11-コー吉の物語 <緊急カラス救助隊>
「良いかい? けが人や病人や弱っている人を見つけたら『ガー』って鳴いて知らせる。」
『ガー!』
コー吉が一声鳴いてから、コクコクとミヤサワのお兄ちゃんの言うことに頷く。
「状態の悪い人の場合は片方の羽根を上に上げる。ハンドサインだな。」
コー吉が「わからない?」というように首を傾げる。
「状態が悪いというのは…死にそうな人だな。」
と説明しつつお兄ちゃんが右手を上げる。コー吉が「理解した」トいうように、コクコクと頷き右の羽根を上に上げた。
「それで、死んでいる人を見つけた時は、両方の羽根を横に広げて頭を下げてください。」
と説明しつつお兄ちゃんが両腕を水平に伸ばして頭を下げる。コー吉が実際に両方の羽根を水平に伸ばしてみせる。クックロビン音頭ならぬカラス音頭のポーズだな。
「そうそう。上手上手。じゃあ、死にそうな人の時は?」
コー吉が右の羽根を上に上げる。
「すごいすごい。完全に理解しているよね。これで『緊急カラス救助隊』設立の野望に一歩近づいた! 後は実践投入したいな。」
僕コー吉は最近暇になったので、ミヤサワのお兄ちゃんにお付き合いするようになった。ミヤサワのお兄ちゃんに付き合うと、節分で撒く煎り大豆をくれる。餌で釣られるのは少し業腹だが…まあ、いっかぁ。おいしいし…。
ブドリさん家の庭のウッドデッキでトレーニングは行われていた。二人?一人と1羽の様子をブドリ君とカー太ンがベンチに座って眺めている。
「さすがにミヤサワのお兄ちゃんは医学部に行っているだけあって、救急にコー吉の能力を使いたいようだねぇ。」
『カー(そのようだね)』
そこにお兄ちゃんとコー吉もやって来る。
「コー吉はすごいねえ。ハンドサインもすぐに憶えちゃった。でも悔しいなあ、僕もブドリ君くらいに意思の疎通ができれば、コー吉にトリアージを教えられるのに。」
「トリアージ?」
「そう。患者やけが人や病人を現場で4段階に分ける作業だよ。色の付いたタグで表示するんだよ。黒は死亡者、赤はすぐに手当をしなければ危ない緊急性の高い人、黄色が手当を必要とする人、そして、緑が緊急性の低い人だね。 カラスにタグを持たせてトリアージさせると、災害時の医者の負担を大きく減らせそうだ。 でも、一般論としてカラスはどうやって弱っている動物や死んだ動物を見つけるんだろう?」
ミヤサワのお兄ちゃんのズボンの裾をコー吉が嘴で加えて引っ張っている。豆のお代わりを催促しているようだ。お兄ちゃんがお皿に豆を継ぎ足す。
ブドリ君とカー太ンは顔を見合わせた。重症者や瀕死の人の魂が抜けかけているという話しを、ミヤサワのお兄ちゃんにするのは問題だ。いろいろと危険だ。コー吉やカー太ンだけでなく僕まで興味を持たれてしまう。
「え〜と。村山のおばさんも意思の疎通が上手だそうだから、おばさんに聞いてみたら…」
と丸投げアドバイスしていたら、…お兄ちゃんがコー吉につつかれていた。
「いてっ。痛いって。ごめんよ。豆をデッキの板の隙間に落としたのは悪かった。もっとあげるからつつかないで。」
『グワ〜!(もったいない!)』
「お兄ちゃん、コー吉が「もったいないことするな!」って。」
僕たち4人?二人と2羽は笑いあった。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
ブドリ君が高校2年の時に発生した大地震では、ミヤサワのお兄ちゃんがうちの県の救助隊にコー吉とボランティアで参加し、遺体捜索に協力した。先発派遣ではなく後発の派遣だったため、遺体捜索しかできなかったことをお兄ちゃんは悔しがっていた。しかし、カラス救助隊が行方不明者の捜索に有効であることは『マリアの予言』とともに、近隣県の消防や防災の上層部に認識された。それが8年後の『マリアの予言2』のときに、ブドリ君とカー太ン、そしてコー吉達カー太ンズの早期派遣につながった。




