16-双子と両親の物語<イソフラボン> 4
「また、あの子達、遊びに来ているんですね。」
「ええ。お家から少し距離があるのに、双子そろって、オマケにカラスをつれて遊びにくるのよ。まあうちの子達も嫌がっていないし、そんなに負担でもないし。まあいっかぁ。」
「武鳥家は託児所じゃないのにねぇ。」
「山田さん。あなたがそれを言うの? 今は離れに住んでいるから半同居みたいなものだけど、アパートにお住まいの頃はハルキ君を預けっぱなしだったわよねぇ。」
美知子さんは食卓で紅茶を飲みながら、ニコニコと『ちゃらんぽらん山田』=『ハルキ母』を追いつめている。
「その節は大変お世話になりました。」
ハルキ母はふざけた調子で畏まり、机に手をついて美知子さんに頭を下げた。
「いいのよ。ハルキ君はいい子だったから、全然負担にならなかったわ。今はあの双子も加わって4人で子供部屋や庭でわちゃわちゃ遊んでいるだけだし、全然負担にならないわ。まあ、カラスのエサの豆代は少々負担だけど、4人の子供達も同じ炒り豆を勝手に一緒に食べているし、負担…には思えないのよねえ。 でも、豆ばかりに偏るのは良くないから、何か人間用のおやつも用意しましょうかねぇ。」
「豆はタンパクも豊富で、栄養的には問題ない のでは?」
「それがねえ。大豆にはイソフラボンが含まれているからねぇ。」
「イソフラボン、ってサプリでわざわざ採るような栄養じゃないの?」
「う〜ん。少量なら問題にはならないの。毎日沢山採り続けると問題になるかもしれないの。たしか食品委員会もサプリの許容摂取量基準を定めているわ。」
「え〜? 食べ過ぎは良くないってこと?」
「そうね、まあなんでもそうだけど、偏食は良くないわ。イソフラボンは、女性ホルモン類似作用を持つのよ。だから閉経後の女性のホルモンバランスの調整には有効なの。」
「ふむふむ。そこもっと聞かせて? 記事にするわ。」
「私も専門家じゃないのよ。 え〜とね。『豆類とキノコ類は加熱せずに食べるな』って言うわよね。食中毒の原因になるそうよ。」
「あ、それ、聞いたことがある。ダイエット法でインゲン豆を生で食べた人が大勢食中毒を起こした事件があったわよね。」
「あれは新しいダイエット法としてテレビで紹介されたから、大変なことになったけど。 山田さんも怪しいダイエット法を記事で紹介しちゃダメよ? お腹がピーピーになれば、そりゃ痩せるでしょうが…」
「それは痩せるというよりやつれる、でしょうねぇ。 で、イソフラボンについて、もう少し詳しくおしえてぇ。」
「イソフラボンはね、大豆が自分を食べちゃう動物の生殖能力を奪い、個体数を減らすための天然農薬なの。一時期はやった『環境ホルモン』と同じような作用があると言われているの。」
「それって、サプリとして環境ホルモンをありがたがって食べているってこと?」
「う〜ん、ちょっと違うかな。サプリが必要な人にはイソフラボンは有効なのよ。女性の更年期障害に有効だと言われているわ。でもね、だからといって若い頃から大量に採り続けるのはよくないと思うの。あ、この話しは学生時代の耳学問だから、記事にするなら必ず裏を取ってね。」
「もちろんよ。ニュースソースが『武鳥美知子さん、ペーパー薬剤師』じゃ弱いから、どこかの大学の先生に詳しくお聞きするわ。でも、あたりを付けておかないと先生に質問すらできないじゃない。」
「あら、酷い。情報提供料とるわよ。」
「それはおやつ作りの手伝いで…」
「「あははは」」
『ガー』
「あら、カラス達も人間用のおやつを食べたいって。」
「美知子さん、あなたカーリンガルだったの?」
「違うわよ。ノリよノリ。多分そんなことを言ってるんでしょう?」
おやつのホットケーキを二人で作りながら、取材という名の雑談は続いた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「お母さん達、また駄弁っているね。」
「ハルキ君ママはお仕事モードっぽいけどね。」
「いや、美知子ちゃんママもよく勉強しているよ。イソフラボンの是非についてはまだ決着のついていない問題だけどな。でも『体に良い』という断片的な情報でやたらと過剰に食べるのは、間違いなく、良くない。」
「ハルキさんは、なんか、よく知っているよね。」
「ヨー君はこんな話しに興味があるかい?」
「うん。」「僕も興味がある。」
「そうか。そしたら今夜寝てから『狭間の世界』でゆっくりレクチャーしよう。」
「ま〜た。私を置いてあの花畑で3人で遊ぶ相談をしている! ぷんぷんだわ。」
「遊ぶんじゃないよ。勉強会だよ。 真知子さんにもあとでじっくりとレクチャーしようか?」
「いやよ。面倒くさい。 あ、甘い匂いが漂って来たわ。 ホットケーキね。そろそろ手を洗いましょう。」
「「「は〜い。」」」




