16-双子と両親の物語<双子の異能> 2
「ねえ、あなた、またあの子達、庭でカラスと遊んでるわ。あなたが庭に豆を撒くからカラスが寄って来るんじゃない?」
妻は庭に炒り豆を撒く私の行動を奇異に思っているらしい。
「うん。豆を撒くのは…正直言って恩返しのつもりなんだ。僕は子供の頃にカラスに助けられたんだ。」
「あら、それ初耳だわ。」
「ほら。僕の額の傷だけど、昔、小学生の時に裏山の崖で転落した時にできた怪我の痕なんだよ。頭を打って死にかけていた僕をカラス使いのカップルが助けてくれたんだ。 カラスが僕を見つけてくれて、ギリギリのところで助かったんだそうだよ。だからカラスは僕の命の恩人?恩鳥なんだ。」
妻は僕の顔の傷をやさしく撫でながら、微笑んだ。
「そうだったのね。」
となりでひなたぼっこをしていたおばあちゃん=夫の母が補足して来た。
「そうなのよ。あの時は本当に肝が冷えたわ。夜中、警察や消防団の人と探しまわったのに見つからなくって。もう生きた心地がしなかったわ。 でもね。翌朝早朝に中学生のカップルが林の奥の崖でこの子を見つけてくれたんだって。その子は、ほら隣街の有名なカラス使いの、え〜とブ、ブ、ブ」
「武鳥さん、だよね。」
「そうそう、武鳥さん! 彼が学校に朝行く途中でカラスが騒いでいたからってこの子を見つけてくれたの。もう感謝しかないわ。」
「本当ですね。カラスが騒いでくれなかったら、私もこの人と私も出会えなかったんですね。」
「そうだね。この怪我で恋人がいなかったのも塞翁が馬だね。」
「うふふ。」
「そう言えば、あなたもその武鳥さんに助けられたのよ。」
「えっ? それ初耳です。」
「え〜と、もう言っても良いのかな? 嫌なことを思い出させたらゴメンナサイね。もう20年も前のあの事件のとき、あなたに救命処置をしたのが武鳥さんなのよ。宮澤医院の大先生から聞いたわ。」
「….知らなかった。」
「私も後から聞いたんだけど。異変に気づいて、中学校から飛んでいったそうよ。カラスがあのアパートの屋根で大きな声で鳴いていたって。それで当時中学生だった武鳥さんが人工呼吸と心臓マッサージであなたを助けたって、大先生が言っていたわ。弟さん達は残念だったけど。あなただけでも助かってよかったわ。…息子と結婚してくれて、こんなにかわいい孫にまで恵まれて….。」
おばあちゃんはそこで涙ぐんでハンカチで目を拭っていた。
「そうなんですね…。私たちは二人とも武鳥さんとカラスに命を助けられたのですね。」
「それでね。その後、宮澤医院の大先生が武鳥さんを『婿に迎えたい』と患者さんにふれ回っていたわ。でも、結局、武鳥さんはお医者にならずに今は研究所勤務らしいわね。それと、武鳥さんの奥さんは宮澤医院の娘さんよ。」
「「へ〜ぇ。」」
「そうそう。その奥さんのお兄さんの宮澤医院の若先生がカラスを使って行方不明者を探す方法を開発して、10年前と20年前の地震の時や、この間の大雪のときに人命救助や行方不明者の捜索で活躍したそうよ。だから、隣町ではカラスは神の使いみたいに大事にしているらしいわね。」
「じゃあ、我が家で豆を撒いても問題ないですね。」
「そうね。隣町ではカラスがゴミあさりどころか、野良犬や野良猫がゴミをあさるのをやめさせているそうよ。共存共栄だわね。」
「そう言えば、うちの近所のゴミ捨て場も荒らされないわ?」
「あら、まあ。カラスがまもってくれているのかもねぇ。」
「ありがたいですねえ。」
「ありがたいわねぇ」
「カラスはうちの福の神なのね。 じゃあ、私も豆を撒きましょうか? でも節分みたいね。福は内 って言うと良いのかしら?」
「そうだね。カラスが鬼を追い払い、福を運んでくるのかもしれないね。」
「でも気をつけなければいけないわ。あまりたくさん豆を撒くと、カラスが『ガー』(もったいない)って叱るらしいわ。」
「「「あはははは」」」
3人は笑いあいながら双子がカラスと遊ぶ様を眺めていた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「おばあちゃん、判っていないね。」
「ね〜。さっきの『ガー』は、「もっとよこせ」なのにね。」
「ね〜」
二人のおしゃべりを聞いていた双子のカラスのクー介とクー太はうんうんと頷いていた。




