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第8話【前編】 ハーレムの女たちはもちろん調教済みですが!?

注)今回は多少の百合要素が含まれます

 魔王城の奥深く、一般の者は決して足を踏み入れることのできない区画がある。


 そこは「魔王様のハーレム」と呼ばれる、選ばれた女性たちだけが暮らす特別な場所だ。豪華な調度品が並び、柔らかな絨毯(じゅうたん)が敷き詰められた廊下。部屋には上質なベッドとドレッサーが完備され、専属の料理人が三食を用意する。


 他国の王族や貴族が持つハーレムとは違い、ここには「後宮」の意味はない。いわば魔王様専用の夜の遊び場――()()()()のようなものだ。ハーレムの女は魔王様の妻ではなく、メンバーは定期的に一部が入れ替わる。

 

 さらに、彼女らは魔王様ライブの際には売り子を、国のイベントなどではレースクイーンやラウンドガールのような仕事もこなし、時には他国の貴賓(きひん)の接待をすることもある。そのため美しさはもちろん、教養と要領の良さも必要だ。


 その対価として、ハーレムの女たちには高い報酬が支払われる。城での豪華な生活、退職金、そして何より「魔王様のハーレムにいた」という(はく)。それらを求めて、多くの女性が門を叩く。


 その採用から教育まで、すべてを管理しているのが私、ラブリア=ヴェルミリオンだ。


 表向きの肩書きは「魔王様の秘書」だが、実は「ハーレム管理責任者」も兼ねているのである。


 ――そして今日は、ハーレムの様子を確認する定例会議の日。私は城のとある会議室に足を運んでいた。


――


「ラブ様、お疲れ様です」


 部屋に入ると、既に三人の女性が席についていた。


 深緑の髪に褐色の肌を持つダークエルフのセレナ。長い兎の耳を揺らす兎人族のリリア。そして、ねじれた角を持つ魔族のマリア。


 彼女たちは、ハーレムの中でも特別な存在だ。私が直接スカウトし、今ではハーレム運営の中心となっている古参メンバーである。


「お疲れ様。さあ、定例会議を始めましょう」


 私は席につき、手元の資料に目を通した。


「まず、魔王様の健康状態から。セレナ、報告をお願い」


「はい。今週の魔王様のご様子ですが、基本的に体調にお変わりはなく、肌ツヤも良好。ただ、昨夜は少しお疲れだったのか、ハーレムには来られずお休みになりました」


 セレナが丁寧に報告する。彼女の役割は、魔王様の体調管理だ。ハーレム滞在時の睡眠時間、疲労度など――すべてを記録し、私に報告してくれる。


(書類仕事が多かったものね。何か私の方で巻き取れるものがあるかしら......それにしても、お疲れの魔王様も見てみたいわ~~~~~!!!)


「わかったわ。今週末は予定を調整して、魔王様にゆっくり休んでいただきましょう。リリア、シフトはどうなってる?」


「はい!」


 兎の耳をピンと立てたリリアが、手元の資料を広げた。そこには、ハーレムメンバーのシフト表が細かく書き込まれている。


「今週は、月曜日がマリアとエリカがお休み、火曜日が私とカミラ、水曜日がセレナとローザ......」


 リリアが次々と読み上げる。シフト表には、全13人のメンバーのうち誰が休暇を取るかが、一週間単位で細かく記されている。基本的に2人ずつ、週に1日か2日の休みが割り振られ、残りが魔王様のお相手をする体制だ。


 そして、よく見ると――


『推しポイント—高』『イベント翌日:フットマッサージの日』『疲労蓄積の可能性―高』


 などと、妙に詳細なメモが書き込まれていた。


「......リリア、この『推しポイント』って何?」


「あ、これはですね!魔王様が特にご機嫌で、素敵な言葉をかけてくださる確率が高い日です!」


 リリアが無邪気に答える。


「過去のデータを分析したら、政務が順調に終わった翌日は、魔王様のテンションが高めなんです。だから、その日に当たった子はラッキーだなって♪」


(くぅぅ~~~~~!テンション高めの魔王様!見たいぃぃ~~~~!!!)


 私はメガネを指でぐいと上げ、平静を装って続けた。

「まあ、いいわ。マリア、他のメンバーの様子は?」


「はい。ほとんどのメンバーは問題ありませんが......」

 マリアが少し困ったような表情になる。


「一人、そろそろ辞めたいと言っている子がいます。カミラです」


「カミラ?理由は?」


「故郷の家族が病気で、看病のために帰りたいとのことです」


「そう......」


 私は頷いた。カミラは人間の女性で、ハーレムに入って三年になる。真面目で優しい性格の子だ。


「わかったわ。円満に送り出してあげましょう。退職金もきちんと用意するわ」


「ありがとうございます、ラブ様」

 マリアが安堵の表情を浮かべる。


「それで......もう一つ、問題があります」


「何?」


「エステラのことです。他の女子たちとの諍いが絶えません」

 マリアが困った表情で報告する。


「ああ、あの子ね......」


 私は溜息をついた。蛇の下半身を持つラミアのエステラは容姿も美しく、魔王様の前では完璧な振る舞いをする。だが、種族の特徴なのか彼女の性格なのか、裏では他のメンバーへの嫉妬や威嚇(いかく)が酷い。


「もう1年も様子を見てきたけれど、改善の兆しはないわね」


「はい。先週もリリアに対して嫌味を言って、雰囲気を悪くしました」


 セレナが頷く。


「魔王様にだけ良い顔をしても、女子同士の不仲は必ず魔王様に伝わるもの。ハーレムの空気が悪ければ、魔王様だって居心地が悪いはずよ」


 私は冷静に判断を下した。


「エステラは解雇にしましょう。来月末で契約終了ということで」


「了解しました」

 マリアが頷いた。


「となると、カミラとエステラで2人抜けることになるわね」


「ええ。そこで候補にあがっている女性の中から二人をピックアップしておきました。経歴に問題はなく、容姿も知力も種族的には優秀です」


 マリアが二枚の書類を私に差し出した。


 一枚目には、華やかな容姿の人間女性の絵が描かれている。名前はヴィヴィアン。服飾店の看板娘で、城に出入りしている商人の紹介とのことだ。


 二枚目には、赤みがかった肌のがっしりした女性の絵。名前はミレーユ。オーガの部族長の娘だという。


「ヴィヴィアンは......容姿は申し分ないのですが、性格に少々難ありとの噂です」


「難あり?」


「はい。傲慢(ごうまん)で計算高く、待遇と給金目当ての志望という話です」


(......待遇と給金目当て?つまりお金>>>魔王様という事ね。教育しがいがあるわね......)


 私の内なる推し活魂が、メラメラと燃え上がる。


「ミレーユの方は?」


「こちらは純朴で真面目な子だそうです。ただ......」


「ただ?」


()()です。しかもオーガなので、パワーが......」


「あ」


 私は理解した。


 オーガは膂力(りょりょく)に優れた種族だ。感情が高ぶると、つい力が入ってしまう。初体験となれば叫んだり暴れたりしないとも限らない……


「なるほどね。二人とも、それぞれささいな問題があるわけね」


 私は腕を組んで考えた。


「でも、カミラとエステラが抜けるなら、新しいメンバーを2人入れるのはタイミングとしては悪くないわ」


「では......」


「ええ。二人とも採用しましょう。ただし――」


 私は三人を見回した。


「私が直接、()()してからね♥」


――


 3日後、私はハーレムの応接室で二人の新人候補と対面していた。


 向かって左側に座るのは、ヴィヴィアン。波打つ金髪に青い瞳、整った顔立ちと豊満な体つき。容姿は申し分なく、その顔は自信に満ちている。


 右側に座るのは、ミレーユ。がっしりとした体格はヴィヴィアンの隣にいるとさらに大きく見える。頭には控えめな角が二本生えている、典型的なオーガの女性だ。緊張で顔をさらに赤くしながら、体より小さな椅子にちょこんと腰かけている。


「はじめまして、ヴィヴィアンと申します」

 ヴィヴィアンが優雅にお辞儀をする。その態度には傲慢さが滲んでいた。


「は、はじめまして!ミレーユと申します!」

 ミレーユは深々とお辞儀をした。その勢いで、テーブルの花瓶が揺れる。


「よろしくね、二人とも。志望動機を聞かせてもらえるかしら?まずはヴィヴィアンから」


「最も尊敬し、お慕いしている魔王様のお役に立ちたいのです。容姿、要領の良さには自信があります」


 淀みなく答えるが、その言葉には心がこもっていない。


「......本当の理由を教えてちょうだい。『最も尊敬し、お慕いしている』は嘘でしょう?」


 私が冷たく言うと、ヴィヴィアンの表情が一瞬固まり、この相手に嘘はつけないと思ったのか本音を話し始める。


「私は......良い待遇と高い給金が欲しかったんです」


「正直でよろしい。ミレーユは?」


「私は、オーガの部族長の娘でして......父が、ハーレムに入れば嫁入りの時に箔がつくと......魔王様のことは尊敬しているので、推薦を受け入れました」


 ミレーユの言葉には、嘘がなかった。


「いいわ。二人とも採用よ。ただし――」


 私は二人を見回した。


「研修が必要よ。()()と、()()のね♥」



 ハーレムに入る前の研修その1「座学」……つまり魔王様についての勉強だ。魔王様がいかに素晴らしいか、尊敬し、慕うべき相手かをしっかりと分からせる。


 このラブリアのスペシャルなプレゼンを聞けば、誰でも1時間ほどで魔王様信者になるはずだが、ヴィヴィアンは少し邪念が多いようなので、座学が頭に入りやすいように一度空っぽにしなければならない。


 そこでヴィヴィアンには、先に私の特殊能力を使うことにした。


 魔族とサキュバスの混血、ハーフサキュバスである私は、魅了の能力や精気を吸う力など、様々な特殊能力を持っている。本来は自分の糧として生命力を奪うために使う能力だが、応用すれば精神に働きかけることもできる。


「さあ、ヴィヴィアン。楽にして♥」

 私は彼女に近づいて頬に手を添えた。


「え!?な、何ですか?座学って話じゃ……」

 慌てるヴィヴィアンにはお構いなしに、彼女に口づけた。


「――ッ!!んんーーっ!!!」


 舌を絡ませていると、ものの数秒で彼女はトロンとした表情になる。


(ふふ、ちょっと精気をいただいちゃったわ。若い女の子はやっぱりいいわねぇ~~~)


 気持ちよくほろ酔い程度に精気を吸われ、彼女は余計なことなど考えられない状態になっている。座学がすっと頭に入っていくだろう。


「はわわわっ!!」

 隣に座っていたオーガのミレーユは、驚きと衝撃で小さく震えていた。こんなことでは魔王様との初体験など到底乗り越えられないだろう。


 私は気を取り直し、二人に魔王様の写真を見せながら、魔王様の素晴らしさを語り始めた。


「この写真をよく見て!!美しい銀髪、ルビーのような赤い瞳、危険で妖艶な笑み……」


(“教育”や“研修”で魔王様のすばらしさを存分に語れるこの時間!!!そして同士を増やすこの瞬間が一番楽しいまであるわぁ~~~)


 あまりの興奮で魅了の力が漏れ出ているのを気にもせず、私は存分に魔王様を語り尽くした。



――1時間後。


「魔王様ぁぁぁぁぁ!!!」

 ヴィヴィアンが目を輝かせて叫んだ。


「魔王様は、なんて素晴らしいお方なの!?私、今まで何も見えていなかったわ!!待遇や給金なんてどうでもいい!魔王様のお役に立てることこそが、私の生きがいです!!」


「そうね、ちゃんと理解したのね。えらいわヴィヴィアン」


「あと、ラブリア様のいう事は絶対!!!私のお姉さま、ラブ様!!!」


 これで、魔王様を不快にさせることは、絶対にないはずだ。一方のミレーユも、頬を赤らめて魔王様の写真を握りしめている。座学は無事完了した。


そして研修は“実践”へと移っていく――


<後編につづく>


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