18-ブドリ君の物語 再び (第2部エピローグに代えて) <『マリアの予言4』はどこへ行った?>
私『ちゃらんぽらん山田』は今年ついにJBS放送をクビになりフリーランスになった。といっても、放送事故製造機と言われる私に他のテレビ局からのオファーはない! 若い頃は、その放送事故にもある程度の需要があった。でも、中年オバちゃんの起こす放送事故は痛々しいと視聴者の不興を買った。飽きられた? 呆れられた? ということで、あ!切られた。仕方が無いからこれまでの経験を活かして文筆業、作家としてデビューしようとした…しかし、なかなか受け入れてもらえない。おばあちゃんの『ざっくばらん山本』は有能だったんだなあ、と改めて思う。ベストセラーを書いて優雅に印税生活、は遠い夢。それでも、おばあちゃんの七光りで、細々と仕事をもらい、なんとか食いつないでいる。
幸いに住むところは確保できている。ブドリ君の家、水田本家の離れをほとんどロハで借りて、息子夫婦と住んでいる。息子ハルキはブドリ君の娘の真知子ちゃんと結婚し、武鳥家の婿養子になった。息子夫婦は0才からの仲良しで、小さな頃からいちゃこらしている。リア充爆発しろ! でも私自身は、結婚はもうこりごりだ。
水田本家はE-EDOの下請けの『秘密インテリジェンス結社クロー(カラス)』の本部である。その仕事は大きな自然災害、地震や疾病などを予想してその対策を関係機関に提供するという至極真っ当な組織だ。私は(元)ジャーナリストとしてその広報活動のお手伝い(パートタイマー)をしている。しかし…、組織名に『秘密』という文言を入れるのは….胡散臭いなあ。中二病の臭いがする。まあ、マリアの予言そのものも客観的にみればかなり胡散臭いもんだからなあ。でも…この組織名は...『命名者のセンスを疑う』、と言っていたら居間で一緒にコーヒーを呑んでいたブドリ君がブンブンと音が出るほどに首肯し同意している。そして命名者は僕じゃない、とアピールしている。
しかし、40年前の大地震の『マリアの予言』、32年前の直下型地震の『マリアの予言2』、30年前の豪雪被害の『マリアの予言3』以来、大きな災害がないので、『マリアの予言4』が出ない。いや、大災害が起こらないのは良いことなのだが….
「いや、おおっぴらにはいえはいないけど、『マリアの予言4』は出しているよ。」
「えっ。聞いていない。」
「う〜んとね。パンデミック予測だったんだ。各国のトップにだけ知らされたんだよ。そして、実際にはそれぞれ大流行になりそうな国や地域での徹底した対策で、大きな被害も出なかったから、まあ『マリアの予言4』は外れた、ということかな?」
「イロイロと面白くないわね。」
「本当に大事になりそうな時は、山田さんにもお教えする予定だったんだけど、ボヤで消し止められたから、まあいっかぁ、って。」
「でも、スクープにしたかったな。」
「『はずれ』予言をスクープとして発表すると、嘘つきになっちゃうよ? それとも大災害を願っているの?」
山田さんはコーヒーを飲みながらしばし考えている様子だ。
「難しいわね、予言が当たるのは残念だしねぇ。でも、予言を活用して『はずれ』にしたら予言の価値そのものが認識されないし。」
「そうなんだ。地震のような防止対策のとれない災害の予言は、出しても出さなくても災害は起こる。でもね、パンデミックのように何らかの防止対策の打てる予言は『はずれ』にできる。 ついでに言うと、その『マリアの予言4』つまりパンデミックの予想とシステムの構築は、ハルキ君が主導したんだよ。知らなかった?」
「あのバカ息子は、母を裏切っていたのか! ムカっ!」
「まあまあ。彼も本当に予言が当たりそうなら、つまり、防止できそうになければ、山田さんに話していたと思うよ。災害の予言は、表向きは当たらないのが一番だよ。」
「まあそうね。」
「ところで、美知子さんは今日はどちらへ?」
「E-EDO本部へ会計収支の報告に言ってるよ。組織の会計責任者だからね。」
「あなたの奥さん、美知子さんは本当に有能ね。子供を2人育てて、もっとも1人は私の子だけど…、組織の会計を担当して、あなたを支えてくれて…」
「うん。美知子の有能さは理解しているよ。あなたも知っているよね。ユーノー(有能)。」
「また、つまらない駄洒落を言って。」
「いやあ。美知子には本当にクロ—(苦労)を掛けています。カラスだけに。」
「本当にあなたの駄洒落はつまらないわね。 でも、この秘密結社は本当に家族経営ね。」
「家族経営というより、家内経営(内職)だね。 あ、もちろんあなたもメンバーのうちだと思っていますよ。」
「広報部長がパートタイマーってどんな零細企業やねん。」
山田さんは腕を水平に振って突っ込んだ。
「もっと規模を大きくする予定はないの?」
「雷鳥国際救助隊みたいに?」
「そう。かっこ良く救助の実務まで行うの。」
「でも、救助の実務は自衛隊や警察や消防や行政で十分だし。 日本の行政は十分に有能だから。 現場で我々の行うことは、せいぜい行方不明者の捜索、それもカー太ンズへの依頼の仲介までだなあ。」
「それこそ絶海の孤島を要塞化して、ジェット機やロケットで…」
「先立つものが、ないんだよ。 トレーシーさんのところは自分のとこの本業、経営している財閥配当の税金対策みたいなもんだしなあ。」
ブドリ君は自虐的な微笑みを浮かべ、コーヒーをすすった。
「今は、このまま…かなぁ。」
とブドリ君はつぶやいた。
「そうだね。人材不足だし。 ハルキ君とこに有能な人材が産まれない限り、この組織も未来はないしね。」
「この組織が潰れたら、『異能集団とマリアの予言』の暴露本を書くわよ。良いよね。」
「ああ、止めないよ。でも、個人を特定できる情報は堪忍してね。」
「あなたが生きているうちは、守秘するけど、亡くなった後の個人(故人)情報は暴露するわよ〜。覚悟しておいて?」
「お〜こわ。できればイロイロばらさないで欲しいけど。」
「何を言ってんの? 物理学者が。 空海さんも『生き生き生きて生の前に暗く死に死に死にて死の後に冥らし』と言ってるわ。死んだ後の心配はナンセンスよ。」
「……そうだな。」
まあ、それが現代日本人の一般的な理解なんだよなあ。
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それから数年後に出版したドキュメンタリー『カラスと秘密結社の予言』は本屋で「幻想文学」の棚に並べられていた。そして、初版で打ち切りになった。 コンチキショウ!




