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村娘、未来技術で生活改善中  作者: ささやきねこ
第2章 村の水、なんとかします
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第6話「村に水が流れた日」

蛇口をひねったら、水が出た。


たったそれだけのことに、私はしばらく見入ってしまった。

金属製のパイプの先から、透明な水が音を立てて流れ落ちる。

炊事場の木の流し台に当たって、ぴしゃぴしゃと音を立てて跳ね返る。


それは、魔法でも奇跡でもなくて、仕組みと積み重ねの結果。

ヴィーが浄化用のナノマシンを設定してくれて、クオンが濾過装置や沈殿槽をチェックして、私は地形を整えて構築して……全部が繋がって、この瞬間になった。


「うわっ、出た出た!」


どこかで子どもが声をあげた。

振り向くと、小さな手で蛇口を回して、嬉しそうに水をすくってる子がいた。

手を洗ってるだけなのに、なんだかとっても楽しそうで、周りの子たちも真似をしはじめて。


「おお……これは……」


お父さんが、流れる水をしみじみと眺めてる。

水を張った桶を手にしたまま、ぽつりとつぶやいた。


「水って……こんなに静かに出るもんだったのか」


お母さんとレオも、少し離れた場所で笑ってた。


「ねえ、お母さん、おかわりしていい?」

「なんで水におかわりがあるのよ」

「だって、何回でも出るんだもん!」


子どもたちの笑い声が響くなか、私は少しだけ深呼吸をした。


「これが……“生活の変化”ってやつかな」


魔法を使った。でも、それは物語の中のような不思議な力じゃなくて。

ちゃんと仕組みがあって、理解して、使って、形にできた。

それがなんだか、すごく嬉しい。


「ミア」


振り返ると、レオがこっちを見ていた。

嬉しそうな顔だけど、なんだかちょっと照れてるようにも見える。


「……すごいよ。ほんとに、やっちゃったんだな」

「ふふん、やればできる子だもん」


軽口を返しながら、私は内心、ちょっと泣きそうだった。

レオにそう言ってもらえるの、ずっと夢だった気がする。


「君たちの技術は……王都でも通じるものだ」


静かな声がして、私はそっちを振り返る。

アレクシスさんが、炊事場の柱に寄りかかって、遠くからこっちを見ていた。

にこやかな顔。でも、あの笑顔の奥が、ちょっと読めない。


「……あの、何か?」

「いや。素晴らしい成果です」


アレクシスさんは、イケメンオーラを放ちつつ、穏やかにうなずく。

イケメンは何をしても形になるね。


「ところで」


アレクシスさんが、ふと声の調子を変えた。


「この水道設備、領都のほうでも紹介したいのですが……

 おふたりとも、少しだけカストールに来ていただけますか?」


まったく威圧感はないけど、それでもその場の空気がすっと変わった。


「それって……領主さまに?」

「はい。ご報告も兼ねて、ですね。あちらの技術担当の方とも、ぜひ話を」


言ってることは正論だ。

村の水道を使えるようにしたってだけじゃない。

濾過装置に、万能工作機に、ナノマシン。

こんなものが、どこから来たのか。誰が何のために持ってるのか。

それを問いただされないわけがない。


「ミア」


ヴィーが、そっと耳打ちしてくる。


「今は乗っとけ。逆らうタイミングじゃない」


「……うん」


にこやかに笑ってるアレクシスさんの目が、まるで氷みたいに冷たく見えた。

たぶん今断ったら、後で何倍にもなって返ってくる。

だったら、先に恩を売っておいた方がいい。


「では……準備ができ次第、数日のうちに」


アレクシスさんは、優雅に一礼をすると背中を向けて去っていった。

その背が見えなくなるまで、私とヴィーは頭を下げていた。


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