30.心にカギを
桜が散る季節、私は小学校から中学校へと入学した。
春の暖かさはどこまでも気持ち良く、私を心地良くさせた。
小学生の時から中学生は一歩大人のような気がして、私はうきうきとわずかな緊張でその日を迎えた。
中学校は小学校のすぐ隣にあり、登校するにはほんのちょっと楽になった。とはいっても二、三分だけど。
そして私には二つ上の姉がいて、とても仲が良かった。あやとりしたり、漫画の交換、時には要らなくなった私の憧れのものをくれたり。私にいつも優しくしてくれ、小学生の時は自慢だった。文句無しのはずだった。
それが中学に入った途端、姉と比べられた。姉は性格も良く、勉強も優秀だったからである。当然、教師の受けも良かった。今は高校受験だから、勉強については特に比べられた。
「お前の姉ちゃん、すごいなー」と、いつも会う度、教師に言われた。
私は劣等感を抱かずにはいられなかった。時たま、姉に対して敵意を覚えたこともある。姉の存在に。そして、そんなことを思う自分に強い嫌悪感を抱いた。姉の存在がなければ劣等感を抱くのは、もう少し後になっていたかも知れないとも思った。
まさかたったの二年ほどで、こんなに変わるとは思わなかった。
小学生の頃はあんなに一緒に遊んだのに。
どうしてこうも変わってしまったのだろう。
私のせいじゃない。
姉と比べる先生たちが悪いんだ。
そうして夏を迎えた。
友達がいる。明子という名前通りの明るいよく笑う子だ。特別可愛い訳ではないけれど、人に好かれる雰囲気を持っている。幼稚園から一緒で特に話しやすく、彼女の前では私も本音を言えた。
「私が悪い訳じゃないもん。なのになんで比べられるの?」
グチる私に、
「そうだね、さやかが悪いんじゃないね。でも……」
一旦そこで言葉を区切り、窓の外を見る。見事な夏空だ。入道雲が青い空によく映えている。
「そういうさやかの心はどうなのかな?」
「どういうこと?」
顔をこちらにもどし続ける。ちよっと寂しそうな顔。組んでた腕も元に戻す。
「いつまでそう自分に言い訳するのかなってこと」
「言い訳?」
「そう。さやかは都合の悪いこと全部言い訳してる気がする。お姉さんのせいにして。周りの人のせいにして」
かあっと頬が熱くなるのを感じた。図星だった。だからよけい腹が立った。
「分かった風なこと言わないでよ」
それがどれだけ辛いことか知らないくせに。
「何でそんなこと言うのよ?」
明子はごめんねと言いながら、にこっと笑う。彼女の特徴の一つだ。
「だってさ、さやかっていっぱいいっぱいいいとこあるのに、それに目を瞑って悪いとこだけ比べてるじゃない。すごくもったいないよ」
そしてもう一度にこっと笑う。
「もっとさ、自分に自信を持とうよ。周りの目なんて気にしないで。大変だったらゆっくりゆっくりでいいじゃない」
唇がわなわなと震えた。
思わず泣き出しそうで必死で唇に力を入れて、こらえた。
私のことをちゃんと見てくれてる友達がここにいる。
ずっと言い訳していたのは自分自身。
下を向いたら涙がぽつり、腕に落ちた。冷たい感触。
今だけじゃないだろう、比べられるのは。
高校が一緒なら高校でも。社会に出ても大きく比べられるかもしれない。
そのたびに言い訳していくのだろうか、私は。
それだったら自分の良さをまず見つけていこう。時間がかかっても。
言い訳はとりあえず、心の中にしまってカギをかけておこう。
【終】
《初出》
2010年10月29日発行「本当の友達は輝ける宝石」収録




