表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村娘、未来技術で生活改善中  作者: ささやきねこ
第2章 村の水、なんとかします
5/45

第4話「水を汲むのって大変」

井戸の前には、朝から長い列ができていた。

ティルア村の一日は、だいたい水汲みから始まる。

私もクオンと並んで、自分の番を待っていた。


「今日はまだマシですね。一番前の子、寒さで震えて泣いてましたから」


隣でクオンがつぶやく。口調はいつも通り淡々としてるけど、言ってることは案外やさしい。

クオンはアンドロイドだけど、この村の空気に少しずつ馴染んできている……気がする。


「……先頭って大変だよね。水も冷たいし、寒いし」


私はそう返して、クオンが持ってる木桶を片手で支える。

中身は空っぽだけど、朝の冷え込みがじわじわと手にしみてくる。


並んでる人の顔ぶれはいつもとあんまり変わらない。

けど、そのとき――


前の方で、「あっ」という声がして、バシャッと水の音が響いた。

小さな子が、バランスを崩して木桶を倒してしまったらしい。

あたりが少しざわついて、すぐにその子がしくしくと泣き始めた。


「お水……こぼれた……」

「あ……」


私は動こうとして、でも止まった。自分の順番が来るまではまだ時間がかかる。

そう思っていたら、クオンが無言ですっと前へ出た。


「私が汲んできます。少々お待ちください」


そう言うと、倒れた木桶を拾い上げ、何事もなかったかのように井戸へ向かっていった。

クオンかっこよすぎ。咄嗟に動けなかった私は自分を少し恥じる。


しばらくして、木桶にいっぱいの水を入れて戻ってきたクオンを見て、周りの村人たちは小さくざわめいた。


「……早っ」

「え、あの子、力あるなあ」


クオンはアンドロイドだから、もちろん力もあるし、疲れもしない。

でも、それを堂々とやって見せると、やっぱり注目される。


クオンは無表情のまま、水を受け取った子どもにひとこと。


「こぼしても、また汲めばいいのです。泣かなくて大丈夫」

「……ありがとう、おねえちゃん……」


クオンがほんのちょっとだけ笑ったようにも見えたけど、それはたぶん私の気のせいだ。


私は少しだけため息をついた。

――クオンは、ほんと頼りになる。でも、根本的な問題はそこじゃないんだよね。


この列ができてること自体が、おかしいんだ。

水を確保するのに、朝からこれだけの人が並ばなきゃいけないなんて。

しかも、並んでる間は家のこともできないし、誰かがこぼせば、またやり直し。


どうにかしなきゃ。

この村の生活の中で、まず一番最初に。


……なんてことを、その日の夕方、まさか領都カストールから来たアレクシスさんの目の前で言うことになるとは、思ってもみなかったんだけど。


* * *


「――ということがあったんですよ。クオンが水を汲んだら、みんな目を丸くしてて」


夕方、村長の家の奥にある会議用の部屋。

今日は、領都カストールから領主の息子、アレクシスさんが来ていて、定期の打ち合わせが行われていた。


アレクシスさんは、私やヴィー、レオより6つか7つくらい年上で、金髪碧眼のイケメンが眩しいお貴族様だった。

領主エドモンドの息子で、若くから徴税と領地経営を担っている。


ティルア村は、領地の中では一番大きい村で、村々のまとめ役をしていることから、

アレクシスさんは、定期的にきて視察や困っていることなどを聞きに来ていた。


といっても、打ち合わせの顔ぶれは村の代表である私の家族、それから私とヴィーと、クオン。

わりとカジュアルな雰囲気だ。


アレクシスさんは相変わらずにこやかで、焼き菓子をひとくち食べては、目をきらきらさせていた。


「このサクッとした食感……小麦粉の質もいいけど、焼き加減が絶妙ですね。甘さもちょうどいい」

「そ、そうですか? ふふ、うちで焼いたやつなんですけど……」


イケメンにほめられると、なんだか照れくさい。

でも、褒められるのはやっぱり嬉しい。

ヴィーとレオがこっちを見て何か言いたそうだったけど、なんだろう?


まあ、それはともかく、私は本題に入りたかった。


水の話だ。


「その、実はですね、今日みたいに井戸に並ぶのが毎日で……しかも、村人だけじゃなくて、行商人さんや旅人さんも水を使うじゃないですか。正直、井戸だけじゃもう回らなくて」


話しながら、私は机の上に持ち込んでいた紙束を開く。そこには、ポンプの簡単な仕組み図を描いてあった。


「それで、こういう“ガチャポンプ”っていうのを設置できればと思ってて――」


そこまで言いかけたところで、クオンが口を開いた。


「それなら、川から水を引いたほうが効率的です」


「……えっ?」


私は思わず、口を開けたまま固まってしまう。


「川の水をそのままか?」

「それは……まずいな。腹を壊した人間、昔ずいぶん出たからな」


父である村長――トリスがしかめっ面になり、アレクシスさんも、焼き菓子を置いて真顔になる。


「過去の衛生状態から見て、川の水をそのまま引くのは避けるべきです。とはいえ、浄化の工程を踏めば話は別です」


クオンは落ち着いた声で言う。


「沈殿槽を用いて泥や砂を除去し、さらに濾過装置を通すことで――」


「ちょ、ちょっと待って!」


私は慌てて、手を上げた。


「クオンの言ってること、私が代わりに説明します。

川の水を引いて、まず深めの大きな水たまりにいったん貯めます。

しばらく置いておくと、ゴミとか泥が下に沈んでいくので、

その上の、きれいな部分だけの水を使います。

それを、砂利とか砂が詰まった筒に通して、さらにきれいにするんです……!」


ぽかんとした空気が部屋を包む。


「なるほど……わかりやすいですね」


アレクシスさんがうなずいた。焼き菓子をもうひとつ取る手は止まらない。


「でも煮沸も必要になりますね」


とクオン。


「だったら、いいアイディアがあるぜ」


椅子にもたれていたヴィーが口を開いた。


「ちょっと実演してみよう。ナノマシンでな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ