16-双子と両親の物語 <双子と両親> 1
「「お姉〜ちゃん。行ってきま〜す」」
「コーチャン、ヨーちゃん、気を付けてね。それから、お姉ちゃんじゃなくて、『お母さん』でしょ〜。」
うちのお母さん(お姉ちゃん)は毎朝、小学校の正門までお見送りに来てくれる。まだ小学校低学年とはいえ、過保護ではないかなぁ。でも、お母さんが送ってくれるのは嬉しい。 若いお母さんはなんか誇らしい。
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今朝も玄関先で手を振って送り出すつもりだったのに、小学校まで送りに付いていってしまったorz。まだ小学校低学年だからとはいえ、自分でも過保護かなと思う。でも、自分の手の届かないところへコーチャンとヨーちゃんの双子を送り出すのは不安である。危ないことはないだろうか?怖いことは起こらないだろうか? そう思うと漠然とした不安に苛まれる。まだ弟達を失った時の恐怖を拭いきれていない。
私は自分の息子達を自分の弟達の生まれ変わりだと信じている。だから弟達の名前にちなんだ名前を付けた。お義母さんや夫は「少々縁起が悪くないか?」と言うが、この名前は私の弟達、いや子供達を二度と不幸な目に遭わせないという私の誓いだ。二度と私より先に逝かせはしない。そんな事態になったら自分の命を捨てても子供達を守る!
「双子が私をお父さんと呼ぶのに、お前をお母さんではなく『お姉ちゃん』と呼ぶのは何でかな? お前が若々しくてかわいいから、お母さんよりお姉ちゃんの方がしっくり来るのかな?」
と夫は笑いながら言う。
「そんなことないわよ。私ももう三十路よ。若々しいなんて…女房をほめて何かおねだり?」
私も笑いながらそれに答える。誓って言うが、私は双子に「お姉ちゃんと呼べ」などと言ったことはない。むしろ、呼ばれた時はいちいち「お母さんと呼びなさい」と訂正している。それにもかかわらず、双子はほぼ無意識にわたしのことをお姉ちゃんと呼ぶ。もしかしたら双子は本当に弟達の生まれ変わりなのかもしれない。
私は今とっても幸せだし、家族が幸せであってほしいと心から願っている。
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「またお姉ちゃんって呼んじゃったね。」
「うん。仕方がないよね。無意識にそう言っちゃうんだから。」
「しかたないかな?」
「しかたないね?」
双子は手をつないで小学校の生徒通用玄関の下駄箱の前で話をしていた。二人は見た目も顔もそっくりで、顔だけでは見分けがつかない。同級生はもちろん、先生たちにも見分けがつかない。イタズラで名札を交換されると間違いなく迷う。だからどちらかが悪さをすると、先生は名前を呼ばずに名字か、「双子っ!」とまとめて呼ぶ。
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夫も二人のどっちがどっちか見分けがつかないらしい。夫の場合は深刻である。名字で呼ぶわけにはいかない。どちらかがイタズラをしているとき、「双子!」とか、「コーヨー」とかまとめて呼んでいる。
就寝前の家族団らんの時間に4人でコタツに入ってボーッとテレビを見ている時に夫に聞かれた。私たちはテレビの対面に二人並んで座っている。双子はそれぞれ側面に入っている。
「どうやってお母さんは双子を見分けているの?」
「あら、あなたは見分けがつかないの?」
と聞くと、困ったような顔をして、
「冷静な時は見分けられるんだけど。叱らなきゃならないときなんかは、頭に血が登ると、上手く見分けられなくなる。」
「あらまあ。」
「あきれないでよ。どうやって見分けているのか教えてよ。」
「教えてよ…っていわれても、わかるからわかるのよ。それがお母さんなの。」
「生まれたての時のように、足の裏にマジックで『ヨー』『コー』って書いておこうかな?」
「ダメよ。叱るたびに靴下を脱がして足の裏を確認するの? おっかしいの(笑)。 それにね、それ、昔やったんだけど。幼稚園でカタカナを憶えてから、コーちゃんが自分の『コー』に横線を足して『ヨー』にしていたわ。 お揃いが良いんだって。」
「何だそれ。じゃあ着るもので区別するとか…。」
夫は笑いながら提案した。
「あの子たち、服を交換するから無意味よ。今もパジャマのズボンを交換して上下違う色にしていたでしょ。元々はコーが上下とも緑で、ヨーが上下とも青だったのよ。」
夫は額に手をあてて天を仰いだ。
「う〜ん。頭がコンガラガッチだな。打つ手なしだな。」
「もっと子供達を良く観察して頂戴? 判るようになるわよ。」
「そうだろうけどねえ。…双子の親は大変だ。」
夫が困っている様子を見て、私はクスクス笑った。
今日も1日幸せだった。この幸せがずっと続くと良いのに。
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うちの両親は仲良しだ。今も居間のコタツの中でいちゃいちゃしている。
「ねえ、またお父さんとおね…お母さんがいちゃいちゃしているよ。」
「仲がいいのは良いことだよ。邪魔しないで放っておこう。」
「でもね、僕たちがいるのに、少しは遠慮してほしいな。あ、抱き合っちゃった。わ、キスし始めた。」
「しっ。指摘しちゃダメ。見ないふりしておかなきゃ。でも。このコタツやたら暑いな。」
「ちょっと早いけど、もう子供部屋に撤退するかぁ?」
「そうだね。これ以上暑くなると、のぼせちゃう。」
「おとうさん、おかあさん。お休み〜。」
「おう。お休み。」
「おやすみなさい。」
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「正直って、あの二人、俗にいうバカップルだよね。」
「何か古いなぁその表現。リア充の方が良くない?」
「アハハ。 『爆発しろ!』ってか? そっちも古いぞ?」
「あはは。 『わしもそう思う。』」
「何それ? 誰のまね?」
「狭間の世界でクーボ先生にいつも同調していた主体性のない3人の博士のまね。 ほら、突然がばちょ〜っ てでてきていた人たち。」
「えっと、僕、よく憶えていないや。」
「まあ、ヨーちゃんは、あっちにいた頃はまだ赤ちゃんだったからねえ。」
「えー。コーちゃん、何かずるいなあ。」
「だって、狭間の世界では僕が4才年上だったし。」
「でも今は同い年だよ。」
「何か、ややこしいね。」
「うん。ややこしいね。」
「ふぁ〜ぁ。眠くなって来た。お休み。」
「僕も眠くなって来た。お休み。」




