13-美知子さんの物語 5 <ちゃらんぽらん山田>
結婚式にまで時を遡る。
参列者の中に中学校の同級生らしき女性が一人いた。私は彼女を呼んでいない。
「あれ、あの人、誰だっけ?」
「え〜と、どの人?」
「ほら、あの隅っこで料理をぱくぱく食べている女の人。ブドリ君は誰かわかる?」
ブドリ君は彼女の顔を見ると、顔色を変えた。
「あれれぇ? おっかしいなぁ。 ブドリ君どうしちゃったのかな? 顔色が悪いよ?」
からかい口調でブドリ君に問うも、心の中は穏やかではない。あの子がブドリ君の元カノじゃないかと疑惑が生まれた。まさか今でも続いてはいないわよね? 結婚披露パーティに誰を呼んでんのよ?
「あ、あれは、同じ中学の…山田さんだよ。」
「私、中学時代にあの子とそんなに仲良くなかったけど…」
「僕もそんなに仲良くなかったけど。」
「じゃあ何でパーティに呼んでるのよ。それになぜ直ぐに名前がでてくるのよ? 元カノ? 元カノなのね!」
私はブドリ君を睨み上げた。
「ご、誤解だよ。元カノなんかじゃないよ。」
「じゃあなぜここにいるの。あなたが呼んだんでしょ?」
「う、う、う、うん。」
「歯切れが悪いわね。結婚式でもう離婚協議?」
「いや、だからそんなんじゃないよ。」
「はっきり言いなさい。」
ブドリ君は目をそらしたまま、冷や汗をかいている。何か隠しているな?
「降参。降参です。正直に言いますから離婚は許してください。」
「早く言いなさいよ。」
「去年の例の地震の後の捜索活動の時に、彼女がテレビ取材で来ていて、身ばれしたんだ。」
「それがなんで彼女をパーティに呼ぶ理由になるのよ?」
「そのとき、正体を、秘密を放送されたくなかったら、披露宴に呼びなさい、って言われたんだよ。」
「あきれた。脅かされたの?」
「う〜ん。脅かされた、って言うより強く頼まれた?」
私はあきれ顔で新しい夫の顔を見た。そんな話しをしていると、その山田さんがこっちが彼女を気にしていることに気がついたのか、ニコニコしながら私たちの所にやってきた。思わず身構える。 こら! ブドリ君、私を置いて逃げようとするな。私は彼の白い上着の裾をきっちり握って立ちあがらせなかった。
「宮澤さん、武鳥さん、今日はおめでとうございます。」
「「ありがとうございます。」」
二人、声を揃えて型通りの挨拶を棒読みで返す。
「今日は少し強引にパーティへ参加させていただいて、ごめんなさいね。」
あやまるくらいなら、押し掛けるな。
「本当にお久しぶりですね。楽しんでいってください。」
と大人の対応をする。表情とセリフがマッチしていない。
「予想通りとはいえ、すごい数のカラスですね。」
「アハハハハ」
とブドリ君。笑いながらコメントを流す。
「あまり新郎新婦を独り占めにすると、他の方の迷惑になりますから、今日はこの辺で失礼します。 ブドリ君、またね?」
とりあえず、嵐は去った。
「ブドリ君? 彼女、『またね』だってさ。新婚家庭に押し掛けるつもりかしら。」
「そうでないことを祈ろう。」
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
それから1年半は山田さんの襲撃もなく、私も無事平穏に娘を生むことができた。山田さんを呼び寄せるような大きな地震の知らせもなく、平和な日々を送っていた。




