33.温かな心
一樹は冬の寒い時、自分の勤めている中古車屋の車の間から姿を現した。
寒さ防止にダウンジャケットを着て、早足で歩を進める。
まだ昼間だがもう冬の空だ。からりとした冬晴れがここ数日続いている。フードを被り、太陽を見ようと首の角度を変えた時、ふと人の気配がしてそちらに目をやった。自販機の方だ。そして目を剥いた。
六十代程の女性が、温かいお茶のペットボトルを軽く見て十本以上地面に置いてある。そして、寒そうに息を吐く。それは白く空気に溶けていった。
どうしてそんなに必要なんだろう。
女性は首に巻いたパープルのストールにそれらをしまおうとしている。一樹は居てもたってもいられず、一旦事務所に戻り急いでビニール袋を手に取り、女性の所に行った。
「よければこれ、使ってください」
突然の言葉に女性は驚き「あらまあ」と言い、
「ありがとうございます。おいくらですか?」
穏やかで温かみのある声だった。一樹は思わず苦笑する。
「こんなのに、お金を頂くわけにはいきません」
「寒くてつい、十六本も買ってしまいました」
恥ずかしそうに言う。
十六本もビニールに入れて、果たして持っていけるのか少々疑問に思ったが、下手に口を出すのはやめた。
「では、有り難く頂戴します」
女性は一礼して、袋にお茶を入れ始める。
一樹は自販機のお茶のところが『売切れ』になっているのを確認し、後で業者を呼ばなくてはと思う。
それにしても外はこんなに寒いのに、心は逆に温まることができることに一樹は心から不思議な思いをした。
親切というほどでもない。
なのに、心はとても晴れやかだった。
今日は、何かいいことがあるかもしれない。
そんなことを感じた日だった。
【終】
※ 収録不明
2011年1月12日執筆




