25.本当の友達は輝ける宝石
私には二人の親友がいる。
一人は湯川沙耶。茶髪のストレートロング。二重の可愛い女の子。ちょっと口下手で、要領が悪い所もあるけれどそこもいい。笑うとえくぼが出来る。お嬢様を連想させる雰囲気がある子だ。
もう一人は立花美加。冷静で三人の中で一番大人。セミロングの似合う大人顔。真ん中の身長。一番高いのは私。
こんな私たちは中学に入って同じクラスになって、すぐに仲良くなった。
一
午前中の授業が終わり、お昼になった。各自それぞれグループになって弁当を広げる。
「琴美―、お昼にしよー」
名前を美加に呼ばれて、私は頷く。
「沙耶もほら。来て」
美加はまとめるのが上手だ。
窓の外に目をやれば、五月らしい五月晴れだ。いつもの席に座って食事したいな、と思う。眺めが抜群だ。
ところが沙耶が言った言葉で口論になった。
「琴美、私たまには違う席で食べたいから、琴美の席に座らせて」
こんな感じだったと思う。沙耶の席はちょうど窓が背中にあたる。いつもだったら何の問題もなくいいよ、と言っていただろう。
だけど今日は。あまりの天気の良さに私も頑固にいやだと言った。
「沙耶、悪いけど今日はやだな」
「お願い!」
はらりと長い髪の先が肩から落ちる。陽光で茶髪が光った。
「だから、今日はやだよ」
そうしたら彼女は自身の鞄の中のポーチからお気に入りの鏡を取り出して、私の方に差し出した。それは小遣いをためて買ったという黒いゴシック調の蝶の飾りがついたものだった。
「これ、あげるから」
私は言葉を失った。
何を考えているのだ? この子は。
私の中に怒りの感情がまじってきた。まるでマーブルチョコレートのように複雑に。
「それ、あなたが一番大切にしているものじゃない」
「うん。でも、席を換わってくれるならいいよ」
「ばっかじゃないの!?」
私の感情が抑えられなくなった。
「何でも物でつろうとしないでよ。何でそうなの? この前だってちょっとしたいざこざがあった時、ハンバーガーおごってくれたでしょ。何なの? 物で人の心が変わると思ってるの!?」
思ったより大きな声で言ってしまってから、私は慌てて自分の口に手をあてた。美加には「ちょっと言いすぎだよ」とたしなめられる。
それでもそういうもの言いをされて、怒りがふつふつとわきあがってきたのは本当のことだ。
沙耶は驚いた顔をして、それからしゅんとなって「ごめん」と一言残して鞄をひったくるようにしてから教室から出て行った。午後も授業があるのに。
二
翌日沙耶は学校を休んだ。風邪ということで。
逃げられたようで、余計いらだちが増す。言いたい事から逃れているようで。
昼休み美加が弁当を食べながら言った。
「まだ怒ってるの?」
「当たり前じゃない。だって分かる? この気持ち。いつも何だか知らないけど、自分に都合が悪いときがあると、いっつも物をくれるの。そんなの欲しくないのに。でも受け取らないと悲しそうな顔をするし……」
美加もうーんと唸っている。
「でもさ、人それぞれ事情があるじゃない。私たちが分かりたいって思っていても、知らないことっていっぱいあるでしょ。家庭環境で変わったりもするし……。特に私たちの年代って、そうでしょ?」
「……確かに」
相変わらず目の付けどころが違う。
「話したいことあるんだったら、ちゃんと話そうよ」
……やっぱり美加は大人だ。
三
美加と話した結果、帰りに私たちは沙耶のお見舞いに行くことに決めた。
沙耶の家はなだらかな道の上にある。錆びついたバス停を通り過ぎて、斜めの坂の上のとこだ。
いかにも和風的な家のインターホンを鳴らしたら、引き戸をゆっくりと開けておばさんが出てきた。挨拶して部屋に入れてもらう。玄関には大きな絵が飾ってある。おばさんは困った顔をしていた。当然だと思ったのは、沙耶の顔を見てからだった。
パジャマ姿の彼女。疲れが一気に出たような顔。髪の毛も櫛をとおしてあるかどうか。
沙耶の風邪は仮病だった。予想していたから別に驚かなかった。
美加が笑って言った。
「どうせこんなことだろうと思ったわ。言い訳でも考えていたの?」
真っ先に沙耶が言った。
「昨日はごめんね」
聞き取れるかどうかのか細い声で。
私は言った。
「席のことは私も意地を張り過ぎてた。ごめん」
ううん、と沙耶が激しく首を振る。
美加が間に入って話しかけた。
「ねえ、どうしていつも物なの? 自分の大切なものまで」
沈黙の状態がしばらく続いた。
「……嫌いにならない?」
「「ならないよ」」
美加と私が同時に言って、二人で顔を見合わせた。少し空気が和んだ。
やがて沙耶が口を開く。
「私子供の頃から、望んだものは何でも手に入ったの。それは私が一人っ子のせいもあるだろうけど。……だから何かあったとき、うーん、例えばお母さんと喧嘩した時とか、お母さん仲直りの時いつも、欲しいものをくれたんだ。だから私もそうしてた、お母さんに。それがいけないことだとか思わなかったし、普通の皆がしてることだと思ってたよ。だから怒られてびっくりした。今日もまたなに言われるか分からないから、仮病使ったの。ねえ、どうしたら許してくれるの?」
時折、涙交じりで話す。
心が震える。
「……バカ、友達だから『ごめんね』だけでいいんだよ」
私が言った。
そんなことを考えていたなんて。美加が言った家庭環境が見事に的中していた。
「そういうもの?」
沙耶が不安そうに訊いてくる。
ああ、きっと人に嫌われるのが怖かったんだな、ふとそう思う。
「「そういうもの」」
ここでも美加と声がかぶって、涙が交った笑顔で言った。
「ホント、バカなんだから」
友達は宝石。
一ヵ所拭けて、また輝きを増す。
これからもっと輝くだろう。
友達という宝石は、いつまでも私の心の中にある。
【終】
《初出》
2010年10月29日発行「本当の友達は輝ける宝石」




