19-ケヤキさんの物語(第3部プロローグに代えて) 1 <しあわせな日々>
災害のシーンがあります。
我が家の太さが一抱えもある庭の立派なケヤキの樹はとにかく落ち葉がすごい。落ち葉と言うと秋のイメージだがこの樹は春先から初夏に掛けても長々と枯れ葉枯れ枝を落とす。春の若葉に押し出された枯れ葉が後から後から落ちてくる。庭の枯れ葉の掃除は私の仕事だ。「枯れ葉を落とすのもいい加減にしろ」と言いたくなる。腹が立つので樹の幹に飛び蹴りを入れる。樹はびくともしない。ケヤキの根は深く広く張るため、頑丈だ。最近はその根が庭の飛び石を浮かし、ボコボコにしてしまっている。お父さんがヤレヤレとため息をついている。
はしごをかけて、屋根からケヤキの太い枝に跳び移り、幹に抱きつく。そこから見える景色はすばらしい。台地の張り出した尾根筋の中腹の少し高い場所にある我が家は眺望が良い。そして、そこから眼下に街が広がって見える。小学校のグランドで野球をしている上級生も良く見える。街の景色はすばらしい。私はこの景色を樹の上から独り占めできる。この景色だけで、ケヤキの落ち葉掃除の大変さも許せる。
「ケヤキさん。今日も奇麗な夕焼けね。」
わたしがそう呼びかけると、梢の枝がざわざわと鳴る。私の呼びかけに答えてくれているようだ。
「アオイ! ご飯よ。」
お母さんが呼んでいる。
「は〜い! いま行く!」
私はサルのようにするすると樹を降りて庭先から家の中に入る。
「ケヤキさん。また明日ね。おやすみなさい。」
ケヤキが梢の枝を揺らしてざわざわと返事をしてくれる。 今日の晩ご飯は何だろうな?
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
春も4月に入り、ケヤキの新芽も芽吹き、古い葉が落ちてくる、春も本格化して来た。夏になり、若葉は濃い緑の本葉に変身した。しかし、例年、今頃になるとちらほらと黄色くなる葉っぱも、今年はまだ濃い緑のままだ。
最近、小さな地震が多い。我が家は地盤が固く、ゴーっという地鳴りが聞こえるだけだ。でも、石垣から一段低くなっている道路に面した場所のケヤキの樹は枝をギチギチ鳴らして揺れる。斜面の上の方の竹林はザワザワする。
木に登っている時に地震が起こると、少しだけ怖い。幹にぎゅっとしがみつく。でも、ケヤキさんはその枝で私を包み込むように守ってくれる。「大丈夫だよ」と私を包み込むように守ってくれる。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「おとうさん。最近地震が多いねえ。」
「そうだな。でもまあ小さめの地震ばかりだし。これでエネルギーを放出してくれたら、良いんだけどな。 まあ、我が家は台地の岩盤を基礎にして建っているから、地震には強いはずだよ?」
「でも、ゴーって地鳴りが怖いわねえ。」
「お母さんは臆病だねえ。」
「あら、アオイちゃん、臆病じゃなくて用心深いのよ。」
「まあ、非常食や水を備えていた方が良いかもしれないなあ。」
「でも、置き場に困るわよねえ。」
「それでも、非常食は大事だよ。あおいも腹ぺこは嫌だろ?」
「腹ぺこは嫌よ。非常食を買い込まなきゃ、おかあさん。おねがい。」
「わかったわ。明日スーパーでパックご飯と魚の缶詰を買ってくるわ。」
「えー?お魚ぁ? 私はハンバーグが良い!」
「おもしろいこと言うわねえ。ハンバーグの缶詰なんか売ってないわよ。」
「ハンバーグの缶詰は見たことないけど、レトルトパウチのハンバーグならコンビニで見かけたことがあるよ。さもなければランチョンミートとかスパムとかかな?」
「レトルト食品は消費期限が短いかもしれないわね。」
「そうでもないよ。レトルト食品も賞味期限は2年くらいあると思うよ?」
「本当かしら? スーパーで確認しなくちゃね。」
「でも、まあ、賞味期限が長い分、お店で売られているのは少し古いものかもしれないから…。おかあさん?買う時に賞味期限の表示を必ず確認してね?」
「…わかったぁ〜。あ〜面倒くさいわねえ。」
「まあ、非常食だから…時々買い足して、ローリングストックにすれば良いし。」
「ストック管理は私に丸投げ? もぉ、本当に面倒くさいわねえ。」
「「ご苦労様です。」」
「ミネラルウォーターも買っておこうかしら。」
「そうだね。2Lのペットボトルでひとり1日1本、2週間分で21本必要だな。」
「え〜! 私ひとりでそんなに運べないわょ。今週末に買い出しに行きましょう。お父さん。荷物持ちをお願いね。」
「うぇっ! やぶ蛇だな。」
「アハハハハ」
「アオイも笑ってるけど手伝うのよ。さあ、今日の夕飯を早く食べちゃいましょう。熱々のハンバーグがさめちゃうわ。」
「「は〜い、ママ」」
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
翌日。ネットに『マリアの予言2』が流れた。




