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29.特別な一日


 今日は特別な日。

 結婚記念日。しかも五年目だ。

 だけどこの時期の夫の帰りは遅く、私は寂しい思いをするのだが。

 でも今日はミニホールケーキを買って(夫の好きなショートケーキタイプのイチゴがふんだんに使われていて、生クリームがたっぷりのだ)夫の帰りをテレビを見ながら待っていた。

 時計を見れば時刻は二十三時を回っている。私は小さくため息をついた。

 ただ今日は嬉しいことがあった。

 友人2人からおめでとうメールが届いたのだ。

「結婚記念日おめでとう」「幸せでいますように」とか。

 嬉しくて、仕事中の彼に思わずメールしたほどだった。どうせまだ見れてないだろうけど、帰りの電車で見てくれたらいいな、と思いつつ。

 メールの着信音が鳴った。夫からのものだ。音が違う設定にしてあるから瞬間に分かる。

 文字通り飛びつくようにして見る。壁に掛けられた時計に目をやれば、二十三時半になっていた。

『今、電車乗ったよ。ごめんね、今日は特別な日なのに。でもギリギリに帰れるから。メールも良かったね。いっちゃんはいい友達をもってるね』

 ハートの絵文字付きで書いてある。私は、

『いい友達だけじゃなくて、いい夫ももってるわ』

 と返した。もちろん、お疲れ様も添えて。

 家に帰ってくるまで数回のメールをやり取りして、本当に今日ギリギリに帰って来た。会社から家が近いというのは利点だ。

 私はキスして出迎え、彼の鞄を手に取る。

 彼は背中の後ろから、ガーベラのミニブーケを片手で私に差し出した。オレンジ色の可愛いブーケ。自然に顔がほころぶ。すごいサプライズ。

「遅くなってごめんね、ありがとう。ただいま」

 花を買う時間なんてどこにあったのだろう。ううん、それよりもそんな気を遣ってくれて。彼はいつもそうだ。私が喜ぶことをしてくれる。

 とりあえずケーキを切り分け、2人で乾杯した。

「「これからもよろしくね」」

 ケーキを口に入れると、生クリームの甘さが口いっぱいに広がり幸せな気分になる。

 食べながらもキスをして、私は主婦業に更なる努力をすることを決意した。それがこういう特別な日であることを嬉しく思う。そして、仕事の帰りの時間が、暗闇に染まる頃になるならそれを見守る灯でありたいと願う。


 花をいつ買ったのか知ったのは数日後。

 どうやら昼間の休みを利用して、近くの花屋さんで買っていたことが共通の友人を通じて明らかになった。

 私の顔が、またほころんだ。




   【終】



《初出》

 2010年10月29日発行「本当の友達は輝ける宝石」収録

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