。
んっ? 魔獣の森から平原に向かって人影が2つほど見えた気がした。そしてその後を追って森から出てきた影は……トラだ。ただし王者たるキングタイガーではなく明らかにサーベルタイガー。
人の方は勇者試験に出た連中だろうか?
その人影が徐々にあらわになる。2人は魔除けのテリトリー内には入っているので魔物ではないだろう。やがてその人影が鎧を着ており、剣を構えサーベルタイガーと交戦している構図が浮かび上がった。
鎧の人物はそれぞれ赤と白に綺麗に彩られている。2人とも胸のあたりにふくらみがあり、肩辺りにエンブレムのようなものが見えるが、それぞれ形が違うものだ。胸の膨らみは遠目にも赤に分があるように見える。
なんだ? こいつら、一枚岩じゃないのか? 魔物に対してだけの共闘ってところだろうか?
ふと見ると、すぐ横で佐伯先生が既に『鑑定』を始めていた。魔物はともかくあの明らかな女性2人を勝手にのぞき見どころか丸裸にする行為は如何なものかと思うのだが。彼女はブレなかった。どうも村木さんを練習台にしてから、マニア化した危険がある。
「如月英多君、あの2人と動物の『鑑定』したんだけどね……動物の方は魔物。何のへんてつもないサーベルタイガーで状態:体力半減ってところなんだけど、人の方の2人は……」
「何かまずい? 魔族が擬態してるとか?」
「違うの……あれ……」
彼女は絶句していた。
「あれ?」
「うん、赤い鎧の女の子は、85、58、87……なのに、白い鎧の女の子は76、52、78……年齢は同じ17歳ってなってるのに違い過ぎない!?」
――そう簡単に平和な1日は終わらない……そして、まさかのスリーサイズの違いに驚愕していた変態教師がそこにはいた。




