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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
12-ダイクボ先生のの物語 全5話
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12-ダイクボ先生の物語 <3Eのトリレンマ>

 このまま教授室でダイクボ先生と議論? 一方的な講義になっているけど、をしていても教授の仕事の邪魔になる。実際、教授の目が『迷惑だ』と語っている。僕はダイクボ先生に拉致されて、大学の傍の大きな机のある喫茶店に移動した。

 指導教授は、

 「いいか。あまりホラ話に引き込まれるなよ。マッドな科学者に引きずられると、キミみたいな、今のところは真っ当な科学者の卵もマッドな科学者になってしまう。要注意だぞ。」

と、忠告してくれた。しかし、自分の祖父のマッドな研究内容には興味がある。…血筋かな? 


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ブドリ君、3Eのトリレンマを知っているかね?」

 「いいえ。存じません。」

 「3Eとは、エネルギー、エコノミー(経済)、エコロジー(環境)のことじゃ。この3つに関わる問題は解決が困難であると言われている。あっち立てればこっち立たずになる。」

 喫茶店でコーヒーを頼む前に、講義が再開してしまった。

 「先生、先に何か注文しましょう。コーヒーで良いですか? すみませ〜ん。コーヒーを2つお願いしま〜す。」

喫茶店のお姉さんが苦笑いしている。この喫茶店は時間外のゼミなどにも使われるため、このようなコーヒー一杯で、大声で議論する先生や学生にやさしい。でも、このダイクボ先生の笑い声は許容範囲内だろうか?


 「3Eのトリレンマが何かはさっき話したっけな。その矛盾無き解決は、人間社会の問題の解決そのものじゃ。持続的な発展の鍵じゃ。どうすれば良いと思う?」

 「う〜ん。わかりません。」

 「簡単じゃよ。どれか一つを徹底的に解決すれば良い。 圧倒的なパワーじゃよ。無限のエネルギーを獲得すれば、人間社会の諸問題は全て解決できる。ワッハッハッハッハ。」

うーん。確かに学会のペテン師だ。学術じゃなく本気で人間社会をどうにかしようと企んでいる。


 「でも、祖父のエネルギーのリサイクル計画は中断したんでしょ?」

 「残念ながら、キミのおじいさんの死により中断した。残念なことじゃ。大きな声では言えないけどな、わしは彼の死に疑問を持っている。若くして亡くなられた。わしは彼の研究を妨害したい者による暗殺ではなかったかと疑っている。」

ダイクボ先生、全然大きな声ですよ。大きな声で言ってますよ。

 「そんなバカな。おじいちゃんは体が徐々に弱って亡くなったと母からは聞いています。」

 「キミのおじいちゃんは一級いや特級のマッドサイエンティストじゃった。それゆえ孤高の人じゃった。それゆえ、狙われやすかった。集団で研究を進めていれば、プロジェクトを中断させるためのターゲットを絞りきれない。しかし、ミヤサワ先生の場合、彼を排除するだけで実際にプロジェクトは消え去ったのじゃよ。 人を弱らせる毒などいくらでもある。『ノビチョん』のような暗殺用のリン酸系の神経毒は、一度ドーズすれば数年かけてその人を殺すことができる。」

恐ろしいことを聞いた。聞いてしまった。しまったと思った。

 「変死なら、解剖で明らかになるのではないですか?」

 「司法解剖で簡単にわかるような毒なら、暗殺には使われんよ。 それにな、彼の仕事が有形無形の妨害を受けていたことは、明白じゃ。彼の最初の発表論文は投稿後2週間でacceptされたにもかかわらず、電子版への掲載までに9ヶ月もかかっている。おかしくはないか? 通常あの論文誌の場合、accept論文は電子版への掲載まで平均2週間、どんなに遅くても1ヶ月以内じゃぞ。どう考えてもおかしいじゃろう? おそらく、石油メジャーとか、某天然ガス帝国とか、アラブの石油王とか、彼のエネルギーのリサイクルの研究は目障りだったんじゃろうな。 もし、キミのおじいちゃんの仕事が兵器産業などの基盤になり得るものなら、キミのおじいちゃんはいろいろな権力に守られたじゃろう。しかし、キミのおじいちゃんの仕事はそのような軍事転用の可能性の低いものだった。それもミヤサワ先生の悲劇の原因じゃろう。」

うん。おかしい。このオヤジの話しは、どうしても陰謀論にしか聞こえない。世間に出回っている陰謀論の多くはこのようなこじつけがましい状況証拠の寄せ集めと推論に重ねた推論により構築されているのだろう。僕はまだ客観的におじいちゃんの死を見ることができている。それに、お地蔵さんのところにいたおじいちゃんは、そんな話しどころか、自分の研究についても僕に一切話していなかった。


 「しかしな、キミのおじいちゃんの価値は、わかる人はわかっておった。だからこそ、キミのおじいちゃんを復活させるためにキミの母親の『ミヤサワクン計画』、つまり人工人格のAIによる構築計画をE-EDOで行うように乗ったんじゃよ。」

ここで、陰謀論に真子ママも絡んで来たゾ。

 「でも、人工人格の運用前にキミの父親のブドリ氏と結婚してしまい、計画は良いとこまで行ったそうだが、出産育児で完成とまでは行かなかったようじゃ。マッドサイエンティストの再現はできなかった。人工人格は常識的な真っ当なサイエンティストにしかならなかった。人工人格研究の後を継いだブドリ氏はキミの母親に比べ真っ当すぎたようじゃな。ワッハッハッハッハ」

母親も父親もまとめてディスられた(?)。僕はこのダイクボ先生とは合わないと思う。でも、このワッハッハ親父が、祖父をリスペクトしているのは本当のようだ。


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