第10話【前編】 リビングドールの真骨頂!?メルのわがままボディは日々進化中!
われは鏡の前に立っていた。魔王城の研究室。金髪碧眼の少女……の人形がそこに映っている。
「うむ、かわいいのだ……」
それが、われの感想だった。毎回、鏡を見るたびにそう思う。
「なんだか変なのだ」
呟きながら、人形の腕を動かしてみる。なめらかで、人間そっくり。人間だった時は、こんなに器用に自分の体を動かすことができなかった。
(昔のじじいの体は、ぼろぼろだったのだ。毎日が苦しくて、怖かった……)
死ぬのが怖かった訳ではない。積み重ねてきた知識が失われてしまうこと、人生をかけて続けてきた研究が続けられないことが怖かった。エルフや魔族など長寿の種族が羨ましかった。短命の人間であることを何度呪ったことか。
だから死を克服した。自分の魂を人形に移し替えて、アンデッドの一種であるリビングドールとなって永遠の命を手に入れたのだ。
それは成功した。完璧に成功した。
なのに――
「われはなぜ、こんなことを考えるのだ?」
服をめくり、胸の外郭を外してボディの内部を見つめる。複雑な魔法陣と魔導具。心臓がない。血も流れない。温度も一定だ。
なのに、胸の奥が温かい……。
「これは……何なのだ?」
今日はラブリアに買ってもらったお気に入りのワンピースを着て、その上にいつもの白衣を羽織っている。ラブリアは白衣を着ることを想定していたのだろう、妙に似合っていてとても「かわいい」。
鏡に映る自分の顔はどこかうきうきとした少女の顔だ。自分がかわいいことを楽しんでいて、喜んでいるのだろうか?
「心も女の子になっちゃったのか?われは……」
好み、考え方、心が先にあってそれに外見を合わせていくのが普通だと思うのだが、外見に心が寄り添っていくということもあるのか……。外見からくる内面の変化も研究として面白そうだ。
われは昔男性だった頃の好みや思考についても思い出そうと、鏡の前を離れて本棚の前をうろうろしながら思考を巡らせる。
「あれ?待つのだ」
本棚に並んだ資料の背表紙、そのタイトルを眺めていて思い出す。
「われはかっこいいが好きだった。強そうなのも、機械的なのも好きなのだ!それは今も変わらず、好きなのだ!」
昔の自分も失われていないことにほっとしながら、新たに得られた多様性にわくわくする自分がいた。
「じじいも美少女もひっくるめて、かわいくて、かっこよくて、最高にすごい自分になるのだ!」
研究室の作業台には、様々な魔導具と工具が散乱している。その一部をかき分けて、自分のボディの図面を広げた。
五十年前、ラブリアと出会った時から、われのボディは常に進化し続けている。最初はほぼ人形の外郭だけだったが、今は色々と便利な仕込みもある。
だが、改造の余地はまだたくさんあるのだ。作業欲が一気に高まったわれは、さらにかっこよく強い自分になるために改造を加えることにした。
まずは、改造済みの自分の手を確認。肘から先は両手とも物入れだ。右手首を捻るとコキッという音がして、手が外れる。痛覚がないというのは、こういう時に便利だ。
「ここには、魔力エネルギードリンク。賞味期限はまだ大丈夫なのだ……」
腕の内側は、収納スペースになっている。エネルギー切れで動けなくなったりしないように、もしもの時の備えで2本の小瓶が入っている。
次は左手の確認だ。ここにはあらゆる衝撃から中身を守るカプセルが、魔力を遮断する布に包まれて入っている。中身は極秘だがとっても大事な物だ。
両二の腕には先日開発した「ふわふわ★透明柵」の簡易版が仕込んである。敵の侵入を阻んだり、身を守ったり、何かと便利なことがわかったので実装した。
背中には浮遊装置。ラブリアやガルドは羽を出せるし、ヴァレンも鳥に変身できるので、自分も飛べるように取り付けた。
そんなこんなで上半身は割と充実している。今日は下半身の改造をしようかと、床に座り込んで、自分の脚を眺めた。
「そういえば昨日、研究室でスネをぶつけたのだ。痛覚はないはずなのに……なんで痛いのだ?」
これも人間の記憶の影響だろうか。痛みという情報が、データとしてわれの脳に登録されているのかもしれない。足を切断しても足先の感覚があるというらしいから、あり得なくはない。
「スネは人間の弱点。強化しておこう!」
われは様々な薬品が並ぶ棚の中から、以前開発した柔軟性と衝撃吸収性に優れたスライム由来の被覆材を取り出した。
「スネに塗ってしまえば、衝撃を全部跳ね返す。つまり、痛みも感じないはずなのだ!」
スネに塗り始めようとした時、研究室のドアが開く。
「おはようございます!」
丸い眼鏡をかけたノームの女が顔を出した。フィオナ=グリットは手先が器用な研究員で、研究室の管理とわれの身の回りの世話係もしてくれている。
続いてドアが開く。
「……うぃす……」
聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で挨拶したのはネフィラトゥーン。人の男性の形をしているがドップラ族という液状生命体だ。細かい性格で観察・記録・再現実験などを担当している。床を滑るように研究室の奥へ進んでいった。
七人いる研究室の部下のうち、この二人はわれのサポートがメインだ。残りの五人は別の国の学会に行ったり、素材採集に出かけてくれている。
「お前たち!ちょうどいいところに来たのだ!スネを強化するから手伝うのだ!」
ネフィラトゥーンが怪訝な顔をしている。
「メル様、その手に持ってるぶよぶよの緑色何ですか?塗るんですか?」
「そうなのだ!スライムから作った衝撃吸収素材なのだぞ」
「ちょっと、やめてください!」
フィオナが大きな声で叫ぶ。
「怪我する前からうちみだらけみたいな……ゾンビみたいな肌の色になっちゃいますよ!」
「むぅ、確かに見た目は痛々しくなるか……」
われがしょんぼりしているとネフィラトゥーンが溜息をつく。
「俺が肌色に調整しましょうか……」
「おっ、いいな!頼むのだ!」
「じゃあメル様、その間にボディを綺麗にしましょう!全然洗ってないでしょう?スネも何だか汚れてます。接着面は綺麗にする、これ基本ですよ!」
フィオナは濡れたタオルを持ってきてわれの脚をごしごしとこすった。スネだけでなく、太ももや足首、足の裏までついでに綺麗にしてくれている。
「うひゃひゃ!くすぐったくないはずなのに、くすぐったいのだ~~~!」
笑い転げるわれを子どもでも見るような顔をしながら拭きあげるフィオナ。こいつは大家族の中の長女に違いないなどと思いながら身を任せていたら、ネフィラトゥーンの調整が終わったようだ。
「できましたよ。これで塗っても目立ちません。ただ、元の素材があれなのでゴミも吸着するんで……定期的に剥がして塗り替えてくださいね」
「まぁ、また私の仕事が増えるじゃない!」
フィオナは不満げな声を出したが、表情は柔らかかった。
「じゃあ、私が塗りますね。メル様は雑だから、ムラになっちゃうでしょう?」
「うむ!任せるのだ」
ツルツル。ヌルヌル。かすかな冷感が伝わってくる。
「ぐふっ、くすぐったいのだ……」
「じっとしててください!」
フィオナは震えるわれを叱りながらも、作業は慎重に続けていく。
「完成なのだ!」
われは早速スネを椅子にぶつけてみる。むにょんとした感触だけがあり、椅子が少しだけ動く。スネは全く痛くなかった。
「おお!痛くない!これは、どのくらいの衝撃に耐えられるんだろう……」
「まぁ、メル様はそもそも痛くないはずなんですけどね。バットで思いっきり殴られても大丈夫なはずです。殴打のような攻撃はだいたい弾きますが、剣などで斬られる攻撃には弱いですね……」
ネフィラトゥーンが的確な考察をしてくれる。
「よし、後で実験してくるのだ!」
完成したスネをもう一度見てみると、光を反射してつやつやしている。さらに、少女のボディは何も塗ってない膝もつやつやしているなぁ、などと考えたわれは思いつく。
「つやつやのお膝……これも改造できそうな……」
その瞬間、アイデアがひらめいた。
「そうだ!ライトなのだ!お膝ライト!」
「膝ライトぉ?」
ネフィラトゥーンとフィオナが同時に声を出す。
「この城は夜目が利く種族が多いのだ。全体的に暗いから、夜目が利かないわれは部屋への帰り道でよく転びそうになるのだ」
そう言いながら、さっそく両膝の関節になっている球体を取り外した。
「魔導電球に変えるのだ」
こうなったら誰が言い聞かせても止まらないことを分かっているのだろう。二人は渋々われの改造作業を手伝い始める。
膝の部分に魔導電球を埋め込むのは精密な作業だ。ボディの内部にエネルギーを伝える回路を書き込み、点灯条件を整えていく。このくらいはわれにとって朝飯前。だが自分の体の内部とあっては作業しづらいところも出てくるので、やはり部下がいるのは頼もしい。
約一時間後。
「できたのだ!」
立ち上がり、膝を二回叩くと光り出し、足元が明るく照らされた。
「これで、暗い廊下も見やすいのだ。そして、もしもの時は……」
われはしゃがみこんで顔を腕でクロスに覆い、拳を握って叫んだ。
「お膝フラッシュ!!!」
膝から、強烈な閃光が放たれる。
「キャッ!」
「うわぁっ!!!」
作業を手伝っていたはずの二人の部下も、われが予告なく発動したので避ける暇なく喰らってしまった。
「ちょっと!先に言ってくださいよ!ああもう、何も見えない~~~」
フィオナが目を白黒させて手を振り回している。
「だ、だめだぁぁ~~~」
ネフィラトゥーンはあまりの衝撃に、人の姿を保てなくなってドロドロに溶けてしまった。
「目くらましなのだから、急にやらないとダメなのだ。よし、完璧なのだ!戦闘時の撤退に使えるのだ!」
完璧な改造に満足したが、何かが足りない。そう、武器である。強くなるならかっこいい武器を仕込まなければ……。どこかにいい場所はないだろうか。
「むぅ、空いてる場所……」
体のあちこちを触って確かめ、最後に両手を胸に当てる。
「あ、ここは空洞なのだ。つるペタだから忘れてた」
かつての人間だった時に心臓があったはずの場所。何となく内臓など大事なものが入っている気がしていたが、コアになる魔導核は頭の中に入れているので空っぽだ。
ちなみにお腹は冷温庫になっている。夏は冷たく、冬は温かい飲み物がいくつか入れてあり、魔王様や四天王のみんなにサッと差し入れたりしている。何と気が利くのだわれ。まぁこれは、フィオナの案なのだが。
「確かに胸部は空洞でしたね。でも、武器が出ると服が破れますよ」
やっといつもの形状を取り戻したネフィラトゥーンが呟いた。
「大丈夫なのだ、めくればいいし」
われがそう言うとフィオナが眉間にしわを寄せる。
「ダメですよ!はしたない!」
「大丈夫なのだ、乳首はないし。あ、乳首を付けてビーム出すのもいいな!ちくびーむ!!」
「こら!乳首ダメ!絶対」
「むぅ……」
ちくびーむを却下されてしょんぼりしながら、胸に仕込む武器の思考を巡らせる。
ついでだからちょっと胸を大きくしてしまおうか。やはり美少女は巨乳の方がいいんじゃないか?いや、この身体には貧乳こそ似合うという説も……
そうこうしているうちにわれは新たな武器を閃いた。
<後編に続く>




