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灰塵の剣

掲載日:2025/11/20

 暁の中で、二つの、灰色がぶつかる。

「らァ!」

「あぁぁぁ!」

 ぶつかり合う鉄の音。即ち、灰色とは、どちらも剣士であった。一つの影は比較すれば大柄で、もう一つの影は比較すれば小柄だった。

「「ふッ!」」

 呼吸のタイミングが重なり、また、二人は灰色の塊に。凄まじい踏み込みは砂塵を舞わせる。交錯の数だけ、金属音が荒野に響く。

 剣戟を通して何を語ったのか。それは二人だけの知る話。もしかしたら、彼らは剣に言葉を乗せる類の人間ではないのかもしれない。

 甲高い音だけが響いた。頬から、鮮血を流したのは小柄な方。灰色の髪、碧眼、黄色よりの肌の彼は苦悶の表情も見せず、真っ直ぐに剣を相手に向けた。

「うっひひひひひひ! やるねぇ! お前ぇ!」

 口を開いたのは、大柄な方だった。

「わざと顔の方に隙を作って、胴への致命傷を避けるなんてさぁ」

 よく通るのに、何処か絡みつくような妖艶な声だった。黒い髪に半分白髪の混じった長い髪の女は、小柄な彼と反対に地に剣を向け脱力した構えを取った。

「……」

 小柄な彼は、思ったよりも深く切られたと思いつつ、おばさんほどじゃないと視線だけ投げた。小柄な彼が、頭をそうしたように、女は剣を振るう掌を囮として使ったのだった。

 小柄な彼の方は、一手誤れば即座に命を落とし、女の方は、一手誤れば剣を落とし、次手にはやはり命を落とす。どちらもクレーバーな思考。今は、対照的に見える二人の剣技は、その性質において全く同じものだった。

「少年。お前、いくつになる?」

「……知らねえけど。たぶん……十二よりは上」

 語る彼の声は、剣戟に響く音のように甲高いものだった。

「へぇ」

 灰色の、剣戟を想定したコートの下で胸が高鳴る。女は、にぃ、と笑った。

「お前は、相応しい」

「あ?」

 少年の、腕のリーチに不釣り合いな刀の切っ先が揺れた。

「お前こそ、お前の剣こそが」

 その言葉までが、女の剣技。

「『灰』に相応しい」

 ゆっくりと、構えたように見えたのは、それだけ女の構えが美しかったから。

「灰色の剣。『白』を使ってその真髄を見せよう」

 何故? 何故? 何故?

 少年は、構えた灰色のコートの女に、不思議なものを幻視した。

 薄い笑みに、僅かにくすんだ肩ほど白い髪、即ち灰色の髪。小さい頭を支えるのは、何故立っているのかわからない程の肢体。四肢の関節はどれも丸く、また四肢を構成するのは陶磁器のように滑らかな素材だった。

 少女人形。女は、異形に変じた。

「ん、ふふ♪ ふふふふふふふふふふふふ♪」

 気道を優しく撫でるような、心地いい少女の声。

「とん♪」

 同時に少女人形が、少年に向かう。軽やかに、真っ直ぐに、優雅に。

 迫る異形の腕は鋭く、並みの剣士が相手なら後の先で両腕を切り落としてみせる、少年は少女人形に正面から剣を振るった。

「……ッ!?」

 違う。

 こいつは幻影だ!

「よく、見破りました」

 駆ける少女人形が少年に朗らかな笑みを向ける。少女人形と、少年の交錯はここまで、剣を振りぬかず、白い少女人形が自分を通り過ぎて、お辞儀をして消えていくのを見送って少年は剣を納めた。

「おばさん」

 少年は、居合の構えで先程までの死角、思考の埒外の場所で佇む女に真っ直ぐ鈴の音のような声をかけた。

 女も、構えを解き、真っ直ぐにこちらに黒い瞳を向ける。

「なんで切りに来ない?」

 鈴の音のような声に、大人の女特有の色香のある声が返される。

「『白』の剣技とは、先読みの剣。その極意に居たりし剣士は、意識すれば、未来を読めるんだけどね?」

「は?」

「……。それでこそ。……切り込んでいたなら、過分に、死んでいた可能性があった。私がね?」

 女は、見た目より若々しい仕草で肩をすくめるのだった。

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