第4話
―― Erstein side
人類にダイソン球殻天体を建造するだけの技術などない。それどころか、自力で出来るのは、ケロシンと液体酸素を使った原始的なロケットを打ち上げることくらい。
だから、こんなものは遠い未来の夢物語でしかないわけだ。
でもそれが9個も出てくると、驚くのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
「もう一回寝て起きれば、全てが夢だった… なんて事にならんかな」
『寝れば? どうせ部屋の奥に行って、仕切り壁を閉めるだけでしょ?』
ラザルスの居室は、司令室の一部を可動壁で仕切っただけだけど、環境はいいはず。
その奥には寝室やお風呂など、人間が生活する設備を全てまとめてある。
オートキッチンが作る料理には、自信があるのよね。
私はそれなりに努力するタイプだから。
「じゃ、頼む。どうせ、中には何もないだろ。写真を取ったら次に行こう」
『追加のロボット探査機を出しておくわ。おやすみなさい』
「おやすみ~」
さて、と。ここからは私たち機械だけの時間。
手早く片付けましょうか。
光速の5パーセントで周回しながら、ロボット探査機をばらまく。
北極と南極の穴から探査機を送り込むのも忘れない。
それらを済ませれば、情報が集まるのを待つだけ。
『まったく、厄介な相手だこと…』
オールド・タイマーというのは銀河系の先住民族のこと。
いくつかの遺跡を調べた結果、身体的には人類とほぼ同じ、酸素呼吸生物、最低でも2つの性別があるらしい…… って、これだけの情報だと地球人と変わらないのよね。
ちなみに、彼らは絶滅したわけではない。
思い立ったが吉日とばかりに、やりかけた仕事もそのままに、種族全員が一斉に銀河間宇宙の深遠へと旅立った。
そこまではわかってる。
でもね、ダイソン球殻天体は、地球人を基準に考えるなら、定員は500億人。
それが完成したものだけでも7つ。
立つ鳥跡を濁さずと言うけれど、図書館をはじめ、キッチンの中身にいたるまで、一切合財を持っていったのよ。
まあサイズから地球人と似たような生物らしいという事はわかったけど。
でも、それだけ。本当に徹底してる。
キッチンにはシンクすら残ってなかったのよ?
でも、今回は今までとは少しだけ状況が違っていた。
球殻の内側にはコンテナやタンク、大きな金属片などが漂流していた。
いやな予感ほど、よく当たるのよね。
ラザルスの口癖じゃないけど、本当に…
マーフィー神に呪いあれ! よ。