18-ブドリ君の物語 再び (第2部エピローグに代えて) <組織> 2
僕『ブドリ君』は齢50でE-EDOからその下請けの『秘密インテリジェンス結社クロー(カラス)』の所長に出向・就任した。その仕事は大きな自然災害、地震や疾病などを予想してその対策を関係機関に提供するという至極真っ当な組織だ。なのに組織名に『秘密』という文言が入っているために、うさんくさい目で見られる。仕方がないじゃぁないか。その情報の根拠が『カラス達から集めた情報』や『現世をさまよう霊からの情報』とか、『狭間の世界・賢人会議からの情報』であることはどうしても公表できないし、公表しても信じてもらえない。だから秘するしかない。
しかし、このネーミングは何というか、…中二病っぽいなあ。命名者はあの人工人格ミヤサワクンだ。あの人工知能の思考は….いったい誰に似せたのか? この間、お地蔵様ミヤサワ君に愚痴ってたら、彼にすんご〜く微妙な顔をされた。その横で理恵子さんが悪い顔で微笑んでいたのがものすごく印象的だった。
この『秘密結社クロー』の存在そのものは全然秘密ではない。旧水田家新館の8畳のフローリングの部屋が拠点だ。そこにある端末とレイヤー・ラックと3枚のモニターがほとんど全ての設備だ。端末は専用回線でミヤサワクンにつながっている。回線は常時接続ではない。本体はもちろんスタンドアローンだ。会議室はない。会議は居間か食卓で行う。…安っすい秘密結社だなあ。
そして、我が家の玄関の表札の下には表札の何倍も大きな木の板に『E-EDO支社、秘密インテリジェンス結社クロー(カラス)』の看板がかけられている。…ご近所の目が痛い。いや最近は生暖かい目で見られるようになってきた。そっちの方がいたたまれない。ときどき、カラスのコスプレをした兄ーちゃんや姉ーちゃんたちが看板をバックに自撮りしようとして敷地に入り込み、カー太ンズにつつかれて追い出されている。
そして『秘密結社クロー』から各所への情報提供も、もちろん内容によるのだが、原則無料で公開・提供されている。 どこが秘密結社やねん! 1年間問いつめたい。しかし、その予測の手法は公開されていないため、それを求めて我が家の周りには合法・非合法の調査員がたむろしている。アポを取った上で、菓子折りを持ってたずねてくるエージェントにはカラス達も騒がない。お前ら、お裾分けを期待しているな? しかし、非合法な傍受活動などをしようとするエージェント達の試みは、ことごとくカラス達により妨害される。あんまりしつこいと、お前の国へ情報を提供してやんないぞ!
最近、『雷鳥国際救助隊』が『秘密結社クロー』を傘下に迎えたいと、お金にものを言わせたオファーを仕掛けてきた。トリつながりでなんとかトリ込めないかと粘ってきた。でも、トリつく島もなく断った。しかし、あの雷鳥救助隊はうらやましいな。お金にものを言わせて絶海の孤島を要塞化し、ジェット機やロケットをばんばん飛ばしている。その活動も実際の救助だから社会的アピールも強い。しかもそれだけ大きな組織なのに、ほとんど家族経営だとか。トレーシーさんの経営手腕は見習いたい。
うちの『秘密結社クロー』も家族経営だ。居間や食卓が会議室であることからも推して知るべしだ。できれば他に人材を求めたい。でも適切な人材がいない。特殊能力を持った人材に依存している状態だ。カラスや現世の霊魂と会話できるのは僕と娘の真知子の二人。狭間の世界と行き来できるのは真知子の夫のハルキ君だけだ。いや、お地蔵様になった祖父のミヤサワ君はその両方の能力を持っている。しかし、既に亡くなっており、その能力を活かすためには、僕か娘の真知子の介在を必須とする。 組織の存続を考えると、この人材不足は心もとない。人材確保と狭間の世界に頼らない災害回避の仕組みの構築は急務だ。 そういえば、真知子やハルキ君と仲良しの双子もカラスとつるんでいたな? 今度あったら話しを聞いてみよう。
一方で、カラス達の組織化は順調だ。ネットワークは日本からユーラシア大陸の北東部に広がっている。今後の課題はヨーロッパの同胞とどのようにつながるか? 他のカラス種とどのように連携するかだと、カー太ンは語っていた。
「なあ、カー太ン。カラスの方はすごく組織化が進んだよね。」
『そーだな。我々は元々特殊能力で、現世の霊魂が見えるからな。そして、使える母集団が多いからな。』
「うらやましいなあ。カラスに比べて人間側は人材不足だ。」
『ククク。ニンゲンもよくやっているんじゃないかな?』
頭に3本白い羽根を生やしたカー太ンは僕に楽しそうに告げる。そこへコー吉が話しに割り込んでくる。
『ブドリ君? 人材不足はあんたの努力不足じゃないか? もっとパートナーの美知子さんと仲良くしなくちゃ。子供を産んでもらわなきゃなぁ。』
「僕は割と若い時に生殖能力を失っちゃったからなあ。」
『そうか。それはお気の毒様。なら、次世代、ハルキ君夫婦に期待するしかないかな? 焚き付けないと。』
僕は渋い顔をした。
「あのバカップルは前世の老夫婦を引きずっていて、子作りには積極的じゃないんだよ。イチャイチャするだけで楽しいみたいだ。困ったもんだ。」
また、愚痴になってしまった。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「お義父さん。予定通り西日本のカラスへの聞き取りに行ってきます。」
最近地殻が不穏な西日本へ、ハルキ君と真知子はカラス情報を仕入れに1週間の出張に行くことになっている。
「お父さん。あのE-EDOのボロ車じゃなくてうちのステーションワゴンを使っちゃダメ?」
「それは公私混同だろ?」
「でもあの小さな車は振動で疲れるのよ。」
「仕方ないだろ? コー吉を連れて行かなきゃならないし。だから公共交通機関が使えないし。 それに自動運転モードなら寝てれば目的地に着くし。」
「だから、わが家の車の方がまだ大きくて乗り心地がいいの。」
「それは、逆公私混同だな。やっぱりダメだ。万が一に事故った時の補償や保険のための準備手続きがややこしい。」
「チェッ。ケチ。 事故ることなんか絶対ないのに。」
「絶対はないよ。X10レベルの太陽フレアはAIとの通信を切断するぞ。」
「そんなの、事前にある程度わかるでしょう?」
「わかるかどうか、まだ研究中でわからないよ。それに、ケチはE-EDOで僕じゃないよ。お役所仕事なんだよ。さあつべこべ言わずに行ってこい。お土産は紅葉まんじゅうで良いからな。」
「「はい。パパ!」」
「こら、パパ言うな。お父さんと呼べ。それに変に膝を曲げてカクカク歩くな。右手と右足が同時に出てるぞ。」
「クローズ アー ゴー(カラス出撃)タッタカター、タカタッタ、タッタカタッタッタ♪」
ハルキ君が肩にコー吉を乗せて、真知子がコー吉の奥さんを肩に乗せて居間から出ていく。
「こら。どこぞの金持ち救助隊のまねをするんじゃない。そのバックミュージックはいろいろダメだ!」
親子漫才を聞いて、カー太ン達が苦笑している。




