第14話
―― Erstein side
手持ちのロボット探査機を全部使ったローラー作戦を始めてから、何日かが過ぎた。
地表にあったのは、無人偵察ポッドだった。中身は通信機といくつかのセンサー、核バッテリーといったところだ。
『ラザルス?』
「ん~?」
『宇宙船が居たわよ』
「見つけたか!」
何枚かの写真に宇宙船の姿が写っていた。
ラザルスの言ったとおり、宇宙船はレーダーや質量探知機に反応しないくせに、光学センサーにはしっかり映ってる。
灰色がかった紺色は迷彩のつもりだろうけれど、太陽を背にしたら全く意味がない。
「もう少し細かいところを見たいが…… 出来るか?」
『やってみる。今日のところはとにかく寝てね。寝る時間を過ぎてるから』
ラザルスには、そうは言ったものの、ちょっとばかり厄介だ。
探査機のプログラムが書き換えられているのだ。
プログラムの内容は、送り出した時のものと全く同じものだが、日付が違っている。
私は2種類のカレンダーを使っている。
それは、船内時間と、船外時間だ。
前者は私が月面基地を出発した時から使い続けているもの。
つまり、日本時間で元化61年。西暦では1986年という事になる。
後者については、あくまでも推定。
だから、ラザルスとの間で使っているのは、あくまでも前者だ。
後者については、あくまでも計算の上で求められた理論上の日付だ。
その結果だと、西暦2963年になる筈なんだけど、こればかりは確かめる方法が無い。
理論を発表したアインシュタイン博士が、中央同盟国の出身だからというわけでもない。
私が測定や計算を間違えたからでもない。
答えは単純。正解がわからないから。
アインシュタイン博士の計算式が正しいかどうかなんて、実際に使ってみなけらばわからないじゃない。計算結果が正しいかどうかを確かめる方法がない以上、そんなデータを採用するわけには行かない。
それ以前に、ラザルスが付いていけない。
目が覚めたら日付が大きく変わっていました…… 言うのは簡単だけど、理性が納得しても、感情的にはどうかと思うのよね。
そんなわけで、コンピューターの記録は船内時間に統一してる。
それなのに。
宇宙船の画像を持ち帰った無人探査機は、例外なく西暦2963年にアップデート処理を済ませたことになっている。
そんな事をした覚えはないし、だいいち船内時間は1987年だもの。
私達が月面基地を出発してから、まだ2年も経っていないんだから。