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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
02-クーボ大博士の物語 全5話
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02-クーボ大博士の物語 <クーボ大博士の後悔>

注:クーボ先生の主張は、必ずしも著者の主張ではありません。

 100年ほど前、イーハトーブ火山局の会議室で、クーボ大博士とブドリ技師はディスカッションをしていた。火山局のペンネン技師長も陪席している。


 「クーボ先生! 先生はこのまま何もせず冷夏を迎え、2年続きの凶作を許すのですか!」

 「ブドリ君、落ち着きたまえ。確かにその兆候はあるが、まだ冷夏になると決まったわけではない。」

 「先生! 5月になってからの10日も続いたみぞれは、あの20年前の凶作の時と同じです。私はあのとき父と母を失いました。妹も行方不明になり一家離散しました。あの悲劇を繰り返させてはいけません。」

 「しかし、そうはいっても我々に何ができるというのかね? 今年は冷夏になるからオリザではなく蕎麦を植えろとでも言うのかね? 私たちは気候変動の専門家だが、農業の専門家ではない。…だれも我々、一地方の研究者の言うことなど誰も信用してはくれないよ。」

 クーボ先生は暗い顔でうつむいた。

 「先生、我々にもできることはあります。大気中の二酸化炭素濃度をあげましょう。そうすれば気候は温暖化します。そう先生はおっしゃっていましたよね。」

 「確かに、大気中の二酸化炭素量が多いと気候は温暖化する。そういう相関が見られる。でも、そう簡単に手早く二酸化炭素濃度をあげることはできん。」

 「いや、先生、できます。火山を噴火させるのです。」

 「火山が噴火すると、確かに大量の二酸化炭素を吹き出すが、同時にSOx(酸化硫黄類)や火山灰も吹き出し、短期的には寒冷化を引き起こすのではないかね?」

 「確かに、多くの普通の噴火は火山灰による遮光で1〜2年は寒冷化します。しかし、サンムトリ火山の噴火誘発では火山灰の放出を最小限に抑えることができました。寒冷化はしていません。イーハトーブ火山局の技術を信じてください。」

 ペンネン技師長がブドリの言葉を受けて、無言で頷いた。

 「ふむ。では具体的にどうするのかね。」

 「カルボナード火山島を噴火させましょう。あの火山のガスはほぼ二酸化炭素です。噴火で二酸化炭素を放出させるのにはうってつけです。」

 「しかし、あの島は陸地からは慣れているから、その噴火誘発作業へ行った者のうち最後のひとりは逃げそびれるおそれがある。」

 「私がその最後のひとりになります。なーに、私はまだ27才で若いですし、足も速いから、火山を吹かした後に逃げ切ってみせます。」

 「しかしなあ…君の命を危険にさらすのは…」

 「先生、リスクは承知の上です。やりましょう。それに大気中の二酸化炭素が増えれば光合成の効率が上がり、オリザの収穫量もきっと増えるでしょう。多少出るSOxやNOxも肥料になります。一石二鳥、いや一石三鳥じゃないですか。」

 ブドリ技師はニヤッとわらった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 「わしはブドリ君におしきられた。カルボナード火山島は無事に噴火した。…その年は冷夏から一転して暑い夏になり、オリザも十分に収穫できた。…しかし、ブドリ君は帰ってこなかった。…わしが殺したようなものだ。」

 クーボ大博士はうつむき、そのひどくひずんだ顔の頬に涙が流れた。


 「クーボ先生、その…ブドリ技師は自分の信念に基づき、自分を犠牲にして多くの命を救ったわけですよね。技術者としては本望だったのではないですか?」

 「違うんじゃょ。ミヤサワ君。その学説には穴があったのじゃよ。わしの視野は狭かった。二酸化炭素『だけ』が温暖化の要因ではなく、海流や海水温などもまた大きな要因であることに、わしは何年も経ってから、気がついてしまったのじゃよ。歴史に『もしも』は無い。でも、しかし、…もしかしたら、カルボナード火山を噴火させなくても冷夏は回避できたかもしれない。わしは後悔しているのじゃよ。自分の学説が若い技師を殺してしまったことを。そして、そうならブドリ君は犬死にじゃ。それはわしの責任じゃ。」

 僕には大博士に掛ける言葉を持っていなかった。



ご意見、ご感想をお待ち申し上げております。


明日から講義再開、期末試験などで更新が不定期になるかもしれません。

ご容赦ください。

できるだけ『柳沢教授』のように更新頻度を守りたいと思います。

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