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7.対極の空

 私はピンク色が苦手だ。

 どちらかというと、青やグリーンの方が好きだ。グリーンといっても、薄いミントグリーンとか。何故かというと、空の色がとても好きで、いつも癒されているからだ。すがすがしい気分になる。

 それなのに私は、ピンクが苦手、というかあまり好きではないと言うことが出来ない。

 内向的で、人見知りのせいか友達も少なく、その数少ない友達がピンク色を勧めてくれるのだけれど、どうしても好きになれない。

 春の桜の季節に祖母が亡くなったことが関係しているのは、自分でも承知している。

 祖母は、もの静かな人だった。

 特に怒ることもなく、穏やかで、いつも笑みを絶やさない近所でも人気のある人だった。

 両親が共働きのせいか、私は祖母によく懐いていた。

 あやとりの仕方も、お手玉も歌も、すべて祖母が教えてくれたほどに。私は祖母が大好きだった。

 そんな祖母があっけなく病死した。もともと体力がない人だったからか、思ったほどショックを受けなかった自分に驚いた。あんなにあんなに、好きだったのに。どこか、予感めいたものもあったからかも知れない。それは二年前のことである。中二の時だ。

 そんなこんなで、祖母を想い出すピンク色は苦手だ。濃い色も、薄い色も。そう考えると、やはり祖母の死の影響は強かったのだろう。昔は、嫌いではなかったのだから。

 だけどそんなこと、言えやしない。

 友達にどう思われるかが怖い。

「せっかく言ってあげたのに」

 そう言われるんじゃないかと、不安で胸が苦しくなる。

 言いたい、でも言えない。

 何で私は、こう人の言葉を気にするのだろう。

 何で言えないのだろう。

 友達なのに。

 いや、友達だから。

 嫌われるのが、蔑まれるのが怖いから。彼女を失うのが怖いから。

 教室から見える、青の空が眩しい。

 見せてあげたい、この雲の流れる五月の空を。目の覚めるような空の青さを、祖母に。私の大好きな色を。

 けれど祖母はもういない。

 だから、私が代わりに見なくては。

 吹きぬける風が、雲の流れを変えていく。春の木漏れ日が、眩しく光る。

「きれいな空ね」

 千津が言った。いつの間にか隣にいて。上向きに窓の外を眺め、空を見上げている。私にピンクが似合うと言った友達だ。

「理沙は空が好きなの?」

 何でもないように千津が言う。ちらりとこちらを見て。

 木々が、風によって少しざわめいた。

「空というか、空の色が好き。青色の。癒される気がして」

「癒される?」

 意味が分からないように、眉をひそめて千津が問い返す。

「祖母の亡くなった時の色と対極だから」

 ああ、そうなんだ、彼女は軽く頷いた。なるほどというように。そして、そっかあ、と呟く。勘の鋭い彼女は、対極の色は何色か、きっと気付いているだろう。

 言って、自分でびっくりする。

 私、言えたじゃない。

 何も言えないと思っていた友人に、自分の思いを伝えられた。

 何故、言えたんだろう。

 今まで、あんなに怖かったのに。言って、人を傷つけるのも自分も傷つくのも怖かったのに。

 祖母だ。

 瞬間的にそう思った。

 祖母が力を与えてくれたのだ。今の私を心配して。

 ピンクの対極の色を見ていた私に、メッセージをくれたのかも知れない。何だか急に、そんな気がした。

 自分で乗り越えていきなさい。あなたなら、きっと出来るのだから、と。

 空の大きさが、まるで祖母の温かさのような気さえしてきた。

 分かったわ、おばあちゃん。

 そういえば、おばあちゃんは何色が好きだったんだろう。あんなに一緒にいたのに、聞いたことがなかったことに愕然とする。けれどたぶん、きっとピンク色も好きだったかもしれない。淡い、桜のような薄い色が。

「ねぇ千津、今度、ピンクのハンカチ買いに行かない?」

 窓からの陽射しを受けながら、驚いて目を丸くする千津に向かって、私はすがすがしい気分で微笑した。

 空に抱かれているような気分になって。




   【終】



        おばあちゃん。


    私、怖かった。

    友達を失うのが。

   でもそれって、相手を信じていないことになるんだね。



      やっと、分かったよ。

    おばあちゃんの温かな想いで、あの空を見て。


  

    おばあちゃん。


     私、強くなる。

      だから、お願い。

  

      空から見ていて。

   いつか私がひとり立ちできる時まで……。



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《初出》

 2004年10月発行「センシティブカラーズ」(寄稿)

 個人誌収録なし


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