28.きよちゃんのダイエット大作戦
明日からダイエットを始めると心に決めた。もうすぐ夏だし水着の季節。それに向けてダイエット開始だ!
一日目
まず七時起床。
ねぼけまなこで体重計に乗る。昨日から0.2キロ太っている。ガーン。初日からこれか、と軽いめまいを覚える。ポテトチップスを食べたから? いやでも五枚だけなのに。
それから顔を洗って着替える。
OL二年目。制服は一応Мサイズ。標準だ。会社に行く時、なるべく目立たない服を好んで着るようになった。白いシャツに黒のタイト。無難な線だ。
先輩たちは皆、細い。ちゃんと食事をしているのだろうか、といらん心配をしてしまう。
軽く化粧をして朝食。角の丸い四角いテーブルの上に置いた、コーンスープとサラダだけ。前は、パン二枚食べていた。けれど我慢。あとはお弁当を作る。母がいたら叱られるな。おにぎりを握りながらそう思った。
お昼
午前中、お腹がすいて困った。デスクワークの仕事とはいえ、コピーしたり、それを配りに走ったり、結構会社内を歩くことを忘れていた。
お弁当はおにぎり一個。……二個にしとけば良かった、と近くのコンビニでサンドイッチ追加。このぐらいはいいだろう。
静かに咀嚼する。美味しい。昔からこんなに美味しかったっけ? お腹がすいてるせいかな。
と、先輩に声をかけられた。
「あらきよちゃん、お昼それだけ?」
いや結構食べてるんです、という言葉を飲み込み、
「ダイエット中なので」
と答えた。そうしたら先輩も、
「私もよ」
どこにそんな必要が? と思う。細い体なのにそれ以上痩せてどうするんだろう。
定時に上がり、街灯の中を家路へと急ぎながら夜のメニューを考える。
屋台の焼き鳥屋の前を通り過ぎるといい匂いが鼻孔をくすぐった。
あ、レバニラとか暑さ対策にいいかも! 私ってばエライ! そうしようそうしよう。
材料を買って調理し始めたら台所の暑さにバテそうになる。もともと狭い1LDK。クーラーはまだまだ使わない。
レバニラ炒めと、玉ねぎの味噌汁、ご飯のおかわり。
うん、まとも。ごちそうさま。上出来だ。一日の締めくくりにちょうどいい。
明日の体重に期待する。明日はゆっくりしてよう。土曜だしね。
二日目
朝、トイレに行ってから体重を計る。それが一番いいらしい。ドキドキ。
プラス0.5キロ増加。Why? なぜ? 何がいけなかったんだろう。夕食のおかわりかな。
朝食はまたサラダ。あとバナナ一本に代えてみた。これで大丈夫なはず。
午前中はまたまどろみつつ、腹時計でお昼に起きる。恐ろしい。
面倒だったからインスタントの小さいカップヌードルにしてみた。久々だな。うん、美味しい。
午後は両側が緑に茂っている道を通りながら、自転車で風を感じつつ図書館へ向かう。CDを何枚か借りてみた。
CDを聴きながら、帰り際にコンビニで買ったアイスを口に運ぶ。冷たい物が口いっぱいに広がり、私は目を閉じて微笑む。これくらい平気だよね?
うん、平気だよ、ともう一人の私が言い訳する。大丈夫大丈夫。
夕食。
面倒なので、お惣菜でごまかす。牛肉コロッケ二個、チキン一個。ご飯少なめ。
よし。今日こそ大丈夫だろう。楽しみだ。
三日目
さあ、体重を計るぞ。恐る恐る体重計に足を乗せる。片目をつぶりながら、こわごわと目を開く。見たら昨日からマイナス0.2キロだった。つまりプラス0.3キロのまま。
うーん。どうしてだろう。ちょっと気分が落ちこんできたから、化粧もせず気分転換に近くの本屋に足を運ぶ。色んな本を見て、ダイエットの勉強をしたいと思ったからだ。
外の日差しはもう強くなりつつある。そろそろ日焼け止めも必要だな、と空を仰いだ。空はどこまでも透き通って、少し湿気を帯びた風をなびかせる。
本屋に着く。ふうと、一呼吸ついた。自動ドアで中に入る。
店内はまだクーラーは入れていないものの、やはり外に比べるとずっと涼しく、ひんやりとした風と外からの生暖かい風が混じって、体を覆う。
さて、ダイエット関連の本はどこだろう。いつも見ないから探す羽目になる。たくさんの種類の本が棚に並んでいる。
振り向いたとき、雑誌売り場に目がいった。女性誌だ。
それらの一番最初に目についた表紙に愕然とした。
『朝ごはんは、しっかり食べよう。それが痩せるもと!』
へ? と思って思わず手に取る。ずっしりとした重さを感じながら文字を追う。
『痩せたい人は、朝をしっかり、夜を少なく……』
なんてこったい。……今さらかい。私は逆だったんだ。
きっと、この雑誌に出会うのが遅すぎたんだ。
【終】
《初出》
2010年10月29日発行「本当の友達は輝ける宝石」収録




