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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
17-ハルキ君の物語 全5話
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17-ハルキ君の物語<新型感染症の感染拡大の分析> 4


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 「と、いうことで、AIミヤサワクンは。ボトルネックが『感染症パンデミック』だと予想しています。」

 「なにが『と。いうことで』かは良くわからんけども、人類のボトルネックとなる脅威の正体がわかったのかの?。」

 『狭間の世界・賢人会議』は議題に似合わないお花畑の中の円形に並んだ岩に座った賢人達の前ではじまった。とりまとめ役はクーボ先生だ。ここ狭間の世界なら、僕ハルキとミヤサワ君の会話による連携もとれる。武鳥家CIA長官のブドリ君はハブである、情報の結節点ハブであり、ハブセ(仲間はずれ;遠州弁?)である。彼は今、居間で美知子さんとハーブティを飲んでいる。これはどうでも良い情報だ。 後で会議の内容と結果を報告しよう。

 水田本家の居間には僕とブドリ君で作成したA0(ゼロ)版の学会のポスターセッションで使うような2枚のポスターが掲示してある。でも、マジックペンで模造紙に手書きだから小学校の壁新聞みたいだな。資料を直接持ち込めない狭間の世界からも、このポスターは覗くことができる。パワポが使えれば資料の作成はもっと楽だったのに、と思う。今回の話は最新の手法による『未来予測』の説明なので、クーボ先生を含めていにしえの賢人達の多くは聞くだけになるだろう。会議というよりも一方的な説明会になりそうだ。


 「具体的には、細菌性疾患、例えばペストとか炭疽とかかのぅ? それともウイルス製疾患、例えばインフルエンザとか天然痘とか、どっちかのぅ。」

クーボ先生の疑問はもっともだ。

 「細菌性の疾患は、抗生物質の進歩で対処可能でしょう。もちろん、過剰な使用や乱用による耐性菌の発生は脅威になるかもしれません。 それよりもウイルス製の疾患の方が脅威でしょう。最近は抗ウイルス薬も開発されていますが、一般的に使えるようになったのは21世紀になってからです。まだ歴史が浅く、科学技術として成熟し(マチュっ)ていません。」 

 「お〜。ハルキ君はよく勉強しておるのう。えらいえらい。」

クーボ先生が僕の頭を撫でる。

 「先生、今の僕はまだ小学生ですが、ミヤサワ君のおやじとしては、もう100歳をこえてますよ。その子供扱いはいかがなものかと。」

 「これは失礼。でもなその姿ではミヤサワ翁ではなく、ハルキ君として扱いたくなるのぅ。」

まあ、そうなんだろうなあ。僕は苦笑するしかなかった。


 「それでですねえ。近年のパンデミックの傾向を見ると、『普通の風邪』の原因ウイルスが怪しいと思います。SARS(2003) 、H1N1豚フル(2009) 、MERS(2013) 、新型コロナ(2019) 、オミクロン株(2022) などはありふれた風邪ウイルスの変異株です。そして、これらのウイルスに同時に感染するヒトが出ると、ウイルスの交雑の可能性があります。」

 「ふ〜む。『ウイルス干渉』はないのかのう。」

 「細胞レベルでのウイルス干渉はあっても、個体内での干渉は考えにくいですね。まして『同時に2種類の風邪は流行しない』ということは考えにくいですね。 あれも、一つの仮説に過ぎないと思います。2020—2021年にインフルがほとんど発生しなかったのは、新型コロナ対策で、皆が新型コロナ対策として既存のインフルエンザ対策を徹底した効果でしょう。ついでに言えば、あれだけ個人個人が対策しても新型コロナが蔓延したのは、新型コロナにはインフルエンザと異なる感染経路が存在するのだと思います。」

 「その新型コロナの異なる感染経路とは?」

 「インフルエンザは上気道の表皮細胞にのみあるレセプター・タンパクに作用して、細胞に感染します。それ以外の細胞、例えば肺細胞への感染はまれです。一方で、新型コロナは血管内皮細胞のACE2(アンジオテンシン合成酵素)に作用し、感染します。だから、全身症状を起こし、腎臓にも感染し、時には神経系にも感染します。全身の毛細血管経由で感染を引き起こします。」

 「具体的にハルキ君はどのような感染経路を想定しておるのかなぁ?」

 「これは僕の勝手な想像ですが、汗腺かんせんです。汗腺感染かんせんかんせんを疑っています。」

 「駄洒落かの?」

 「僕は真面目です。新型コロナが夏場に感染拡大したのは、汗を介したのではないかと考えています。」

 「汗をかくのは高温多湿の状況じゃろ? インフルエンザの感染拡大しにくい条件じゃな。」

 「2020年夏の都道府県別の感染拡大を追跡すると、そのピークは梅雨の時期と重なります。福岡、大阪、名古屋、東京はほぼ同時期ですね。それに1ヶ月くらい遅れて宮城。そして、札幌では夏の感染拡大は見られません。感染拡大するのは梅雨の時期ですね。しかも感染拡大には湿度とか日照時間と感染拡大の間相関があります。」

 「…ということは、冬場の感染拡大と夏場の感染拡大では機構メカニズムが異なるということかの?」

 「そうですね。」

 「でも、その時の変異種がボトルネックになり得る程のものかどうかの判定はどうするんじゃ? それができないと、警告(アラート)は出せんぞ。誤報だらけになってしまうぞ。」



この部分の詳細については著者の論文をご参照ください。

https://cir.nii.ac.jp/crid/1390287142242472448



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