16-双子と両親の物語 <ご挨拶> 3
「ピンポ〜ン♪」
「はーい!」
お客様だ。だれだろう? カー太ンズが騒いでいないので、危ない人ではないようだ。扉を開けたところ、見たことのない顔に傷のある男の人と、私たちより少し若い女の人が並んで立っていた。その後ろにはうちの真知子とハルキよりも少し小さい子供が2人立っていた。顔がそっくりだ。双子かな?
「え〜と。どちら様でしょうか?」
「昔、武鳥さんご夫婦に助けていただいた者です。」
これまでにブドリ君は何回も人助けをしている。でも私たち二人が一緒に助けたことは数えるほどしかない。一生懸命に思い出そうとしていると、女の人が答えてくれた。
「私は20年ほど前の一家心中事件で助けていただいた者です。」
あ〜思い出した。でも、判らないはずだ。私はあのとき事件現場に入らせてもらえなかった。だからこの人と顔を合わせるのははじめてだ。
「私はその前に林の奥で死にかけていたのを助けていただいた者です。憶えていらっしゃいますでしょうか?」
あー、あの頭を打って窪地で倒れていた子だ。こちらは顔を憶えている。でも、ちらっとしか顔を見ていないし、大きな傷に目が行ってしまい、思い出せなかった。私は彼の顔を見たことがあるけど、彼の方は意識不明だったから私の顔を見たことはないだろう。でも、カー太ンズは憶えていたようだ。だから全然騒がない。すごい相貌認識能力だ。そして記憶力だ。それだけではない。あれから20年以上も経っている。それに従い彼らの顔も変わっているだろうに、それを織り込んで認識できるとは、カー太ンズの個体識別能力はどれほど高いのか? カラスに悪さをすると、いつまでも恨まれると言うけど、納得だ。子供の頃に悪さをして、大人になってから仕返しされることもありそうだ。
双子の子供達はうちのカラス達に手を振っている。カラス達も器用に羽根を振っている。またコイツらは妙なリアクション芸を憶えて…。
「は〜い。えっと汚いところですがお上がりください。 あなた〜。お客さまよ?」
私は私室で本を読んでいるブドリ君を呼び出した。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
お二人のつれて来た双子はお行儀が良い。居間の椅子にちょこんと腰掛けている。でも、『死神夫妻』や『血まみれ夫婦』案件の昔話を聞かせるには幼すぎる。席を外させよう。子供部屋でいちゃついている真知子とハルキ君に相手をさせよう。
「え〜と。お子様達はうちの子達と子供部屋の方で遊んでいて頂きましょうか?」
「はい。そうですね。すみません。」
私は双子を二階の子供部屋へと案内した。その後、居間に戻るとブドリ君が嬉しそうにお二人と歓談していた。」
「そうですか。偶然とはいえ、お二人が結婚されていたとは驚きました。」
「ええ。彼女が一人になった後、うちの母が引き取りました。その後兄妹の様な関係だったのですが、彼女が大学を出た時に逆プロポーズされて結婚しました。」
あ、赤面した奥さんがダンナさんを肘で小突いている。ブドリ君が嬉しそうだ。私もにまにましてしまう。
「そうですが。それで、今日は?」
「先日、うちの母から我々二人とも、武鳥さんに助けられた、という話しを聞いて、一度お礼とご挨拶をしなければ…という話しになり、厚かましくもお伺いしました。お忙しいところ突然失礼しました。」
「いいえぇ。たずねて来ていただいてこちらも嬉しいです。あの後、どうなったか知ることもできなかったので、特に嬉しいですよ。」
ブドリ君が心のそこから嬉しそうだ。私も彼らが無事に大人になり、幸せな家族になっていることをお聞きしてとっても嬉しい。
「武鳥さんのお宅は『カラス屋敷』と聞いていたので、すこしビビっていたのですが…」
「まあ、カラス達は、話せばわかりあえるので。」
「そうなんですか?」
「あら、でも息子さん達も玄関先でうちのカラス達と挨拶していましたよ?」
と私が指摘すると、ご夫婦は首をかしげていた。
「お宅の双子ちゃんもカラスの言葉がわかるカーリンガルかもしれませんね。」
とブドリ君が笑いながら言うと、お二人は顔を見合わせてさらに首をかしげていた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
二階の子供部屋では真知子とハルキ君と双子が旧交を暖めていた。
「あら! お久しぶり。あなたたちは前にハルキの住んでいたアパートにへばりついていた子達ね? あの後、ミヤサワ君にちゃんと『狭間の世界』へ送り届けてもらえた?」
「ミヤサワ君って、あの緑のとんがり帽子のおじいさん?」
「そうそう。 それで? 」
「狭間の世界でしばらく過ごした後、クーボ先生だったかな?のお勧めでお姉ちゃんの子供として生まれ変わったんだ。今は幸せに過ごしているよ。」
「それは良かったわねえ。 ハルキ? 彼らのこと憶えている?」
「ああ、憶えているよ。まだ僕が乳幼児だった頃に同じ部屋にいたよね。」
「その節は長らくお邪魔しておりました。」「ご迷惑をお掛けしておりました。」
「なんもなんも。迷惑なって掛けられてないよ。むしろ、あなた方がいたおかげで、アパートの家賃が安くなっていたって、僕の今世の母が感謝していたよ。」
「え〜っと。お兄さんも生まれ変わった人ですか。」
「うん。前世はこの家のブドリ君の曾祖父だったよ。真知子は前世で私の奥さんだったんだ。普通は直ぐにまた現世に戻るらしいけど、僕らは亡くなってからかなり長い間『狭間の世界』に留まっていたんだ。そのためなのか、前世も『狭間の世界』もよく憶えているんだ。君たちも前世を憶えているみたいだね。」
「実は、前世はよく憶えていないんです。死んだ後、あの部屋で二人でじっと留まっていたのは憶えているのですが…。」
「そうか。『狭間の世界』のことは?」
「それはよく憶えています。」
「興味深いねえ。前世の記憶や『狭間の世界』での記憶を維持するための条件はまだ良くわからないんだよ。 あっ!そのことをご両親には?お話ししている?」
「言っていません。」
「うん。言わない方が良いだろうね。 君らは他に何か能力を獲得していないかな? ほら、例えば現世に残っている霊魂が見えるとか、カラスとおしゃべりできるとか、眠ると狭間の世界にいけるとか…」
「はい。その三つは二人ともできます。」
「そりゃ驚いた。 三つともできる人…生きていてできる人をはじめて見た。僕は眠っている時に『狭間の世界』を訪れることはできるが、霊魂は見えないし、カラスとの会話もアプリオリ(先天的)にはできなかった。真知子は霊魂が見えるし、カラスと会話できるけど、『狭間の世界』には行けない。」
「あら、それは違うわよ。私はカラスの言葉をカー太ンのお母さんの幽霊から習ったの。最初から判った訳じゃないわ。」
「へえ?そうなの? 僕、誤解していたよ。 まあ、とにかく先の三つの能力を同時に持っている人をはじめて見たよ。」
子供部屋で4人はわちゃわちゃと親交を深めていた。




