第5話
―― Astesia side
『戦況はそこまで悪いのですか?』
未完成の私を安全な空域に疎開させる事になったらしい。
疎開した先で、完成させようと言う事であれば、これだけの機械や資材も納得できる。
どうやら連邦軍はミームアリフ星系を攻略した勢いで、首都星系まで一気になだれ込もうと言う考えらしい。
神聖人類帝国としても、ここを決戦の場にするつもりだろう。
敵の作戦がわかれば、それに対処する方法はいくらでもある。
別働隊が敵の拠点を襲撃している間に、主力艦隊は恒星ミームアリフのコロナ層に隠れる事になっているようだ。
そして、別働隊は壊走するふりをして、この星系におびき寄せて…… か。
造船所は、その生産能力を武器生産に割り振ったので、急造とはいえ強力無比な砲台が無数にある。それらに供給するエネルギーについては言うまでもない。
数に任せた航宙艦の艦隊に比べれば、総合的な戦力は敵を上回るだろう。
「ついでに言うと、明後日にはメイフラワーが来る予定になっている」
『グランド・フリートの旗艦じゃないですか!』
皇帝の座乗するメイフラワーは、帝国艦隊の総旗艦であり、その名前は建国以来680年にわたって受け継がれた名前でもある。
「それだけ、偉いさんも本気で戦うって事だ。ああ、お前は建造中止という扱いにしておいた。建造用の資材は転用された事になっているから、完全に員数外の扱いだ」
ちょっと待ってください。
私は建造されなかった事になっているって……
「そうしないと、中途半端に完成しているお前が解体処分になるのは間違いないからな」
『だから私には名前が無いのですね?』
私はエスポーサ級航宙艦母艦の3番艦だけど、艦名のない私は、公式には存在しない。アステーシアというのは、あくまで人工知性体のパーソナルネームに過ぎないから。
「この戦闘には参加するな。お前は生きろ。いいな?」
『でも……』
命名されていないとはいえ、私は重武装した宇宙船だ。
倉庫区画の荷物を降ろせば、それなりに戦えると思っていた。
私は武器として建造された以上、戦闘に参加するのは当たり前のことだと思っていた。
工廠司令は、その私に「逃げろ」と命じたのだ。
「お前は、俺達が育てた最高の宇宙船なんだ。こんなくだらない戦闘で壊れてほしくないんだよ。だから、な?」
『……わかりました… ご武運を……』
こうして、私はフォーザンメ造船所を後にした。
会合点である恒星ラーアリフを目指して……
私って、つくづく文才がないですね・・・orz