23.丸くしにて
私は毎週金曜の会社帰り、上野のアメ横の焼き鳥屋さんに寄るのが密かな楽しみになっている。
薄汚れた道の一本わきの路地に入り、「丸くし」という焼き鳥屋に入る。
炭で焼いている焼き鳥のいい匂いが鼻孔をくすぐる。ちょうどお腹がなった。
つくねにねぎま、好きなものは決まっているので、いつものように注文する。このふたつは絶品だ。もちろん中ジョッキを片手に。これがたまらなく美味しい。一週間の終わりになんとも言えない。
女の一人者は割と珍しいと思うのだけれど、今日は先客がいた。カウンターの奥だ。ショートカットの顔色のよくない、暗い感じの人だ。この場にはちょっと違和感のある。
私も様々な気持ちでこの店に入るけれど、ここまで疲れている感じの人は、あまり見かけない。どこか投げやりな感じの、だけどなにか希望を持ちたいような、そんな感じの人だ。興味がわいた。
ここの「丸くし」では、毎週通っているから大将とも話しやすい。場所の移動も目だけで通じる。
そっとしておいたほうがいいのだろうか。
でもたまには、誰かと飲むのも悪くないか。一回きりだし。気になってビールも進まないし。
そう思って、入口に座っていた私は、立ち上がって声をかけた。
「あの……、一緒に飲みませんか?」
彼女は初め、目を丸くして驚いてからゆっくりと頷いた。
彼女が初めて口を開いたのは十分くらいしてからだろうか。
「何も訊かないんですね……。私がここにいる理由」
苦笑いして日本酒を口にする彼女に、私は笑って言った。
「一人でいるのは私もですし……。何か訊いた方がいいですか?」
「今は一緒にいるだけで気分が楽になります。ごめんなさい……」
「いいえ」
私は穏やかに言った。
「そういう時は誰にでもありますよね。……乾杯しましょうか?」
「……何に?」
「あなたとの出会いに」
そう言ったら彼女は、会ってから初めて笑った。えくぼができる、とても素敵な笑顔だった。彼女は小さく、でも嬉しそうに「おかしな人」と言った。
【終】
《初出》
2010年5月4日発行「ほのぼの」(書き下ろし)




