第27話
―― Erstein side
ラザルスとの通信が切れてから、6時間が過ぎた。
彼の足取りは、この船体の中心部にある特殊な区画で途切れている。
周辺区画を調べた結果、これ自体が独立した宇宙船らしい。
それでも、全長1キロメートルほどになりそうだけど。
『!?』
そこまで考えた時に、異質な信号を受信した。
正確には、信号自体には何の異常もない。
データ形式も周波数も、私の記憶にあるものと、ほとんど同じものだ。
唯一の違いはデータの末尾についている署名だ。
署名はアステーシアとなっているけれど、これだけが私の記憶にないもの。
2011年にカフィ・レー・ペーチェという場所で登録されている。
リルガム語かな。だとすればギークな言語だこと。
辞書データだって作られてないし、使っていたのはちょっとアレな人たちだったもん。
私だってラザルスと付き合ってなければ知らなかったと思う。
日本語に翻訳すれば祝福の場… ちょっと変ね。祝福された地というところかしら。
まあ、そこらへんは、良しとしましょう。
異質なのは、信号を受信した場所と時間よ。
ここはM48散開星団の深奥で… 太陽系からの距離は2000光年もあるのだから。
そして、計算の上では、私たちが月面基地を出発してから、970年から980年は過ぎているはずなのに…
特殊相対性理論から導き出された時間の遅延現象は、20世紀に人工衛星の原子時計と地上のそれとの比較から実証されている。
それを踏まえた上で今までの航宙記録から、経過時間を再計算してみた。
計算結果には間違いない。
私はどうしたらいいの?
誘導信号の発信源は、あの宇宙船だ。
その内容も周波数も…… 着陸誘導用のものに間違いない。
偶然にしては、確率が低すぎるし、作為的なものにしては出来すぎている。
データの出所は、月面基地か外宇宙に旅立った仲間たちしかない。
私が迷っている間に、宇宙船のほうにも変化があった。
船体の中心近く…… 特殊な区画と思っていたあたりが動いている。
その内側から核反応とおぼしき熱反応を確認。
そして…… 照明された内部に見えるのは着陸床だ……
何度か繰り返した精密測定の結果は、あれが月面基地にあった着陸床を模倣したものとしか考えられない。
私は、宇宙船に向けて問い合わせてみた。
通信形式はどうなっているか、ですって?
そんなの決まってるじゃない!
月面基地で使っていたものを使えばいいはずだから。
そして、その判断は……
間違ってはいなかった。