第20話
―― Lazarus side
好奇心は猫をも殺すというが、結局のところ、私達は刺激に飢えていたのだ。
エルスティンにしても、それは同じらしい。
それなりの準備をした上で、宇宙零戦で乗り込む事にしたのだ。
無人探査機に機銃やミサイルを装備したもので上空援護をさせるのが精一杯だが。
『制空権は確保した… つもりだけど… 本当にやるの?』
「とりあえず着艦した。マグネットワイヤーを射出… やっぱり駄目か」
『接着剤なら、シートの下に入れておいたわよ。30秒で硬化するから注意してね』
「ん… これだな」
私が乗っているのは宇宙零戦だ。メッサーシュミットが開発したラウムティーゲルのような重戦闘機ではないが、総合的なものを見れば同レベルだ。
機体が軽い分だけスピードも出る。
一応パルスレーザーと20ミリ機関砲をそれぞれ2門、主翼には増速用のロケットブースターを取り付けてあるが、まあ… 気休めに過ぎないな。
船体にワイヤーを接着すると、辺りを見回してみた。
どこまでも続く金属の平原、とでも言えばいいだろうか。
「係留終わり。これから穴に近づいてみる」
『気をつけてね』
「わかってる」
穴までの距離は、だいたい10メートルというところだ。固定用のフックに命綱を取り付けた私は、見るとはなしに足元を見て……
「これは!? 嘘だろう」
『どうしたの!?』
「いくつかの書き込みを見つけた。これはイスパノ語… 違うな、ラジルポ語だぞ」
『なんですって?』
「目の前にあるのは緊急用エアロックだ。書いてあるのは手動操作の手順だぞ」
それは日本語でこそなかったものの、夢にまで見た地球の文字だった。
「……南半球最大の大陸の公用語だ」
『ラジルポ連邦… ねえ』
「少なくとも、地球は生き延びたようだな」
元化43年に月面着陸に成功し、5年後には衛星軌道上のステーションの運用を始めた我々は、それなりの平和な時代を謳歌していた。地球がきな臭くなったのは、58年に第3次月面基地設営隊が、アルフォンス・クレーターの地下に『生きている』技術施設を見つけてから…… か。
そして、地球全土に吹き荒れた核の嵐……
『泣いてるの?』
「悪いか?」
『いいえ、よかったね……』