表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村娘、未来技術で生活改善中  作者: ささやきねこ
第14章 未来への序曲
44/45

第42話「エピローグ」

「天使の地下都市」での衝撃的な発見から季節は移ろい、ティルア村にも冬の気配が近づいてきた。


ジオフロント…ううん、あの場所のことを村のみんなには「天使の地下都市」って呼ぶようにしているけど、私とヴィー、クオンの間では、やっぱり「ジオフロント」って呼ぶのがしっくりくる。


あの興奮から約二ヶ月、村は冬支度に追われながらも、新しい技術がもたらした確かな変化で、どこか浮き足立つような活気に満ちていた。


私が村の人たちと協力して進めてきた下水道の整備は、クオンの精密な指示と私の《構築》のおかげで、村の中心部と主要な排水路との接続がほぼ完了していた。


以前は雨が降るたびに、ぬかるんでいた道も少しずつ改善され、共同炊事場や各家庭のシンクからの排水もスムーズになり、鼻をつくような不快な臭いがずいぶんと減ったのを実感する。

村の主な水源は、以前ヴィーが《ナノマシン制御》で浄化システムを作ってくれた川の水だけど、昔ながらの井戸もガチャポンプをつけて、まだ補助的に使われている。

それでも、村全体の衛生環境は、目に見えて良くなっていた。


鍛冶工房では、トムさんたちがカストールから来た若い見習いたちと一緒に、ステンレス製の調理器具や高炭素鋼の農具、工具の生産に毎日汗を流している。

クオンがつきっきりで指導した約二ヶ月半は、トムさんたちにとって大変な日々だったと思うけど、そのおかげでティルアの職人たちの技術は比べ物にならないくらい向上した。


「錆びない鉄」や「驚くほど切れる刃物」は村でも評判で、みんなの生活を少しずつ、でも確実に便利なものへと変えている。

一部はカストール領の他の村へも供給され始めていて、ティルア村の新しい顔になりつつあった。


商業ギルドの方も、ヴィーとダロスさんが中心となって、かつてないほどの活気に満ちていると聞く。


ヴィーが作った石鹸やシャンプー、エルドン鉱山村のガラス工房で作られた瓶やコップ(サラやリアをはじめ、子供たちの間ではビー玉が大人気!)、そしてヴァスケル村の竹布なんかが「ティルア・ブランド」として集められ、まずは友好的なポルックス領に向けて試験的に出荷する準備が進められているらしい。

村の女性たちが、肌触りの良い竹布で新しい作業着や子供服を縫っている姿を見かけることも増えた。


ステンレス製品については、この前ヴィーから少し面白い話を聞いた。

彼がカストールで、領都の商業ギルド長であるバーンズさんと、カストールで一、二を争う大商会の会長であるランバートさんに鍋と包丁を売った時、なんと金貨5枚と銀貨4枚という、とんでもない高値がついたらしいのだ。

日本円にしたら…ええと、120万円くらい?


ヴィーは「あの人たちの顔を立てる意味でも、カストール領全体のブランド価値を高めるためにも、最高品質のステンレス製品は、まず領都のギルドを通して正式に流通させるのが筋だろうな」なんて、いつになく真面目な顔で言っていた。

もちろん、ティルア村では研究用や村人向けの製品は自由に作って活用しているけど、大々的な販売戦略としては、領都カストールと連携していくというヴィーの考えに、私もお父さんも納得した。


食文化も変わりつつある。

ジオフロントの食料区画で見つかった膨大なレシピデータベースを元に、私やエレナスお母さん、そしてそよかぜ亭のリアちゃんのお母さんたちが、村で手に入る食材や、ヴィーが《植物制御》や《微生物制御》で新しく育て始めたハーブやスパイスを使って、新しい料理や保存食に挑戦している毎日だ。


特に果物やキノコの缶詰の試作は、冬場の食料確保の切り札になるかもしれないと、みんな期待を寄せている。これが完成すれば、冬の食卓もずっと豊かになるはずだ。


新しい技術を村全体に広めるには、やっぱりそれを扱える人を育てることが一番大切だと、最近つくづく思う。


クオンの指導のもと、鍛冶職人だけじゃなく、ラーネス村から定期的に学びに来ている織物職人のリーゼさんや、エルドンのガラス職人見習いのバルドさんたちが、熱心に新しい技術を習得しようと努力している。


時には失敗して落ち込んだり、思うように進まなくて悔し涙を流したりすることもあるけれど、彼らが自分の手で新しいものを生み出す瞬間の、あの達成感に満ちた笑顔は、私にとっても大きな喜びだった。


アレクシスさんとの約束通り、領都カストールや他の村からも、本格的な研修生をティルア村に受け入れるための準備も進んでいる。

お父さんやお母さんが中心となって、研修生たちの宿泊場所の整備や、クオンが作成した指導カリキュラムの調整に奔走している。


いつかティルア村が、このカストール領全体の技術研修センターのような役割を担う日が来るかもしれないと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。


そんな中、レオはジオフロントの地図やそこで見つかった古い記録の研究にすっかり夢中になっていた。

クオンに古代の文字の読み方や歴史について教えを請いながら、他の「天使の遺産」…つまりジオフロントの場所や、それらに関する古い伝承、各地の地形などを羊皮紙に熱心に書き写している。


その真剣な横顔は、いつものんびりしているレオとは別人のようで、彼の探求心が、いつか私たちの次の道しるべになるかもしれないと、私は密かに期待していた。


* * *


冬の足音がすぐそこまで聞こえてきた11月半ばのある日、アレクシスさんが定期的な視察も兼ねてティルア村を訪れた。

村の目覚ましい発展ぶり、特に下水道の整備状況や各工房の活気を目の当たりにし、彼は満足そうな表情を浮かべていた。


村長であるお父さんとの公式な会談の後、私とヴィーはアレクシスさんと改めて話す機会を得た。

アレクシスさんは、ティルア村の成果がカストール領全体の大きな刺激になっていること、そして特にポルックス領の領主が、カストール領の技術発展――特にティルア村からもたらされる新しい産品や生活改善の噂に、強い関心と羨望の眼差しを向けていることを教えてくれた。


「ポルックス領の領主殿は、自領のさらなる発展のため、我がカストール領からの何らかの助力を期待しているようだ」


アレクシスさんは、遠くを見るような目でそう言った。

その言葉は、直接的な依頼こそなかったけれど、私とヴィーにははっきりと、次に向かうべき場所を示唆しているように思えた。


世界地図に記されていた、ポルックス領に存在する「光の点」――新たなジオフロントの可能性。

今はまだ、カストール領の基盤を固めることで手一杯だけど、いつか必ず、あの地図に記された全ての場所を訪れ、この世界の謎を解き明かしたい。


そんな熱い思いが、胸の奥で静かに、でも確かに燃え始めるのを感じた。


夕暮れ時、私は一人、村を見下ろせる少し高台の場所に立っていた。

冷たくなってきた風が、頬を撫でる。眼下には、冬支度をほぼ終え、落ち着きを取り戻しつつあるティルア村の姿があった。


家々の窓には、エルドン産のガラスを使った新しい窓板がはめられ始め、そこから私たちが作った電灯の温かな光が優しく漏れている。


鍛冶工房の煙突からは、もうもうと煙が上がり、一日の仕事を終えた職人たちの活気ある声がここまで届いてくる。

村の中心にあるテルマエ風呂からは、気持ちよさそうな湯気と共に、村人たちの楽しげな声が聞こえてくる。

畑には新しい農具が手入れされて並び、改良された織機やミシンの音が、日が落ちるまで村のあちこちで軽やかに響いていた。


この平和で、力強く発展していく村の姿、そしてサラちゃんやリアちゃんをはじめとする子供たちの屈託のない笑顔こそが、私が、私たちが守り、育てていきたい未来そのものなんだと、改めて強く思う。


私たちの村、ティルア。

ここで見つけた小さな希望の光は、ヴィーやクオン、レオ、お父さんやお母さん、そして村のみんなの力で、少しずつ、でも確実に大きくなっている。


この光が、いつかカストール領全体を照らし、そして、その先の世界の未来さえも明るく照らし出す大きな流れになるように。

そう信じて、私たちは今、この瞬間を、この村で力強く生きていくんだ――。


隣にいつの間にか立っていたヴィーと、そしていつも私たちを静かに見守るクオンの姿に目を向ける。

二人の顔には、私と同じ未来を見つめているような、静かな決意が浮かんでいた。


私たちの冒険は、まだ、本当に始まったばかりなのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ