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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
15-山田さんの物語 全4話
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15-山田さんの物語<真知子とハルキ> 1

 うちのハルキは武鳥さん家の真知子ちゃんと仲良しだ。『竹馬の友』という言葉があるが、それ以前の0才、赤ちゃんのころからのお友達だ。いや、ハルキは赤ちゃんの頃からしょっちゅう真知子ちゃんの家に預けていたから、ほとんど姉弟のように育った関係だ。 今日も早朝から武鳥の美知子さんのところに幼稚園の息子を預けにいく。

 「いつも 朝も早よからスミマセンねぇ。」

 「いいえぇ。気にしないでね。ハルキ君といると真知子も暴走しないから有り難いのよ。それに、ハルキ君いい子だから。全然負担じゃないわ。 将来うちの婿にもらえないかしら?」

 「どうぞどうぞ。もらってください。なんなら今日からでも。 …ついでに私ももらって(下宿させて)いただけませんか?」

 「「アハハハハ」」

お母さんの美知子さんとも良好な関係を築けている….と思う。

 「それじゃ、行ってきます。 今日は午後昼一番組のレポーターですから、なにもなければ17時にはなんとか戻ります。それまでハルキをよろしくお願いします。」


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 山田さんは出戻りで、一人でハルキ君を育てながら、テレビのレポーターをしている。ママさんレポーターとして地方局で活躍している。一人でお仕事と子育ては大変だろう。…さっきの「下宿」も半分本気じゃないかしら。

 朝、幼稚園へ送り出した子供達が、手をつないで帰って来た。二人にお昼ご飯を食べさせて、テレビをつける。

 「ほーら、ハルキ君。 ママがテレビに出ているよ。」

ハルキ君と真知子と私でテレビを見る。でも、二人はなにか自分たちのおしゃべりに夢中で、テレビなんか見ていない。  あ、山田さんがセリフを噛んだ。しゃがみ込んじゃった。 あ〜あ。放送事故かな? 始末書作成で帰りは予定よりずっと遅くなりそうね。


 「「あはははは」」

子供達がテレビを指差し声を揃えて笑っている。ハルキ君? お母さんの失敗だけをめざとく見つけて笑うのは趣味が悪いよ。お母さんも一生懸命やってるんだからね。真知子も笑うのを少しは遠慮しなさい。 でも、あのミスはもう『お笑い芸』の域だわね。堂に入っているわ。

 さて、今日のおやつはホットケーキでも焼こうかしら。ハルキ君には夕ご飯も食べさせてあげなきゃね。夕飯は何にしようかな?


 「おかあさん。ハルキと外へ遊びにいってくる。」

 「どこ行くの? あまり遠くに行っちゃダメよ。」

 「お地蔵さんのとこ。」

 「わかったわ。おやつまでに帰ってくるのよ。」

 「わかった。」


 「カー太ンズ、見守りをお願いね。」

 『クワ〜』

カー太ンズにもホットケーキを焼かなくっちゃね。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 今日もやっちまった。あきれ顔のディレクターに叱られた。でも、まあ、最近は私の失敗を楽しみに番組を見ている人もいるそうな。「ハラハラドキドキ感がたまらない」ってさ。…失礼な。明日の生中継は失敗しないぞ。今日も少し?予定より遅くなるって、美知子さんにメールしなきゃ。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ハルキさん。最近やけに熱心にお地蔵さんにお参りしているわね。」

 「うん。お前みたいに息子夫婦とおしゃべりをしたいんでな。一生懸命お参りすれば、能力を獲得できないかな、と思って。」

 「ハルキさん。理恵子さんたちが苦笑してるわよ。 でも、ハルキさんは寝ている時に『狭間の世界』に行けるんでしょ。」

 「うん。クーボ先生たちとイロイロ議論しているよ。」

 「まだなんか議論するネタがあるの? よく飽きないわねえ。」

 「飽きるもんか。あの人は博覧強記だしなあ。わしも『狭間の世界・賢人会議』のビジター・メンバーになれたし。」

 「自分だけ世界を広げて、ずるいわよねえ。理恵子さんもそう思うでしょ? また今世でも私を置いてきぼりにするつもり? その上霊魂まで見えるようになりたいなんて、まあ、なんて強欲なのかしらねぇ。」

 「それが科学者の性なんだよ。知れば知るほどもっと知りたくなる。できることが増えればもっと能力が欲しくなる。」

 「今はただの幼児でしょ。」 

 「うん。違いない。 でもね、だから偽装も大変だ。うちのおかあさんたちを騙すのは大変だ。」

 「美知子さんもだけど山田さんも勘が良さそうだからねえ。 さあ、そろそろお家へ帰りましょ。ホットケーキの甘い匂いがするわ。 カー太ン達も帰りましょ♪。」

 『カ〜♪』


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ただいま。」

 「お帰り。」

 「疲れたぁ。真知子はもう寝た?」

 「うん。今日はハルキ君もお泊りみたいよ。 あなた、視えるヒトなんだから、そんなにつかれた〜、つかれた〜って言っていると、憑かれちゃうわよ。」

 「それは嫌だな。」

ブドリ君は私の駄洒落に苦笑した。よし。今日もまず一勝、いや一笑かな?


 「…山田さんとハルキ君は順調に我が家を侵略しているみたいだな。」

 「あら、ハルキ君が気に入らないの? あんなにかわいくていい子なのに。 もういっそのこと、山田さんごと下宿させちゃおうかしら? アパートの家賃も高くなったそうだし、うちも離れが空いているし。」

 「う〜ん。『庇を貸して母屋を取られる』という言葉もあってだな…」

 「このまま行けばどうせ真知子とハルキ君はくっつくでしょ?」

 「真知子は嫁にやらん!」

 「あら、山田さんはハルキ君を婿養子にくれるそうよ。それなら良いの?」

 「…疲れている時にあまりその話しは考えたくないな。でも、ハルキ君が婿養子に来るとしても、…マスオさんって大変そうだな。」

 「それはお地蔵さんとこのおじいちゃん(婿養子経験者)に聞いてみたら?」

 「う〜ん。リアルな話しになって来ちゃった。もうやめよう。ご飯食べさせてちょ〜だい。」


 「はいはい。 今日はお好み焼きよ。デザートに残り物のホットケーキもあるわ。」

 「…えーと。なんかすごい組み合わせだな。粉ものに粉ものをかぶせるそのセンスは、正直…すごく…すごいねえ。」

 「お義母さんたちも、「斬新ねぇ、エライこことするなあ」ってほめてくれたわ。」

 「エライことする…ねえ…. 美知子には勝てないな。…僕、本当に美知子と結婚してよかったと思っているよ。 あ、でも二種類を重ねないで。お願いだから別皿にして。 洗い物を増やしてごめんね?  …ホットケーキにソースはかけないでね。それはアバンギャルドに過ぎる。あとね、お好み焼きはマヨネーズとダシ醤油でお願い。」

 「はい、はい。 青のりはいる?」

 「青のりは要らないけど、削り節は欲しいな。」



仲良し夫婦の夜はふける。


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