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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
10-カー太ンの物語 全9羽
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10-カー太ンの物語 <マリアの正体>

 「初めまして、JBS放送の山田です。今日の救助活動お疲れさまでした。」

 「いや、昨日今日だけではなくその前日の夕方から深夜まで捜索活動を手伝っていました。」

ジャブが帰って来た。この受け答えに失敗すると、インタビューがうなくいかない。

 「それは…本当にお疲れさまでした。」

 「いいえ…私にできることをしただけです。」

 「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 「え〜っと。武鳥です。珍しい名字ですから特定されやすいので、この場だけにしてください。インタビューは放送するのですか? その時は『ピ〜』をかぶせてくださいね。後、僕の顔はモザイクを掛けてくださいね。声もわからないようにヴォイス・チェンジャーを掛けてください。よろしくお願いします。」

ブドリ君はニコッと笑顔でそんなことを言った。このジャガイモ顔には見覚えがあるぞ!


 ここで、消防のお偉いさんが口を挟む。

 「彼のことについて、ここで聞いたことで彼を特定できないようにしてください。また、取材内容や放送に使う映像等は事前にこちらの方でチェックさせてもらいます。」

おっと、行政による取材介入、取材制限がかかったか? 横にいる消防団のボスが少し驚いた顔で偉いさんの顔を見ている。何でこんなに彼の正体を隠そうとするのか? ますますブドリ君=『マリアの予言者』疑惑が深まる。


まずは場をほぐさなければ、

 「武鳥さんは学生さんだそうですね。」

 「はい、大学院で物理学を専攻しています。」

 「それは…頭が良いのですね?」

 「いえ、並みです。」

まだ対応が硬い。でも、苦笑を引き出せた。苦笑でも笑いは笑いだ。場を緩めることができた…と思おう。次は動揺をさそって、一気に畳み込む。


 「カラスとお話していましたよね。」

と核心に突っ込む。

 「え〜っと…」

ここで、私の中で『死神』とブドリ君がつながった。完全に思い出した。このジャガイモ顔は間違いない。同じ中学の同級生のブドリ君だ。『死神夫妻』の片割れだ。間違いない。一気に畳み込もう。私の地元も地元、おな中だった。

 「え〜と、おな中のブドリ君かな? 『死神夫妻』の」

ブドリ君ががたっと立ち上がった。

 「ななな…」

 「『血まみれ夫婦』とも言われていたわよね。」

ブドリ君は顔色を悪くして、机の上にばったり倒れ込んだ。頭が机にぶつかり、ゴチンと大きな音がした。あれは痛そうだ。


 「え〜っと。山田さん? 同じ中学だった山田さん? 僕の正体はくれぐれもご内密に。」

 「いやねぇ。カラス使いだということで、あなたじゃないかと疑ってたんだわぁ。私もジャーナリストの端くれとして情報提供者のプライバシーは守るわよぉ。」

 「ほんと? 本当によろしくね。」

ブドリ君の震える声を聞き、ここは責めどころと判断した。

 「音声さん、映像さん、この先はプライベートなことばかりになるし、カメラとマイクを止めて。」

 「いや、でも。」 

 「どうせ放送できないのよ。それにカメラとマイクを止めれば本当のことを聞き出しやすくなるわ。 それに、私が彼の正体を知っているから、今後につなげやすくなるわ。」

あっ、カメラもマイクも意外に素直に止めてくれたわ。ブドリ君がほっとしながら苦笑しながら身構えている。器用ね。消防団のボスと消防署のお偉いさんは気配を消して壁際にたたずんでいる。

 「ブドリ君? 宮澤さんとはまだつながっているの?」

 「うん。来年就職後に結婚する予定だよ。」

 「それはおめでとう。披露宴に呼んでくれる?」

ここで無理矢理でも将来につなげるぞ。


 「う〜ん。お金がないから、多分立食パーティになるけど、それでもよければ。」

よし。将来につなげた。ここでもう一つの大事なネタを確認するためにカマをかける。


 「それでね、ブドリ君。 『マリアの予言』はあなたね。」

死神の首に鎌をかけるとは、私の方がよっぽど死神っぽいわね。私が彼の正体を知っていることを知らせるように断言してみた。ブドリ君が完全に凍り付いた。

 「ナナナ…」

お前はせんだみつおか…


 「なんで?」

 「ブドリ君の駄洒落がわからないわけがないじゃない。 ほら、マリア・カ…」

 「他人の駄洒落の解説はルール違反だよっ!」

ブドリ君がかぶせるように言う。ここで、かまをかけていたことを匂わせる。緊張と緩和を繰り返すことで、彼の心を揺さぶる。

 「そっか〜。マリアって言うから予言者は女の人かと思い込んでいた。」

 「くれぐれも、くれぐれもご内密に。」

お代官様と言いそうに、机の上に頭を伏せてその頭上で両手をあわせて懇願してくる。完全にマウントをとったど〜。

 「そうか〜。動物は地震予知するって言うもんね。ましてカラスとお話しできるブドリ君なら、イロイロ聞き出せるか…。」

ブドリ君、もう息をしていない。

 「じゃあ今日のインタビューはここまでにしましょう。ブドリ君もお疲れのようだし。 ブドリ君? 今度おうちへ、お二人のところ?へお邪魔するわね。宮澤さんによろしくね♡」

私は椅子から立ち上がり、ふと思い出したように振り返って一言付け足した。

 「そうだ、ブドリ君。次の地震の時。『マリアの予言3』は、真っ先にわ・た・し・に教えてね。スクープになるわ。お願いね♡」

もうブドリ君はぴくりとも動かなかった。


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