表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
13—美知子さんの物語 全5話
63/94

13-美知子さんの物語 4 <娘の誕生>

2回休んでごめんなさい。

夏ばててました。

頻脈発作と軽い不整脈で,心臓がモケモケしました。

恋かしら?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 「さあ、あなた。ひ孫達(=ブドリ君と美知子さん)の結婚式も覗いたことだし、そろそろ上がりませんか?」

と狭間の世界で、ブドリ君の曾祖父母、つまり真子さんの祖父母、したがってミヤサワ君の父母が話をしていた。

 「まあ、そんなに急ぎなさんな。お前がお風呂で死んでからワシは長くチョンガーだったんだぞ。せっかくここで合えたんだから、もう少しここでお前との時間を過ごしたい。」

 「だから、私はここで長いことあなたのことを待ってたんですよ? それに、そんなこと言っていると、上がりそびれちゃいますよ。」

 「それにしても、わしらのひ孫同士が結婚するとはなあ。」

 「本当に、ねえ。」

 「なあ、お前、今度生まれ変わってもワシと結婚してくれるか?」

 「そんなの約束できませんよ。それに…」

 「それに?」

 「何でもありません。さあ、あなた、私はもう上がりますよ。おいてっちゃいますよ。」

そして私は光に包まれ、狭間の世界から消えていった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 月が満ちて、私(美知子)は娘を産んだ。ブドリ君と私の娘だ。ブドリ君は産後の私の手を取って、

 「ありがとう」

とジャガイモ顔をくしゃくしゃにして、涙を流して、お礼を言った。

 「どういたしまして」

とそれに負けないくらいくしゃくしゃの顔で私は答える。我ながらつまらないストレートな返事だ。ユーモアーもウイットもペーソスもない。でも、私は疲れ果てた顔で、化粧もなくぼろぼろで、ペーソスの固まりみたいな状況だろう。

 そんな私たちを見て、産婦人科の先生も、助産師さんも、看護師さん達も疲れた顔で苦笑している。記憶がないのだけど、私、分娩時に何かやらかしたかなあ。手足に痣があるのはなぜだろう?

 でも、本人はいたって嬉しい。疲れているけど嬉しい。娘を抱けることがひたすら嬉しい。娘にお乳をあげられることが、ひたすら嬉しい。授乳の様子をじっと見ているブドリ君に、

 「エッチ!」

と言ってみた。彼は顔を耳まで赤くして、後ろを向き、うつむいた。ウフフ♡


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 私は記憶を失わずに、この世に生まれることに成功しちゃった。しかも自分の玄孫になっちゃった。これは長いことあの狭間の世界に留まっていた効能かもしれないねぇ。人間の場合、長い妊娠期間の間に胎児は生前の記憶を失うらしいわ。まあ、あの狭いところで9ヶ月?も身動きのままならない状態で閉じ込められて、正気を保って引きこもっていられる訳が無いわよねぇ?


 狭間の世界では現世に生まれてくることのできなかった自分の孫のアーちゃんをかまい倒せたわ。平穏で楽しい日々だったなぁ。あ〜しあわせだった。最後の方でジーさんはちょっと邪魔だったけど。ま〜いっかぁ。 真理子さんとの約束で、アーちゃんを真子さんの息子、ブドリ君として生まれ変わらせるために、狭間の世界からなかなか上がれなかったわ。狭間の世界はいいとこよね。離れがたかった。  そんなことをベビーベッドの中で考えていると、ジーさんはまだ現世に生まれて来てないっぽいことに気がついた。ま〜いっかぁ。


 真理子さんの生まれ変わりの真子ちゃんは、水田に婿養子に行った息子の娘として現世に産まれた。なんでそんなジャガイモ息子の娘になろうとするのかねぇ? 狭間の世界では「ジャガイモだ」と息子のことを下げていた真理子さんのくせに、その娘になって自分にジャガイモが遺伝することは考えなかったのかしらねぇ?  彼女もやはり長く狭間の世界に留まっていたためか、生前の記憶、狭間の世界で学んだことを憶えているようだわ。それを活かして仕事のできる女になっちゃった。でも、仕事ができると婚期は遅れちゃう。初産が35才を過ぎると高齢出産になっちゃう。大丈夫なの?とアーちゃんとハラハラしながら狭間の世界から覗き見ていたのよ。そのうちにジーさんもこの狭間の世界にやって来て、二人でアーちゃんをかまい倒した。真子ちゃんが急転直下で武鳥家の嫁になった時には、本当ぉ〜にほっとした。さすができる女は思いっきりが良くて決断も早いわねえ。早速アーちゃんを上げて、真子のもとに私らのひ孫として送りだしたわ。


 さて、ということで、狭間の世界でのミッションをコンプリートした私はジーさんと一緒に上がろうとしたんだけど、ジーさんは

 「まだ上がりたくない。もっとお前とこの美しい狭間の世界でのんびり老後の日々を送りたい。」

と、駄々をこねた。そう言えば、社会的には「先生」と呼ばれていたこのジーさんも家では甘えん坊さんだったわね。もう少し付き合うことにしたわ。

 でも、ジーさんはこの狭間の世界で私ではなく、久保先生、ん〜真理子ちゃんや息子にここでいろいろ教えてくれた人、の所に入り浸り、『人間の存在意義とは』とか『昨今の異常気象の原因』とか『この狭間の世界の存在』とか、何かやたらと難しい話しを議論している。ちょっと、私もかまいなさいな。一緒にここで過ごしたいと、上がるのを引き止めたのはあなたでしょ。 本当に学者という人種はわがままで社会の常識からずれている。

 さっさと上がるわよ。置いて行くわよ! もう!


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 しかし、自分の玄孫やしゃごとして生まれ変わるとは…ひ孫の娘になるとは予想外だった。ところで、狭間の世界に置いて来ちゃったジーさんはどこに生まれたのかしら? 完全に見失っちゃったわ。まあ、いっかぁ。縁があったらどこかで…きっとまたあえるでしょ。会えなかったら、その時はその時。スッパリ諦めましょ。私がしゃべれるようになり、意思の疎通ができるようになったら、お地蔵さんになった息子に狭間の世界を覗きにいってもらいましょう。ジーさんたら、まだ狭間の世界に居残っていたら怒るわよ。


 赤ん坊の生活は快適だ。 泣けばご飯もおしめも察してもらえる。

 「ンギャ〜」

ほら、美知子ママがおっぱいをくれる。母乳は思ったよりも甘いわね。美知子さん、ダイエットに変な人工甘味料を使ってないわよねえ? でも、幸せな味だわ。

 「フンギャ〜」

ほら、おしめを替えてくれる。あ〜さっぱり。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「フンニャ〜」

 「ハイハイ、真知子ちゃんどうしたの?」

 「フンニャ〜」

 「おかしいわねえ。おっぱいでもおしめでもない。」

 「フンニャ〜」

 「困ったわ。」

美知子ママを困らせるのは本意ではないのよ? 早く気がついてちょうだい。

 「どれどれ貸してごらん?」

ブドリ君が私を抱っこする。ゆらゆら揺らす。そう、これよ、これ! 私は眠いの、でも抱っこしてもらわないと不安で眠れなくて寝グズリするの。

 「フニフニ」

「あ、寝そうだ。」

 「寝グズリだったのね。」

 「…」

おやすみなさい。明日もよろしくね。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「(小声で)寝たわ。」

 「(小声で)うん。」

寝室で僕は美知子ママと顔を見合わせ、微笑む。

 「真知子ちゃんはどんな人生を送るのかしらね。」

 「わかんないけど、僕らにできる範囲で幸せにしようね。」

 「あら、『僕が真知子ちゃんを幸せにします』って宣言しないの?」

美知子ママが僕を揶揄ってくる。

 「僕が幸せにするのは美知子ママだけだよ。そんなムスメ・ラブ宣言はしないよ。」

憮然とした顔で僕は返事をする。

 「そんなこと言って、嫁に出す時には泣くくせにィ。」

悪い顔で美知子ママが僕を畳み掛けるように揶揄ってくる。

 「真知子は嫁にはやらん!」 

 「ウフフ」

 「もう寝るよ! おやすみ!」

 「はい。おやすみなさ〜い♡」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ