4 ゴロゴロ走る、列車に揺られて(坊ちゃん列車のお話)
お城、温泉、ときたら次は文学のお話です。
松山で文学、といえば何と言っても夏目漱石の名著『坊っちゃん』。
『親譲りの無鉄砲で子供の時からいつも損ばかりしている』のあまりにも有名な書き出しから始まるお話は、中学校の現代文で習ったという方も多いはずです。
そんな『坊っちゃん』は松山の方にとってはシンボル的存在のようで、街のあちこちで作品の登場人物、特に坊っちゃんやマドンナをモデルにしたキャラクターを見ることが出来ます。
松山城に登るロープウェイのガイドさんの制服もマドンナのイメージですね。
もちろん、松山市内には『坊っちゃん』ゆかりの名所もたくさんあるのですが、今回お話したいのは坊っちゃん列車についてです。
坊っちゃん列車は、松山市内を走る観光列車。伊予鉄道という鉄道会社が運行しています。
明治時代に伊予鉄道で活躍していた蒸気機関車を復元した列車で、『坊っちゃん』の中に登場することからその名がつけられたそうです。
運行日が土、日、祝日限定。しかも本数も限られているため、少々乗車のハードルが高く、私も1度しか乗ったことがないこの列車。
深緑色のなんとも味がある、そして小さくて可愛い蒸気機関車(風のディーゼル機関車)が『坊っちゃん』に描かれている通り、マッチ箱のような小さな客車を引き、松山市内の路面電車の線路を走ります。
そうなのです! この列車の面白いところは、レトロな機関車が令和の自動車行き交う街のど真ん中を走るところなんです。
乗ってみると、これも『坊っちゃん』にある通り、ゴロゴロというかなり大きな走行音がして、車掌さんのアナウンスが聞こえないほど。
正直揺れもすごいので、お世辞にも乗り心地が良いとは言えません。
それでもやはり、機関車に引かれた客車で街を走り、『坊っちゃん』の世界を追体験するのは、ものすごくワクワクする体験です。
とてもつもなく印象に残る思い出となりました。
ちなみにこの機関車。前述の通り、実はディーゼル機関車なのですが、きちんと煙も出ます。
そして、ぜひこの列車に乗った時は、いや乗らなくても見ていただきたいのが、坊っちゃん列車の方向転換。
通常機関車の方向転換は、ターンテーブルを使って行うのですが、坊っちゃん列車が止まる駅の1つ、松山市駅でのそれは一味違います。
松山市駅は行き止まり駅なので、機関車を方向転換させる必要があるのですが、なんと機関車をジャッキのようなもので持ち上げ、数人がかりの人力でエイヤッと反転させるのです。
そうして見事に線路の上に着地する機関車。
これだけでもすごいのですが、さらに機関車の正面側に残された客車も、これまた数人がかりで手動で押していき、反対側の線路も使いながら機関車の後ろにつなげます。
私がこれを見たときは冬でしたので、黒っぽくて長いコートの制服を着た職員さん達が、キビキビと機関車と客車を動かしいたのですが、これが本当に格好良いのです。
ぜひともこれは、松山に行ったら一度は見ていただきたい光景の1つです。
現代では、当然のような存在の列車ですが、きっと明治の頃にはまだまだ珍しい存在だったはず。
きっと街を走る列車のゴロゴロという音はまさに、新しい時代を感じさせるものだったのかな、なんて思ったりもします。